第15話 既視感とモヤモヤと
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
最近、日間ランキングに返り咲き(数日)ました。皆様のお陰です。読まれるってうれしです。
モチベーション維持のために評価・感想を頂けると大変嬉しいです。あとブックマークをお忘れなく。
フェリーの進んでいる方向に小さな島影が見えた。
あれが目的地の離島だろうか?
真っ黒い小さな点だったものが次第に緑色の塊になる。それは程なくして大きな島の形となり、フェリーが着岸すると思われる港がはっきりと姿を現した。
想像していたよりも建物が多く、端の方に広がって見える真っ白な砂浜には多くの人影が確認できた。
乗客の多くは同年代の参加者に見えたけど、そのほかに大学生やら社会人それに家族連れの姿もあった。
案内のパンフレットを見る限り、僕が寝泊まりする場所は古い宿泊施設を改装した建物みたいだけど、もしかしたら島の反対側にはリゾートホテルなんかがあるのかもしれない。
夏期講習『離島合宿』の開催期間は8月23日まで。ちょうど1か月だ。案内が手元に届いた段階で既に支払いは済んでいた。途中で帰るのは自由で、その場合は参加費用は返還されないとのこと。
申し込んだのは父親で、単純に勉強を頑張れって意味じゃないことくらいは理解できる。そもそも勘当した息子に参加を強制するような真似はしないだろうし。
たぶん父さんは、家族のもとを離れた僕に『よく考えろ』と、そういう時間をくれたのだろう‥‥‥。
僕は見放されてはいないのかもしれない。そう考えると安堵の溜息が洩れた。
「じゃま」
最近は色々と考え込んでしまうことが多い。突然近くで不機嫌そうな声が聞こえ、ハッとして我に返った。
声のしたほうを見ればそこには同年代と思われる1人の女子の姿が。キャリーケースを片手に立ち止まったまま迷惑そうな顔をこっちに向けていた。
「あんたに言ってんだけど」
彼女の言葉に周りを見ると、もうすでに下船に向けた乗客の移動が始まっていた。
僕が乗船しているのは豪華客船なんかじゃない。大きいと言っても離島を経由するフェリーだ。海を眺めていたデッキ部分は、手すりと客席の壁に挟まれた通路部分に当たり、どうやら本当に邪魔になってるみたいだった。
「すみません」
頭を下げてから体の向きを横にした。通りやすいように身をかわすと、「ふん」と鼻を鳴らした彼女はこっちを見向きもしないで横を通り過ぎる。
ものすごく不愛想だった。真夏の太陽が似合う小麦色した肌で金髪、王道のギャルとお見受けする。
不満を貼り付けたような顔には、これから常夏の島を楽しむような雰囲気は微塵もない。だから僕と同じで夏期講習の参加者なんだろうけど。
少し歩いた先でギャルが一旦立ち止まってから顔だけ振り向いた。
「なに? 私の顔に何かついてんの?」
めちゃ睨まれた。自分でも知らないうちに彼女のことを観察していたみたいだ。
「い、いや、何も‥‥‥」
「‥‥‥キモ」
彼女の言葉でどっと変な汗がでた。
誤魔化すように返すと、目の前のギャルは吐き捨てるように一言。その後もう一度鼻を鳴らしてから前を向いて歩きだす。
なんだろう、ものすごく既視感を覚える‥‥‥。
しばらくギャルの背中を見送っていると、2人の乗客が横を通り過ぎた。
年代と格好からしてこっちの女子も僕と同じ夏期講習の参加者だろう。先を歩く不愛想なギャルのほうを指差してひそひそと会話していた。
「あの子さっきパンフみてたから、やっぱ参加者だよね。同じ文系クラスだったら嫌じゃない?」
「あんな格好で何しにきたのかな。こっちは真剣なのに不真面目な人がいたら迷惑なんだけど」
「ほんと、そう。でもどうせFクラスでしょ。私たちと同じクラスじゃないことを祈るわ。この予備校もレベル落ちたよね」
「ま、お金を出せば夏期講習だけ参加できるし」
「あの子、絶対に売ってそう」
「パパ活? はは、ウケる。絶対にやってるよね」
なんだろうモヤモヤする。たしかに格好はミニスカートと高いヒールのサンダルを履いていて、上の服は両肩が丸見えで夏期講習というよりはさっき見えた砂浜が似合いそうな外見かと‥‥‥。
けど、まったく知らない女子だけど、あんなふうに外見だけで悪しざまに言われているのを聞くと、なんだか無性に腹が立った。
と、船内アナウンスが流れた。いよいよ到着みたいだ。
僕は既視感とモヤモヤする気持ちを抱えたまま下船に備えた。
読んで頂きありがとうございました。
リンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。