第25話 ザ・海の家
なんと連日投稿。でも明日は無理。マイペースに更新します。
8月2日。
僕は人生で初めてとなるラブコメでは定番の場所―――ザ・海の家で昼食をとっていた。開放的な雰囲気の中、陽キャに囲まれながらの食事はなかなかハードな体験で‥‥‥。
そんな中、鏡原さんが、「焼きそばも食べたい」と言ってきた。僕の手元を凝視している。
「えっ―――!? えっと‥‥‥もう一つ買ってこようか?」
「そんなにいらない。私のたこ焼き一個あげるから一口食べさせて」
僕の提案を一蹴した鏡原さんが、「あ~ん」と声を出し口を大きく開けた。
突然のことに驚いた僕は思わず、「―――げっ!?」という変な声を漏らしてしまう。
「はぁん!? なに? げってなに? げって‥‥‥こんな美人を捕まえて―――」
「いや、違うから‥‥‥ちょっとびっくりして」
「じゃあ、ほら」
不満げな鏡原さんがもう一度口を大きく開けた。恋人同士のような振る舞いをする目の前の黒ギャル。
たぶん揶揄っているだけなんだろうけど、このまま時間をかければ周囲の生温い視線は確実に増えるばかりで。
「わかったから‥‥‥」
早々に諦めた僕は焼きそばを箸でとり鏡原さんの口へと運んだ。
「‥‥‥はぁふぅ、はむはむ―――美味しい」
「そ、そう‥‥‥まあ、海の家の定番だから」
たぶん僕の顔は茹ダコみたいに真っ赤で、初めて日焼けしていることに感謝した。
「よし、泳ご!」
食事を終えると鏡原さんがガッツポーズで言った。
クールなイメージだけど思ったより似合っている。
それにしても予想はしていたけど、「はい、そうですか」と言って簡単に引き下がるわけにはいかない。だって僕は保護者だから。
「ダメだって、見つかったら退校処分になるかも」
「今さら?」
「一度泳いだからって次も大丈夫なわけじゃない」
「あんた自分の顔を鏡で見てないの? 誰が見たって海水浴客かジモピだから」
「なっ―――!」
自覚はあったけど‥‥‥やっぱり。
先にご馳走様をした鏡原さんが海の家を飛び出した。
「ちょ、ちょっと―――」
待ってくれよ鏡原さん。僕はおごるって言った覚えはないんだけど。急いで会計を済ませ海の家を出ると、まさかの光景が飛び込んできた。
大人っぽいビキニ姿の鏡原さんはビーチでも一際目立つ存在で、その周りを大学生くらいの3人の男子に取り囲まれていた。
明らかにナンパ目的で、話かけられている鏡原さんの表情はまんざらでもなさそうだ。昨夜の食堂での出来事が思い起こされる。
僕は危うさのようなものを感じてしまい慌てて鏡原さんの傍へ駆け寄った。サンダルが両方脱げて足の裏が火傷しそうに熱い。
「あ、待ってよ。アッ、アツ、熱チ―――」
「あんた裸足でなにしてんの」
「いや、だって‥‥‥熱つ、熱っつつつ―――!」
もも上げ運動のようにして足裏を灼熱の砂地から交互に離し、素早く鏡原さんの腕を取って後ろへ引っ張った。
「ちょっと、痛いって‥‥‥」
「いいから、こっちに‥‥‥っち、熱ち、熱ちちっ!」
サンダルが脱げた地点まで離れると、3人組の男子の1人が、「ちぇ、彼氏いたのかよ」と言って背を向けた。他の男子も残念そうにして離れてゆく。
その様子に安堵しつつサンダルを履くと、鏡原さんに手を振り払われた。
「彼氏か」
鏡原さんがこっちを睨みながら言った。僕も負けじと言い返す。
「保護者です」
「ぷっ‥‥‥あはぁ、あははは」
ナンパされるのを邪魔されて、てっきり怒ると思ったけど‥‥‥そんなに笑うかな。
「あんたメチャ焦ってて、本当の彼氏みたいで‥‥‥ふ、ふふふ」
「彼氏いるの?」
自然と口を衝いて出た言葉に自分でも驚いた。僕は彼女のことを知りたいと思っていた。
「初めてじゃない? そんな質問するのって。もしかして私に興味持ったとか―――」
「ち、違うし! 鏡原さんが本当の彼氏みたいって言うから‥‥‥」
「ひゃくさきはいるの? 彼女とか」
「それは‥‥‥」
一瞬の間があって―――鏡原さんは僕をおいて駆け出していた。
海の方へ一直線。あれだけ泳がないって言ったのに、今日も彼女を追いかけて泳ぐごとになった。
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