第22話 放っておけない理由
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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予想外の寄り道の結果、「もうどうにでもなれ」という投げやりな気持ちでビーチにやって来た。島といってもリゾートホテルがあるのでそれなりに混んでいる。
海の家で買ったばかりの水着に着替え、鏡原さんが出てくるのを待つ。
頭に手をやるとチクチクする感触。伸び放題の髪をばっさりと切り、さっぱりしたという気持ちはあるんだけど、やっぱり後悔のほうが大きくて自然と溜息が漏れた。
スポーツ刈りっていうのは、その名の通りスポーツに適した短めの髪型であって、運動部じゃない僕からすれば丸坊主と大差ない‥‥‥。
しばらくすると海の家から黒いビキニ姿の鏡原さんが姿を現した。
近くにいた男性の視線が一斉に彼女へと向けられる。ギャルな見た目が妹と似ているくらいの印象だったけど、この時になって初めて鏡原さんがものすごい美少女だということに気が付いた。
少し離れていたせいか、鏡原さんは周囲に視線を巡らせ僕を探し始めた。
右手を軽く上げると目が合う。小走りで近寄ってくる彼女。その胸のふくらみが大きく揺れ、慌てて目を逸らした。
「帰ったのかと思った」
「さすがに黙っては帰らないよ」
髪まで切ったんだ。いや切らされたの間違いだ。だから、ここで帰ったら床屋に散った僕の髪の毛が報われない。
「よく似合って、っぷ」
「あの、鏡原さん・・・・・・言えてないから」
鏡原さんは手のひらで口許を覆い隠し、必死に笑いを堪えようとしていた。
床屋を後にしてから、この反応はもう何度目だろうか。どうやらツボに入ったらしい。
そんな彼女に文句の1つでも言ってやろうかと思ったんだけど、 せっかく打ち解けた雰囲気になれたので、それはそれで―――まあ、いいかな。
「ガン見するな」
「あっ、ご、ごめん」
油断していると男の性というやつで、ついつい鏡原さんの胸に目が向いていた。
彼女が大人っぽい水着を購入したのは知っていたけど、まさかここまで破壊力があるとは‥‥‥。
謝罪するとこんどは向こうが僕の体をガン見してきた。
「陰キャっぽい感じだけど、意外と鍛えてるじゃん」
「そう、かな?」
謙遜なんかじゃない。運動部の男子と比べれば圧倒的に見劣りすることはわかっていた。妹を寝取る過程で司令塔の満月さんに筋トレを指示され、それはいつしか日課になって今に至る訳で。
「何部?」
「帰宅部」
2年生に進級した春ごろの自分と比べれば、体つきは明らかに違うと思う。
最近はオーバーワーク気味で、そのせいもあってか細かった肩回りに筋肉がつき、腹筋は少しだけど割れていた。
他人目線で、「鍛えてる」なんてことを言われると少し、いや、めちゃくちゃ嬉しい。
「その体つきと髪型―――あと真っ黒に日焼けしたら海の男を名乗れるから、ぷっ―――」
「絶対バカにしてるよね?」
「本気だって。それに予備校生だとバレないくらいにはこの場所に馴染んでるから」
そう言うと鏡原さんはこっちに向かってサムズアップ。そして海に向かって駆け出した。
この離島合宿に知り合いはいないし、予備校の関係者がビーチを巡回していたとしても彼女の計画通りバッサリと髪を切った僕のことをわかるはずがない。
慌てて後を追いかると、素足の裏が熱々の砂に取られてバランスを崩す。
なんとか波打ち際へたどり着いたその頃には―――鏡原さんの姿は沖に向かって本気で泳ぎ始めていた。
当然のことながら陰キャな僕は海やプールなんて場所には縁がなくて、だから泳ぎは得意じゃなかった。
腰の辺りまで海水に浸かったところで立ち止まり遠ざかる彼女の姿をただ眺めていた。
―――他人なのに、知り合ってまだ日が浅いというのに、どうして彼女のことを放っておけないのだろうか
鏡原さんの姿を見失わないよう目で追いながら考えた。
ギャルな見た目が妹と似ているから? いや、違う‥‥‥たしかに既視感を覚えたのは事実だけど、彼女のまとう雰囲気は明らかに陽キャな妹とは違っている。
僕の妹は自分のやりたいことに正直で、いつも全力で前に向かて進んでいる。兄から見ても眩しい存在で、でも鏡原さんはどこか危うい―――見ていて不安になるんだ。
最初の印象は悪かった。今は笑顔を見せてくれるようになったけど、その顔にもどこか陰りがあって‥‥‥。
たぶんあの時、僕が断っていたとしても彼女は門限を破って1人でアイスを買いに行ったと思う。
今日だって同じで1人で海に―――そう考えると赤の他人のはずなのに、でも関りを持った人だから、何故だか放っておけなくて不安な気持ちが押し寄せてくる。
際限がないかのような藍色の沖に向かって遠ざかる鏡原さんの姿。
その背中に思わず大声で呼びかけていた。
「か、鏡原さ~~~ん―――!」
泳ぎが得意なんだろうけど、それでも少し陸から離れすぎている。
こっちの不安をよそに気持ちよさそうに泳ぐ彼女は、僕の声が届くと前進するのをやめ立ち泳ぎで振り返った。
「ひゃくさき~~~! ほら、早く!」
―――嗚呼、こんなことならもう少し水泳の授業を真面目に受けておけばよかった
まったく泳げないわけじゃない。真水と海水の浮力の違いは常識なんだ。
底が透き通って見える水面に思いきって顔を浸すと、自分でも無様とわかるクロールもどきで知り合ったばかりのギャルを追いかけた。
夜の点呼の時間。
全身の脱力感と日焼けした肌の痛みに満身創痍の僕がいた。
「あんな奴いたか?」
Fクラス中がざわついた。
こっちとしては早く部屋に戻って寝たいんだけど。
「ほら、ヤンキーギャルをアイスでナンパしてた―――」
「ああ、いたけど、えっっっ、あいつ!? 髪型違くねー」
「日焼け?」
「もう火傷だろ、痛そう‥‥‥」
いきなり短髪になるし、おまけに全身が日焼けを通り越して火傷みたいに真っ赤で。
Fクラス担当の武波さんが手元の資料と僕の顔を交互に見比べている始末。
人相が変わりすぎて、もはや別人なんじゃないのかと・・・・・・。
「は~い、点呼はおわりで~す。あっ、みんなぁ~お願いだからルールは守ってねぇ~海では絶対に泳がないように~」
クラス中の視線が自分に突き刺さったのは言うまでもない。その間、下を向いていることしかできなくて。
なのにFクラスで唯一のギャルだけは、素知らぬ顔でそっぽを向いていた。
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