三英雄
「みんな落ち着いてますね……」
「ええ、ここにいる魔法使いも戦士もアイローゼ教徒なので」
旧き学者アルハザードの弟子の一人アイローゼを祖とするアイローゼ教会は、自然の成り行きに逆らうことはできないという考えを持っている。
それゆえにアイローゼ教徒は死を受け入れる覚悟を持っているが、死に可能な限り抗う力の探究も行っている。
治癒魔法、医療などに秀でており、アイローゼ教会の医療者の一派である”産婆”たちは非常に優秀。
そのためあらゆる国の王族や貴族達は皆アイローゼ教会を贔屓しており、今クリムやメイド長がいる巨大な教会堂がその証。
「広すぎて見張りが足りないんじゃ……」
「ええ、足りませんね、アウトサイダーの方々にも頼みたいのですが武器の威力が未知数なので」
現地人に対してプレイヤーが発砲した事がないのでプレイヤー同士で撃ち合った時のように「痛い」で済まない可能性があるため無闇に発砲できない。
「敵襲!怪物が投げ込まれているぞ!」
二人はどこからか発せられている声を聞いて異常を察知した。
「な、投げ込まれてるって……」
「意味がわかりませんが下へ行ってみましょう」
銃という概念やクリムの持つ散弾銃の威力を知っているメイド長は一階から下がりつつ攻撃を行うのが有効だと判断した。
またアイローゼ教会の治療に使用するポーションや医療器具などの類は全て一階か地下室にあるため、怪我人が出た時は一階が重要になる。
二人が階段へ行き、一階の広場を見下ろすと、そこには既に大量の聖獣モンスターがいた。
騎士団やアイローゼ教会の戦闘力がある魔法使い、僅かにいる魔道教会の魔法使いなどが戦闘を行っていた。
「な、なんでこんなに……」
「外の様子から見ても教会を重点的に狙っているとしか思えませんね」
メイド長がサーベルを抜き、クリムが散弾銃のスライドを引いて薬室に弾薬を送り込む。
「よし、行きましょう!」
「は、はい……!」
クリムとメイド長が戦いに参加するが、聖獣は次々と教会に集まっている。
そしてしばらくすると突然天窓が割れ、ガラスが広場で戦う戦士に降り注ぐ。
「キュルルルルルルルルルル!」
「む、虫……?」
「ああいうの苦手なんですが……」
「キュルルルル!」
「クソ!放せ!」
数体の聖虫は宙を舞い戦う者達に鋭い爪を突き立てる。
聖虫は人間一人を持ち上げるほどの飛翔能力はないが、鋭い爪と握力の組み合わせは騎士の動きを封じるには十分だった。
「上へ逃げろ!階段で引きつける!」
どこかの騎士が叫び皆が階段を上る。
先に魔法使いが階段を上がり、騎士が聖獣を押さえ込む。
魔法使いは室内なので火を飛ばしたりはできないため、主に騎士の身体を強化している。
魔法使いにも遠距離攻撃の手段はあるが、発動に時間がかかるため今は使用していない。
「キュルルルルル!」
「あっ、なんてこった!」
階段の上にいる者達に対して聖虫が攻撃に行くと天井の低さから上へ逃れることができない。
なのでターゲットを変えて聖虫は地下への扉をこじ開けようとしていた。
「あそこに入られたらマズい……な?」
「なんだあれ?」
「ロープでしょうか?」
割れた天窓から三本のロープが垂れ、そしてそこから三人のプレイヤーが高速で降りてくる。
「好きな神の下へ送ってやる」
スペツナズ・ナイフ、M&Mでは弾道ナイフと呼ばれるものをを両手に持つ白衣の若者、ハンドルネームはエッジ。
身に着けている装備は全てバリスティックナイフであり、合計で九本持っている。
「我は心で殺す」
両手に散弾銃を持つ西部劇のガンマン風の老人、ハンドルネームはプレリュード。
彼の使用するM1887はソードオフでトリガーガードがなく、大きいループレバーに変更されている。
「300グレインの弾頭で細切れにしてやるぜ」
そしてスーツ姿の中年、ハンドルネームはラッシュ。
両手にウェブリーフォスベリー・オートマチックリボルバーを持っており、大量のムーンクリップを体に巻きつけている。
なお彼が普段使用している銃は時代制限に引っかかるため、現在構えている銃に装填されている38ACP弾の弾頭重量は300グレインもない。
(なんだろうこの人たち……)
『くそっ!なんて動きだ!センティピードかよ!』
『無理に追うな、あのデタラメな動きについて行こうとすれば失速するぞ』
『わかってるっての!』
飛行形態になった悍ましい聖霊カストゥスは飛んでいるというよりは浮遊しているというのに近い。
航空機と違って進まなければ飛んでいられないということもなく、重力に縛られていないため上昇も自由。
『これじゃあ手の施しようがないわね、少しずつでも上昇して……アングル?なにをしているのかしら?』
アングルは突然機体を急上昇させる。
すると同時に、悍ましい聖霊カストゥスは高高度から急降下してきていた。
アングルはすれ違いざまに銃撃を加えると上昇をやめて降下する。
『なぜ降りてくるタイミングが……なるほどな』
聖虫は自身で飛翔能力を持つためどんな高さから召喚しても問題ない。
しかし聖獣を召喚するためには高度を落とさないと召喚できない。
飛行に魔力を裂いているため魔法で保護をして投下するということができない。
アングルは地上で聖獣の召喚していた間隔を覚えており、それを見計らって攻撃を行っていた。
『ずっと虫だけ投下してれば良かったのではないか?』
『虫型モンスターにはあまり殺傷能力がない、奴はあくまで殺したいのさ、それに戦闘機の攻撃程度じゃ死なんだろう』
『見て!カストゥスがアングルを追いかけているわ!』
アングルに攻撃を受けた悍ましい聖霊カストゥスはまるで激怒したかのようにアングルの機体を追いかけている。
『飛行形態はヘイトを取りやすいのか、アングル!俺が合図したら左に曲がれ!』
アングルを追いかける悍ましい聖霊カストゥスをアルカトラズ隊が追いかける。
アルカトラズ隊はレフトエシュロン、/のような並びになり一番右がアルカトラズ。
『そのまま……そのまま……今だ!』
アルカトラズの合図でアングルは左に曲がると、アルカトラズの前をアングルが横切り、続いて悍ましい聖霊カストゥスが横切った。
そしてアルカトラズ隊は次々に発砲。
アルカトラズ、タンドール、レオーベン、アバシリの順に攻撃を行い、その全てが命中した悍ましい聖霊カストゥスは落下した。
『ざまぁねぇぜ、地面にキスしちまいな』
『やったわね』
『カストゥス落下、着地した』
『よし、追撃をしかけるぞ』
「カストゥス落下、バリアはありません」
「さすがパノプティコンだ、戦車前進!また飛ぶ前にアンカーを――」
『アアァァアァァァアアァアァァァアァ!』
落下した数秒した後に、再び叫び声が響く。
そしてまた形状が変形し始める。
「ああもう!ここからでも攻撃は届くよな?」
「無駄撃ちはできない、というかレイドボスって変形中は基本的にダメージ通らないだろ」
全てのプレイヤーが変形が終わるのを待つ。
変形する体は最初の十メートルほどの塊となったが、徐々に枝分かれしたように人間の手足で形成された巨大な両腕が生え、体の真ん中に巨大な一つの目が浮きでる。
『アルトリウス……ルキウス……私達は……』
「ふ、普通に喋った?!」
三枚の巨大な鳩の翼は背中に伸びており、巨大な一つ目は涙を流し始めている。
『三人で一つだと……言ったじゃあないですか……』
両腕をあろうことか自身の目に突っ込み、目の中から巨大な剣を引き抜いた。
その剣は大きさを除けばただの無骨な剣。
だが切っ先を上空に向け、一つ目の前で構えると、徐々に純白の炎が立ち昇る。
『ああ……憎き……裏切りの炎よ……』
その異様な光景を見て呆気に取られたプレイヤー達のうち、何人かがあることに気づく。
「なんだこれ?」
それはレイドボス出現の通知、レイドボスが出現した時に表示されるレイドボスの名前が再度表示されていた。
「”三英雄の聖人カストゥス”?」




