↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/61

第3話 脱童貞!?

 カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

「はぁ~さっぱりしたぁ~、兄貴が最後だから」


 風呂上がりの妹は当然のように僕の部屋へ戻ってきた。

 叔母さんに自分の部屋を明け渡したので当然なんだけど。


 Tシャツに短パンという兄としては目のやり場に困るいつもの格好でベッドの上にダイブする。

 僕は1人の間にお客さん用の布団を床に敷いて自分の寝床を準備していた。


「ほらぁ~早くお風呂入ってきてよ、お兄ちゃん♪」


「わかったから、へんな喋り方するなって」


 揶揄われているのはわかるんだけど、妹の僕を見る目がなんだか怪しい。

 これからの約1か月、僕は血の繋がらない妹と同じ部屋で寝起きを共にする。

 急き立てられるようにして廊下へ出ると、僕の口からは「はぁ~~~」という大きな溜息が漏れた。


 軽くシャワーを浴びて脱衣所を出ると1階は電気が消えて真っ暗になっていた。

 両親は寝室に引っ込み、妹の部屋を使用することになった杏叔母さんの姿もない。


 2階へ上がると隣に位置する妹の部屋のドアを見た。

 隙間から灯りが漏れていないので、杏叔母さんはもう寝てしまったんだろう。


 自分の部屋のドアノブに手を掛けようとして動きが止まった。

 恥ずかしい話しだけど緊張で手が震えていた。


「お兄ちゃん遅いよ~、恋(れん)は待ちくたびれちゃったぁ~、早くこっちきてぎゅーってしてぇ~♡」


 ベッドに仰向けに寝転がった妹が、こっちに向かって両腕を広げ妖しい笑みを浮かべている。

 何故だかTシャツは胸の辺りまで捲れ上がり、僕を映した大きな瞳は濡れていた。


 ―――はっ!? 駄目だ! 妹を邪な目で見るなんて‥‥‥


 知らない間に頭の中があらぬ妄想に支配されていた。

 今夜僕は兄としての矜持を保てるのだろうか? なにか大きな過ちを犯してしまう、そんな予感しかない。 


 許されない考えに苛まれつつ、それでも気持ちを確かに持って静かにドアを開けた。

 するとそこには、しっかりと現実があったんだ。


「―――エロい目でぇ~むにゃむにゃ‥‥‥お兄ちゃんのお尻がぁ~~~‥‥‥」


 ベッドの上の妹はすでに寝息を立てていた。よくわからない寝言が聞こえてくる。

 慣れない剣道の練習で相当疲れていたんだろう。


 夢の中の「お兄ちゃん」は、僕と武波先輩のどっちのことなんだろうか? そこは少し気になった。

 少しエアコンが効きすぎて寒く感じた。たぶん風呂上がりの僕のため。


「おやすみ、恋(れん)」


 ベッドの傍らに立って妹の体にタオルケットを掛けてやる。さっきまで彼女のことを警戒していた自分が恥ずかしくなった。

 僕たちは兄妹なんだ。一緒の部屋で寝るくらいどうってことはない。電灯を消して床に敷いた布団に寝転んだ。



 ―――翌朝。

 場所は学校最寄りの駅前。

 僕たち兄妹と一緒に登校していた加藤さんが、通りの反対側を見て声を上げた。


「満月さんの隣―――あのイケメンは一体誰‥‥‥!?」


 新種のイケメンを発見して食い入るように見つめている加藤さん。武波先輩の件がある。この人は根っからの面食いなんだろう。じゃあ何故、僕にグイグイくるのか?

 

「ワンチャンあるかもね加藤。ここは一発チャレンジしてみよっかぁ~」


 井上さんが興奮している様子の加藤さんに軽蔑の眼差しを向けていた。揶揄い口調で言葉をかける。2人は本当に仲がいい。


「井上! 知っているのなら教えなさい」


「ふん、えらそうに言うな! 彼は確か‥‥‥」


「隣のクラスの西野入だよ」


 加藤さんが指をさしているのは僕のよく知っている元陰キャ男子の西野入宗助(にしのいりそうすけ)だった。彼は満月さんの非公式彼氏だ。

 

 だけど最近やたらと2人は目立っていた。というのも、宗助がダイエットに成功し―――その2人が人目を憚ることなく一緒にいるからで。


 元々は上背があり小太りの体型だった宗助。それがダイエット後は驚くべき変身を遂げていた。そう超絶イケメン化。それに満月さんが指示したイケメンキャラと合体して正真正銘のイケメンに生まれ変わってしまっていた。


 そんな彼と一緒にいるは孤高の存在にして高嶺の花と謳われる満月さん。2人が一緒に登校して目立たない訳はない。


 でも、そんな2人を遠巻きに眺めていると、今まで交際していることが非公式だった理由を考えてしまう。

 陰キャな宗助と一緒にいるところを満月さんは見られたくなかったんだろうか? 今はイケメンに変身したから一緒にいる? 


 嫌な考えが頭を過ぎった。けれど満月さんが見た目だけを重視するような人なら『ザ・陰キャ』の宗助と初めから付き合ってない訳で‥‥‥。


「あんな男子うちの学校にいたんだ‥‥‥」


 呟くように言った加藤さん。口の端に涎が見えたのは気のせいだろうか。


「ほら、もう目移りしてるじゃん」


「うるさいわね! あなたこそ百崎くんに―――」


 井上さんと加藤さんが立ち止まって何やら盛り上がり始めた。

 

「ほら兄貴、ほっといて行こ」


 妹が僕の腕を強引にひっぱて歩き出す。段々と彼女たちと距離が開き、しばらくして息を切らした井上さんと加藤さんが追い付いてきた。



 ―――昼休み。

 場所は北校舎の端にある非常階段の踊り場。


 他の生徒が寄りつかない中、錆びついた手摺が僕と元陰キャの宗助に居場所を提供してくれていた。

 互いに頼りない手摺に両肘を置いている。


「モモッチ、まだ筋トレしてるのか?」


「うん、そうだけど。最近、軽めのジョギングを取り入れたんだ」


「身体つきが運動部のそれに見えると思ったら、やっぱりか。変わったな、モモッチ」


「いやいや、変わったのは宗助の方だろ!」


 思わず大きな声が出た。外見の変化なら宗助の方が上だ。

 しかも学校の女子に、「あのイケメン誰?」って噂されるくらいの変化。


「満月さんと一緒にいる所をよく見かけるけど、もう付き合ってることは隠さないのか?」


「今までだって別に隠していたわけじゃないんだ。ただ周りに言ってないだけっていうか、俺たちに言う相手がいないっていうか」


 悲しい告白を聞いてしまった。パソコン部の宗助は陰キャな僕と同じで交友関係は限定的だ。

 それに観月さんは孤高の存在、高嶺の花と謳われている。


「でも、やっぱり前よりは一緒にいる気がする。ダイエットに成功したことが関係してるとか?」


 あまり気持ちのいい質問ではなかったけど、つい口を衝いて出てしまった。

 見栄えが良くなったから一緒にいるってことだったら、それは満月さんのイメージとは重ならない気がした。


「そうなんだ。モモッチも知ってのとおり、この喋り方やダイエットは美音の要望だ。俺は彼氏としてその要望に応えてみせただけ」


「‥‥‥」


 溜息が漏れそうになるのを我慢して、短く相槌を打った。

 宗助は僕が何を言いたいのかを察したかのように苦笑いを見せると話を続けた。


「モモッチの考えていることは分かる。だが、違うんだ。美音は俺の外見云々で付き合っていることを隠していたわけじゃない。実は――――もっと斜め上の理由なんだよ」


「斜め上の理由‥‥‥」


「孤高の存在とか、高嶺の花とか、そう噂されている美音だが‥‥‥周りの奴らはみんな勘違いしている。モモッチは美音の正体(腐女子)を知っているだろ? 澄ましてる表情の時はたいがいヤバい妄想に浸ってる時なんだ」


「も、妄想って‥‥‥やっぱり」


 話がとんでもない方向へ曲がり始めた。


「そうだ、腐ってやがる。美音は澄ました顔でイケメン同士の縺れ合いを‥‥‥例えばサッカー部のキャプテンと野球部のキャプテンがって感じの」


「‥‥‥感じの?」


「ああ、これ以上は言わせないでくれ。元はと言えばモモッチにも責任の一端があるんだぞ―――」

 

 この流れでこっちに飛び火してくるなんて想定していなかった。

 どこか遠い目をする宗助。


「―――妹を寝取るって計画だが、立案者の美音はあの時に『寝取り・寝取られ』っていう禁断のジャンルに目覚めてしまったんだ」


 計画の立案者は確かに満月さんで、でも最初に言い出したのは宗助だったような気がするんだけど。


「目覚めたってことは、満月さんが違う男子と?」


「普通ならそうなるのかもしれないが、美音は普通っていう常識の枠にとらわれない。浮気するのは自分じゃなくて俺なんだよ。今(・)は妄想の中だけだが」


 ―――ちょっと待て!? 謎が解け腑に落ちる感覚‥‥‥

 

 だからなのか。だからオタクの深淵を歩む宗助をイケメンに造り替えたのか! 今まで感じていた違和感がついに解消された。


 要するに自分の彼氏が寝取られるって妄想に浸るためにダイエットをさせていた、ということ。

 最近やたらと一緒にいるところを目にするのは、おそらく周りの視線を集めるためで、イケメン彼氏を周りに認知させていたんだ。その上でイケメンの彼氏(宗助)が、どこかのイケメンに寝取られるっていう妄想を楽しんでいる‥‥‥。

 間違いない、彼女は腐っていた。


「もしかしてだけど、満月さんの妄想の中に僕は登場してないよな?」


「‥‥‥」


「何か言ってくれ宗助」


「すまん」


「謝らないでくれないか」


 しばらくは互いに無言が続いた。

 見上げた空は相変わらずの曇り空で、じめっとした空気が体に纏わりついてきた。

 いたたまれなくなった僕は話題を変えるために自分の近況を伝えた。


「―――な、なに!? 妹と一緒の部屋だってぇえええ!!」


「こ、声が大きい~そんなに驚くことかよ、僕たちは兄妹だぞ」


「いまさら兄妹って言われてもなぁ」


 宗助は僕たち兄妹の間に血の繋がりがないことを知っている。


「いまさらも何も兄妹である事実は変わらないから」


「寝取るって計画だったが―――ふたを開けてみればまさかの相思相愛。もう付き合えばいいだろ」


 宗助は両の手のひらを上にして呆れた表情を見せた。

 相思相愛なんて言葉を聞いてもピンとこないんだが。


「‥‥‥妹だから」


「妹は僕のものだ~って叫んでたのはどこのどいつだ」


「やめろ! あれはその場の雰囲気っていうか、流れっていうか‥‥‥」


「じゃあ聞くが、モモッチはこの先どうしたいんだ? 恋(れん)ちゃんのことが好きなんだろ?」


「‥‥‥‥‥‥」


 宗助には嘘をつきたくなかった。でも本心を明かすには、自分自身の気持ちと向き合う必要があった。まだ覚悟なんてできてない。そんな資格も持ち合わせていない。


 周りから愛される人気者の妹。そんな彼女と釣り合う存在になってから、やっとスタートラインに立てる気がした。

 

「モモッチは昔から真面目だよな。まあ、そういうところが魅力でもあるんだが」


 こっちの気持ちを知ってか知らずか、宗助が空を見上げて零す。


「夏休みはずっと同じ部屋なんだ」


「そうか、俺からのアドバイスだ。この夏、妹で卒業しろ」


「卒業‥‥‥? お、おい! どんなアドバイスなんだ! さっきまでの話の流れとか僕の抱えている葛藤とかは完全スルーかよ!」


「うじうじ考えるより行動だ。気持ちは後からついてくるさ」


 爽やかに言ってのける宗助。しかも経験者は語るみたいな雰囲気で。

 

 ―――はっ! もしかして脱童貞‥‥‥なんだろうか!?

 

 満月さんによってイケメンに改造された宗助は中身も進化していて、もう昔の陰キャな男子ではないのかもしれない。

 彼の強引なアドバイスに対して、僕は曖昧に口を濁し昼休みの時間を終えた。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。