守りたい未来③
「ザナフェル様、今までのご無礼をお許しください」
「えっ? ヴァイル様、どうしてここに?」
跪いて臣下の礼を取るヴァイル様に、俺は目を見開いた。
不穏な空気に、息が詰まる。
さらに疑問を投げかけようとした俺は、はっとする。
『グランジ公爵家の当主様か。『瘴気に犯された森を救ってほしい』。確か今回、ギルドに依頼をしたリンクス領の領主様とは懇意の間柄だったはずだ』
リンクス領で出会ったローゼンさんの言葉が蘇る。
スタン様とは懇意の間柄。
スタン様が信用するに足る人物。
それってつまり、ヴァイル様はダナー商会の者で、ミカエル兄様と協力関係だったということになる。
だから、ミカエル兄様は容易に俺たちを王宮に連れてくることができたのだろう。
俺はようやくその事実に行き着いた。
「もしかして、ヴァイル様はダナー商会の者なのか……?」
どうにかやっと紡げた言葉はひどく月並みで。
これでは駄目だとわかっているのに、それ以上の言葉が出てこなかった。
「はい。その通りです」
「なっ!?」
悪い方向で誤算だった。
ヴァイル様は『瘴気に犯された森を救ってほしい』とギルドに依頼を出していた。
それにスタン様や冒険者さんたちを支援していた。
だから、ダナー商会の者だと思わなかった。
だけど、実際は……。
胸に寄せた手に、心臓の鼓動が強く打ちつけている。
「そんな……」
ヴァイル様の言葉を聞いて、母さんも困惑しているみたいだった。
だけど、俺の混乱を、母さんが半分背負ってくれたおかげで、少しだけ落ち着きを取り戻す。
(決して変えられない過去があっても、償い切れない罪過があっても、俺にはそばにいたい人たちがいる)
揺るぎない願いを胸に、俺はうつむきそうになる顔を上げる。
(今、俺ができることは……ミカエル兄様の不意を突いて、ここから脱出すること!)
難題だが、やるしかない。
俺はぐっと覚悟を決める。
ダナー商会は、俺たち天使には絶対服従していて、ミカエル兄様の命令には忠実に従っていた。
そして陰から操り、世界の転覆を企んでいる。
気を抜くことはできなかった。
(転移魔法と空間魔法。どちらかじゃない。どちらも使わないと、ここから脱出できない!)
王宮からグランジ家まで、座標計算をするしかない。
一瞬でも躊躇えば、ミカエル兄様に阻止されてしまうだろう。
ルリア様に初めて、演奏を披露した時のことを思い出す。
『ルリア様は、俺が必要であると言ってくださるのですか?』
『うん……!』
ルリア様の言葉は、想像をはるかに越えた優しさに満ちていた。
もっともっと、小さく無数にある感謝を込めて。
願いを込めた魔力は、わずかでも熱が届いていますように。




