守りたい未来④
「ライル……」
気持ちを確かに魔力に込めれば、母さんの唇は微かに緩んだ。
時間を遡るように、最近の出来事から過去の出来事へと思いを馳せる。
そして一番、最初の出会いを思い出したところで、胸の奥からふわりと魔力が溢れ出した。
「多重詠唱。空間の理をねじ曲げ、彼の者の架け橋を創り出せ――ブリッジゲート!」
俺の声が厳かに響き渡る。
転移魔法と空間魔法を同時に詠唱し、発動させることは極めて高度だ。
莫大な魔力が必要なため、魔力切れや制御不能のリスクが極めて高い。
神業的な難易度。
本来なら発動させること事態、困難な魔法だけど、天使として覚醒したからか、容易くできた。
「母さん、行こう!」
「ええ!」
俺は母さんの手を取ると、まっすぐ前を見据えて言った。
「ミカエル兄様、ヴァイル様、ごめん。俺たちは、どうしてもアナスタシア様たちを救いたいんだ!!」
「えっ? ちょっと――」
ミカエル兄様の声を振り切るように、俺たちは魔法で別の場所へと移動した。
ミカエル兄様の意識が逸れている一瞬の隙を突いて、転移魔法と空間魔法を同時に使って逃走する。
天啓のような思い付きだったが、何とかなったらしい。
混乱しそうになる頭を叱咤しながら、周囲を見渡す。
たどり着いた先は、グランジ家の屋敷から少し離れた場所だった。
「グランジ家の屋敷が見えるな」
「どうやら、少し離れた場所に移動したみたいね」
俺の言葉に、母さんが穏やかに微笑んだ。
無我夢中で魔法を使ったからか、少し座標がずれてしまったみたいだ。
さすがに、ここだと目立つので、屋敷の方へと移動する。
その間、ミカエル兄様が現れることはなかった。
だが、不意を突いたとはいえ、俺たちがいる場所は察知されているはずだ。
慎重に歩を進める必要がある。
澄んだ空気をゆっくりと胸に吸い込んで、先程の出来事を呼び起こす。
『もしかして、ヴァイル様はダナー商会の者なのか……?』
『はい。その通りです』
先程のヴァイル様の言葉が、微かに尾を引いて消える。
ヴァイル様が、ダナー商会の者だったなんて……。
恐らく、スタン様はそのことに気づいていない。
だけど、ヴァイル様はどうして森の調査を行う依頼を出したのだろう。
思考が堂々巡りをする。
だけど、すぐに情報が足りない、という考えに行き着いた。
「母さん、アナスタシア様たちの身が心配だ。グランジ家の屋敷に戻って、状況を確認しよう」
「そうね。急ぎましょう」
俺の提案に、母さんは噛みしめるようにうなずいた。




