エピローグ その2 武波陽太
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
高校で再会した妹は、ギャルになっていた。
もの凄く可愛い1年生がいるって噂は耳にしていたが、まさか俺の実妹だったとは‥‥‥。
つけまつ毛や黒目が大きな瞳は、ギャルメイクっていうものなのか?
記憶の中の姿は小学生のままで―――それでも当時の面影が残っていて、一目で妹だとわかった。
大人しい性格でいつも俺の後をついて歩いていたというのに、その変わりように驚いた。
―――もしかして新しい家族と上手くいってないんじゃないのか?
俺自身、父親が再婚して新しい環境に馴染めない時期があった。
大好きだった剣道をやめて、中学の途中までは荒んだ生活を送っていた。
妹にはいつか会いに行こうと心に決めていたが、気がつけば互いに高校生になっているとは‥‥‥今まで兄らしいことをしてやれなかった俺は、どことなく浮かない顔をした妹に、「困りごとか?」と声を掛た。―――すると意外な答えが返ってきた。
2年生の百崎郁人―――。
初めて聞く名前だった。
新しい家族で、1つ年上の兄だそうだ。
妹の話では帰宅部の陰キャということらしい。
エロい表紙のラノベってやつが大好きで、それが高じて図書委員として活動しているとか‥‥‥。
―――そんな奴のどこが良いのか?
運動部の俺はそう思うのだが、妹の話を聞いて血の繋がりを強く感じてしまった。
それは、俺に彼女がいないって話に繋がる。
学校では王子様ともてはやされ彼女がいることになっているが、それは断るための方便で実のところ彼女はいない。
すでに心に決めてる人がいるんだ。
離れて暮らす妹が、まさか俺と同じような境遇に悩んでいるとは驚きだった。
妹が新しく家族になった兄に恋心を抱いたように、俺自身も新しく家族になった姉に対し密かに想いを寄せていた。
彼女は1つ年上の大学生で、色々あった中学時代の俺を真っ当な道に導いてくれた存在。こうして剣道を続けていられるのも姉がいてくれたからだ。
で、話を戻すが、同じ境遇にいるからと言って、妹の兄となった男―――百崎郁人を簡単には認める気にはなれなかった。
妹から話を聞いて以降、学校で百崎郁人という後輩の姿を目で追うようになっていた。
学年が違うので見掛けることは少ないが、意識すれば廊下ですれ違ったり、通学途中に姿を目にする機会もあった。
―――どこからどう見ても陰キャなオタク
百崎郁人の印象はそんなもので、妹がなんで好きになったのかが全く理解できなかった。
1番危惧するのは、ただただ一緒にいる時間が長いだけの‥‥‥それを好きだとか勘違いしているパターンだ。
―――もしそうなら俺は百崎郁人という男を認めない!
と、思っていたんだが。
中間テスト最終日、部室で道着に着替えているとスマホが鳴った。
妹からの連絡だ。急遽カラオケの個室で相談に乗った俺は、切羽詰まった妹の態度についつい、「寝取ってしまえ」と自分の意に反してアドバイスをしてしまった。だって、そうだろう? 可愛い妹が涙に暮れて悩んでいるのだから。
ある日、部室に顔を出すと2年の後輩たちがタバコを吸っていた。
主将の俺が休みだと勘違いしていたらしいが、問い詰めると今まで何度も隠れて喫煙していたらしい。
主将としての責任を痛感した。
謝罪する後輩たちを見ていると、自分の中学時代の荒んだ時期を思い出した。
一瞬、隠蔽の文字が脳裏をよぎった。が、同時に俺を救ってくれた義姉の怒った顔が頭に浮かんだ。
だから自分を律して後輩たちを説得し、処分は顧問の先生に委ねることにしたんだが、部室を出たところで件の百崎郁人と鉢合わせになってしまった。
こっちを見てぎょっとした表情を見せたと思ったら、こんどは部室の方に視線をやり‥‥‥。
どうやら俺が扉を開けたことで中からタバコ臭いが漏れ出たみたいで。
喫煙に感づいたであろう百崎郁人。先生に知らせる前だったこともあり、思わず「このことは誰にも喋るな」と口止めした。
すると彼は怯えた様子を見せ、さらに俺に対する返答にも取り繕うような卑屈なところが窺えた。
だからあの時、百崎郁人は俺の大切な妹を守れる器ではないと思ったんだ。
他校からの引退試合の申し出は、喫煙騒動と同じ時期だった―――。
両親が離婚する前、俺と妹は一緒に道場に通っていた。
その時からの腐れ縁の男が他校の剣道部主将をやっていて、先生の代わりに主将同士で日程などの話し合いをすることになった。
バイクで学校に乗り付けたヤツと話をしたんだが、女子部員を5人揃えてくれとのことで、こっちは1人足りない状況だった。で、妹の顔が思い浮かんだ。
ある時、ファミレスで妹の相談に乗っていると、血相を変えた百崎郁人が突然目の前に現れた。
そして、「妹には近づくな」と言ってきた。すぐに俺と妹の仲を疑っているんだと思った。
後で妹に確認してみれば、予想通り実兄である俺の存在は伝えていないとのことだった。
で、不思議に思ったんだ。
兄である百崎郁人が自分の妹と一緒にいる男に「近づくな」って―――!?
仮に俺が仲の良い男子だったとして、高校生になる妹の恋愛に兄が口出しするなんてことは滑稽に思えた。
―――もしかして妹の悩みは杞憂ではないのか?
陰キャなオタク。そんな印象の彼がファミレスまで押しかけてきて、けっこうな気概を感じた。
そこまではよかったんだが、1つ引っかかることがあった。
それは百崎郁人の本心が聞けなかったことだ。
俺と架空の彼女の関係を持ち出して―――詭弁を垂れ流す彼に段々と腹が立ってきて、ついつい強い言葉をぶつけてしまった。
もし義姉にこのことを話したら、「意地が悪い!」って言われ間違いなく鉄拳制裁を食らうだろう。
妹に引退試合の話をしたら了承してくれた。
道着や防具は先輩たちの置いていったものがある。
見学に来るとすぐに練習に参加してくれた。
久しぶりに剣を交えてみれば、それだけで会えなかった空白の時間が埋まるような気がした。
で、肩が痛い―――。
百崎郁人が道場に飛び込んできた時、ピンときた。すぐに妹の口を封じた。
彼の盛大な勘違いを利用した俺は、思い悩んでいる妹のために奴の本音を引き出そうと考えた。
素人が剣道部の主将に竹刀を向ける。
もの凄く勇気がいる行動だと思う。
その証拠に彼の体は隠しようのないほど震えていた。
それでも竹刀を構えて正対すると、百崎郁人の目に決死の覚悟を見た。
挑発に乗り打ち込んできた彼の剣は、確かに妹を守りたいという気迫を纏っていて―――合格だと思った。
ただし途中で止めれば不合格。
竹刀を振り抜くことができれば、という条件付き。
いざっていう時に大切なものを守る力のない男に、俺の可愛い妹をくれてやるつもりはなかった。
結果は、及第点といったところ。
妹の声で竹刀の軌道が逸れてしまった。
心配して縋りついてくる妹。
道場に居合わせた奴らには、俺と恋が実の兄妹だってバレてしまった。
「お前の勝ちだ。恋はくれてやる。だが、お兄ちゃんのポストは返してくれ」
「お兄ちゃんのポストって‥‥‥僕は‥‥‥」
「お前にはもっと別の役割があるだろう」
互いの顔を寄せた会話は周りに聞こえてない。
百崎郁人は俺の顔を見て瞬きを繰り返していた。
外見はモテるように見えるが、俺は騙されない。
妹が言うように陰キャなオタクだ。
そんな彼をどうして妹が好きになったのか? 理解はできないが1つだけ言えることがある。それは、俺の大切な妹を今日まで大切に守り続けているってことだ。
何だか疲れた。
早く家に帰りたい。
今日の出来事を報告したら姉貴はどんな顔をするんだろうか。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
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