第24話 ハイビスカス
久しぶりの更新です。
夜の点呼の時間。
鏡原さんが隣に座ってきた。
驚いて横を見れば無言で睨まれた。食堂での僕の振る舞いに腹を立てているのだろうけど、あのまま見過ごしていれば、取り返しがつかなくなっていたと思うのだけど。
でも、本当は鏡原さんにとってはあんなことは日常茶飯事で、彼女のことを何も知らない僕はただただ余計なことをしただけなのかもしれない。
「な、なに?」
「‥‥‥」
もの凄い圧を感じて思わず隣へ声を掛けると、普通に無視された。
「はぁ~い、みんなお休みなさ~い」
嫌なプレッシャーの中、Fクラス担当の武波さんのほわほわとした点呼が終わった。みな一斉に席を立つ。人知れず冷たい汗をかいていた僕が少し遅れて席を立つと、隣の鏡原さんはまだ椅子に座っていた。こっちの顔を見上げるようにして呟く。
「保護者か」
「なっ‥‥‥、そ、そうだよな、やっぱり余計なお世話だったかな。ごめん」
「っ‥‥‥」
鏡原さんと出会ってまだ一週間しか経っていない。この合宿で彼女と会話しているのは職員を除いて僕だけで、だからなのか少し仲良くなった気がしていたんだけど‥‥‥結局のところ気のせいみたいだ。
素直に謝ると鏡原さんの目が少しだけ見開いた。
机をバンと叩くようにして鏡原さんが立ち上がった。その勢いに押されるようにして後ろに下がると、「邪魔」と言ってから彼女は足早に部屋から出ていった。
翌朝。今日から8月だ。
1コマ目の授業は英語。教室はほぼ満席で、それなのにボッチ属性のサガなのか、僕の隣は空席だった。そこに授業開始のギリギリの時間になって誰かが座った。
ふわっと良い匂いが漂ってきて、思わず横目で見るとジト目とぶつかる。
「なに?」
「‥‥‥か、鏡原さん」
昨日の今日で、てっきり怒っているものと思ったのに‥‥‥いや正確には隣の黒ギャルは機嫌が悪そうで‥‥‥。
本当によくわからない人だ。鏡原さんがそうなのか、思春期女子がそうなのか、そこに妹の思考パターンを照らし合わせてしまって―――僕の頭の中はカオス状態だった。
授業が始まると隣の席から机の上をすべるようにしてノートが差し出された。
真っ白なページのすみっこに何か走り書きされている。どうやら僕に読めということらしい。
「行かないから」
内容はビーチへのお誘いだった。小声で返すと鏡原さんは椅子を動かして体を寄せてきた。
「知らない男にナンパされるかも」
「ついていかなきゃいいだろ」
「保護者だろ。いいの?」
鏡原さんはこっちを挑発するように不敵な笑みを浮かべていた。
あんなに怒っていたのに、なんなら今も不機嫌そうなのに、なんで僕を誘うのかが全く理解できないし、つまるところ彼女が誰にナンパされようと関係ない訳で。
「勉強する気ないくせに」
「そんなことない」
「嘘。周りと真剣さが違うから、バレバレ。昼は海の家で食べよ」
鏡原さんがワザとだろうけど首を傾げてウインクした。いつもの人を寄せ付けない雰囲気とのギャップがあって、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまう‥‥‥。
ふと気配というか殺気みたいなものを感じて周囲に視線を巡らせれば、本気で勉強を頑張っている生徒たちの迷惑そうな顔がこっちに向けられていて―――いたたまれなくなった僕はついつい、
「‥‥‥泳がないなら」
と返してしまった。
すると、これまたワザとだろうけど鏡原さんが破顔一笑ってやつなのか、満面の笑みを浮かべた。初めて見る彼女の表情。それはまるで常夏の島に咲くハイビスカスのように鮮やかで、ものすごく眩しくて―――まっすぐに見つめられると僕の心はいつになくざわついた。
「じゃあ、後で」
「えっ!? 授業は?」
「気分じゃないから。あっ、そうだ連絡先―――」
「いま? ちょ、ちょっと待って‥‥‥」
授業そっちのけでスマホを操作して鏡原さんとメッセージアプリで繋がった。
彼女はそのまま後ろの方から教室を出ていった。
残された僕が授業に集中することができなかったのは言うまでもない。
久しぶりの更新で、「ブクマお願いします」なんて言えない‥‥‥。




