エピローグ その3 百崎郁人
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
学校からの帰り道―――。
駅舎を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
駅舎を離れる人たちが煌々としているコンビニの明かりに吸い寄せられるようにして同じ方向へ進んで行く。
隣には学校を出てから一言も喋らない妹の姿。
横目で様子を窺うと僕と同じでコンビニの方を見ていた。
「アイスでも買うか?」
「いらん」
「そうか‥‥‥」
アイスの誘いに、妹は素っ気ない態度を見せた。
いつもなら、「兄貴のおごりな」とかなんとか言って喜ぶくせに。
どうもぎくしゃくしてしまう。
まあ、先ほどの衝撃的な出来事を振り返れば当然なんだけど。
武波先輩を悪人だと勘違いした挙句、僕は妹を寝取ると勝手に決めて暴走し、道場破りみたいな事をしでかして無抵抗の相手を竹刀で叩いてしまった。
その相手というのが妹の実兄だったなんて‥‥‥。
駅から家までは歩いて10分程度で、その間に色々と聞いておきたいことがあった。
家に帰れば両親がいる訳で、さすがに再婚前の家族に関する話は憚られる。
「恋に実の兄がいるなんて知らなかったよ」
少し前を歩いている妹に声を掛けた。
センシティブな内容だけに、やっぱり2人きりの時に聞いておきたかった。
「話してないし」
すたすたと歩く妹。短すぎるスカートの裾が際どく揺れていた。
「同じ学校ってこと母さんには話してないのか?」
「‥‥‥」
僕の問いかけに妹の歩く速度が速くなった。
前の家族の間で何があったのかは知らない。
当然、小学生だった妹も知らされていないだろうし、教えられたとしても正しく理解できなかったと思う。少しの間があって妹が口を開いた。
「お母さんは、たぶん知ってる。お父さんと兄貴に気を遣って話してないだけで―――お兄ちゃんのこと忘れるはずがない」
僕もそんな気がした。新しい母さんは義理の息子となった僕のことを、こっちが遠慮するくらいに大切にしてくれた。
だから愛情深い今の母さんは、実の子供である武波先輩のことを忘れるはずがないと思う。
「これからどうするんだよ」
「どうもしない」
「―――わかった。でも、困ったことがあったら兄ちゃ―――ぼ、僕を頼ってくれていいから」
これ以上は話を聞くのを止めた。
家族の形は変化する。そういうものだと小学生の時に知った。
それは妹も同じで―――だから意味がないと思えたんだ。
昔の事を今更聞いたところで、現状は何も変わらない。
それより今を大切に、前を向いて歩いた方がいい。
それは陰キャな僕が妹を寝取ると心に決めて、短い期間だったけど初めてづくしの体験から導き出した答えなんだ。
「なん? いま言い直した」
「うっ!」
目ざとい妹はこういう指摘を欠かさない。
いつも僕の心の機微に敏感で、どんな変化も見逃してはくれない。
「―――ちょっと寄り道」
前を向いたままの妹は、道を外れて見慣れた児童公園へ入っていった。
小学生の頃、よく一緒に遊んだ場所だ。
妹の背中を追いかけて遊具のある方へ進む。
夕闇に包まれた公園内には人の気配はなくて、いるのは僕たち兄妹だけだった。
ブランコに座った妹。
その隣の空いたブランコに腰を下ろした。
「自分のこと、僕って言い直した」
「そ、それは‥‥‥」
正直、妹の実の兄―――武波先輩の事を考えてしまった。
法律上は兄だけど、血の繋がっていない僕は本当にそう名乗る資格があるんだろうか?
それに武波先輩は、「お兄ちゃんのポストは返してくれ」と言っていた。
「兄貴は兄貴だろ?」
まじめな声音で妹が言った。
顔を横に向けると妹が地面を蹴った。座っているブランコが前後に小さく揺れ始める。
「私にとって兄貴は1人しかいない」
「じゃあ、武波先輩は‥‥‥?」
「私のお兄ちゃん」
「ははは―――なんだ、それ」
妹らしいポジティブな答えに思わず笑ってしまった。
「仕方ないじゃん。ホントの事なんだから」
「そうだな」
「そうだよ」
僕は恋の兄貴で、恋は僕の妹に間違いない。
ちょっと自分のことを「兄ちゃん」って言いづらくなったけど、それも前進の1つと捉えよう。
「とぉおおお―――!」
揺れるブランコの勢いに任せて、いきなり妹の体が前に跳び出した。
着地してからこっちへ振り返る。
「で、私は兄貴のものなん?」
妹が言っているのは、僕が武波先輩と対峙している時に発した言葉についてだった。
さっきまでの物思いに耽っているような静かな態度とは裏腹に、口の端を持ち上げてニッと笑っていた。
小悪魔的な表情を覗かせた妹はこんな時でももの凄く可愛い。
「あ、あれは‥‥‥その場の勢いっていうか‥‥‥」
僕がひた隠しにしている本当の気持ち。一瞬、伝えたい衝動に駆られてしまう。でもやっぱり明かせない。それは妹のことを寝取ると決めたはずなのに、自分の中でアンフェアのように感じてしまうから。
もし仮に彼女の気持ちが妹のそれじゃなく1人の女の子のものだったとしたら、それはたぶん同じ屋根の下で一緒にいる時間が長いだけの、そう、例えるなら魔法のようのもの。
妹は成績優秀で可愛くって学校では人気者なんだ。そんな彼女が普通なら何の取り柄もない僕みたいな陰キャを好きになるはずはない。
彼女にかかっている魔法はいつかは解ける。それは彼女が大学に進み社会に出ていずれかの機会にやってくる。正直、その瞬間が来るのが怖かった。魔法から目覚めた妹は間違いなく僕から離れてゆく。
だから今じゃないんだ。僕自身が成長し自分を認めることができたなら―――その時までひた隠しにしている本心の蓋は外さない。
「独占欲めちゃつよ!」
「ち、違うって―――!」
思わずブランコから立ち上がった。
楽しそうに僕のことを揶揄ってくる妹。その様子を見ていると、さっきまで考えていた色んな事がどうでもよくなってしまうのは不思議だ。
「兄貴のものでいいよ」
「――――――!?」
僕たち兄妹以外にだれもいない公園。
その中で妹の小さな声は、聞こえなかったふりをする方が不自然なくらいによく通った。
外灯を背にして立っている妹の表情はほとんど見えなかった。
不意に目の前の影が近づいてきて―――甘い匂いを感じたと思ったら左頬に柔らかくて温かい感触があった。
僕が動けないでいると妹はしばらく顔を寄せたままで‥‥‥離れ際、耳元で「妹は卒業だから」って囁いたんだ。
そして公園の入口へ向かって駆け出した。
出遅れた僕は熱を持った左頬に手をやって、すぐに義妹の背中を追いかけた。(第1章完結)
※ここまでお付き合いくださった方は、本当にありがとうございました。
第1章完結とさせて頂きます。
稚拙な文章で読みにくい小説だったと、読み返してみて反省中。
言い訳ですが、時間がない! これに尽きます‥‥‥
第2章では、2人の関係性の変化を描きたいと思います。
第1章の『感想』と『ブクマ』をよろしくお願い致します。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。