浪漫
「久しいな、オズワルドよ」
「ええ……本当にお久しぶりですね」
「最後に見えたのは貴公が団長になった日だったか……して、ワシに何用かね?まさか老いぼれの顔を見に来たわけでもあるまい?」
「……師よ、お力を貸していただきたい」
「なるほど……よほどの強敵かね?場所は?」
「我らファイロ帝国の都市、ルキウスです」
禍々しい怪物が持つ剣から立ち昇る純白の炎は現地人もプレイヤーも関係なく視線を奪われる美しいものだった。
『果ての力よ……悪しき炎を……』
聖人どころか人間の面影すら残さない異型だが、頭上に剣を構えるその姿は確かに百戦錬磨の戦士を想わせる。
高らかに掲げられた剣に纏う純白の炎は徐々に大きくなり、やがてそれが振り下ろされるものだとその場にいた者達は理解した。
「退避!退避!」
「走れ走れ!」
かなり遠距離にいるにもかかわらず剣を構えるということはその距離でも届く攻撃をしてくるということ。
どれほどの射程と範囲があるか不明のため、とりあえず現在地から可能な限り距離をあける。
「HE装填」
「HE装填完了」
「全戦車隊射撃開始、繰り返す射撃開始」
一方で攻撃を行う者達もいる。
これはレイドボスに限らずあらゆるモンスターの大技には一定のダメージを与えればモーションをキャンセルできる可能性があるものがいる。
この世界でもそれが通用し、なおかつモーションキャンセルができる可能性に賭けてのこと。
戦車隊に関しては戦車では回避が間に合わず、戦車兵が戦車を飛び出してもまともな武器が存在していないので役に立たないと判断しての行動。
「効果確認できず、攻撃来るぞ、衝撃に備え」
「了解」
砲撃による聖人カストゥスの攻撃阻害は失敗。
展望塔から顔を出す戦車長たちは戦車内に入り衝撃に備える。
『ウルルルルルァァァッ!』
大声と共に振り下ろされた剣は地面に打ち付けられ、それと同時に纏っていた純白の炎は間欠泉のように地面から噴出す。
高速で迫ってくる大量の炎は、逃げ遅れたプレイヤーや現地人、馬にすら襲い掛かった。
そしてその炎にあてられた者全てが脱力していた。
「な、んだ……これ……」
「ね……む……」
純白の炎は熱くなどない。
全身を毛布で包むかのような暖かさがあり、まるで親の手に抱かれる赤子になった気になる。
そしてその安心感は疲労も苦痛も不安も、瞬きも呼吸さえも忘れ去ってしまう。
「終わったか?」
戦車や遮蔽物に隠れていた者達は攻撃を受けなかった。
また都市内へ入って行った者もまた炎を逃れていたが、逃げ切れなかった者たちはその場に倒れ付している。
「おいおい息してないぞ!」
「どうすりゃいいんだ?エピネフリン?AED?」
「余計なことはせず教会とやらに運ぼう、現地人優先だ急げ!」
プレイヤーは死んでもヴァルハラへ行った後に生き返るが、現地人は一部例外を除いて死んだらそこで終わりなのでプレイヤーは放置して行く。
見当たる馬も全て倒れており、運搬に使うトラックは大きいので都市内に入っても身動きが上手く取れない可能性があるのでケッテンクラートなどを使用して現地人を運ぶ。
幸いにも現地人のほとんどはプレイヤー達の防衛線にはおらず壁上にいたため被害のほとんどはプレイヤーだった。
「あーもう、なんで爆撃機どころか攻撃機まで制限されてるんだ……」
「例のギルドみたいに戦艦とかサンダーボルトⅡ持ってたらなぁ」
「あのギルドと比較してどうなる、大体時代制限で使えないだろ……ん?」
ほとんどのプレイヤーが面倒くさいという思考をする中、数両の戦車と数十人のプレイヤーが聖人カストゥスに突撃していた。
「まあそうだよな……このままじゃあジリ貧だしな、俺達も行くか」
「そうだな」
「そっすね」
この遠距離でも攻撃が可能なボス相手に防御という手段をとっても航空機以外何も出来ない。
それに加えて現在のカストゥスには自走手段が存在するため都市内で篭城することも不可能。
ともすれば次に遠距離攻撃を使用してくる前に倒すしかない。
「今日は死に日和だ!突撃!」
「ヒャッハー!」
「いぇぇぇぇい!」
エッジが両手に持つバリスティックナイフのスイッチを押すと刃が飛び出して聖獣に刺さった。
本来銃で戦うゲームだからこそ刀身を発射するという奇妙なナイフは制限されていない。
「グルァゥ!」
「ふんっ!」
刃を発射した後に柄を捨てながら急接近してくるエッジに対して聖獣は腕を振るうが、それを容易く避けたエッジは刺さった刀身を掴み聖獣を切り裂く。
これがエッジの戦闘スタイル、九本のバリスティックナイフを部屋の中で使用し、放たれたナイフをそのまま使用する。
ナイフ格闘だけでなく投擲も得意としており、毎日欠かさず格好良く見える動きを研究しながら特訓した成果である。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
プレリュードは両手に持つM1887を発砲し、片方ずつスピンコックで排莢を行いながら撃ち続ける。
可能な限り短くした散弾銃を片手で打つのにも、ましてやスピンコックを左右で連続で行う理由はただ一つ、格好いいからである。
これを行うために散々練習した結果かなりの時間持続して行うことができるようになった。
しかしかなり集中してるので一度始めるとキメセリフが言えない。
「グルルル……」
そしてラッシュは前方の聖獣に拳銃を向け、周囲にいるモンスターの位置を可能な限り覚える。
「気をつけろ、俺の夢を踏んでるぞ」
セリフを言うと同時に拳銃を乱射する。
それもただ撃つのではなく両手に持つ拳銃を交差させたりしている。
そして八発入りの銃を撃ちつくす前にムーンクリップを空中に放り投げ、打ち終わり空薬莢を排出すると同時に宙を舞うムーンクリップをそのままシリンダーに入れる。
成功したことに大喜びしたい気持ちをグッと我慢して発砲を続ける。
彼らはなぜこんなことをするのか、それは浪漫。
格好付けつつ戦うことを実戦で行う技術を有するのは彼らミリタリー&モンスターエンターテインメントだけである。
彼らに無駄な動きをせず普通に撃てなどと言ってはいけない、浪漫に無駄はつきものだ。
「ぐぁっ!クッソォ!」
一人の騎士が聖獣に乗りかかられている。
上から撃つと弾が貫通して騎士に命中してしまう可能性があるので、スモアは地面に横になって発砲する。
パン!パン!パン!
.30カービン弾でも頭部に命中させれば素早く倒せる。
至近距離であること、スモアの射撃技術が比較的高いことから倒すのは難しくない。
聖獣が力尽きて騎士の上に乗ったままなので、スモアはナイフを抜いて聖獣を刺す。
すると聖獣の死体は赤い煙へと変化して消え、倒れた騎士に手を貸した。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……ありがとう……ございます」
(甲冑着てるってのにやたら軽いな、こういう鎧って30キロくらいはあったはずなんだけどなぁ)
「他にモンスターは見なかったか?」
「いえ、私はその……隠れていたもので……」
自身が戦わずに隠れていたことを恥じている様子だが、スモアには関係のないことなので質問を続ける。
「じゃあ人がいそうな場所は?」
「あっちの教会堂にはいると思います」
マガジンを入れ替え、抜いたマガジンはポーチに入れる。
(弾がちと少ないけど行ってみるか、最悪私は死んでも生き返るしな)
カリブルヌス
三英雄の一人アルトリウスが用いた剣
その無骨な鋼鉄の剣は、美しい純白の炎を宿す
しかし彼が見出した炎は、彼らの求める力ではなかった
ルキウスは嘆いたものだ、身勝手な期待こそが、裏切りと怒りを生み出したのだと




