準備完了
「前もって情報は聞いていたけど……」
「こんなに集まってるなんてな」
レイドイベント開始地点に到着したシトとスモアの視界に入ったのは、多くのプレイヤーや兵器と現地人の姿だった。
イベント開始地点の傍には”ルキウス”というファイロ帝国の都市が存在しており、プレイヤー達の予想ではそこを防衛するという趣旨のイベントだとされる。
「しかし妙だな、ファイロ帝国ってのはこんな簡単に私達アウトサイダーが防衛線張るのを許すもんなのか?」
「え?プレイヤーはレイドボス倒せて現地人は都市を守る戦力増えるし協力するのは普通じゃない?」
「いやそういうことじゃ……まあいいや、私は知り合いに声かけてくるから」
「うん、またね」
シトは辺りを見ながらクリムとの通話で約束した通りルキウスの正面門の横で休憩する。
一部のプレイヤー以外は都市内には入れないが、門の外で待つのは構わない。
クリムは馬で来る予定なので時間が掛かり、もしかしたら今日到着しない可能性もあるのだが、今のシトはやることがないのでボーっとしている。
「ん?あの人って……」
数分経った時、見覚えのある女性の後ろ姿が視界に入った。
それは青いトレンチコートと青い三角帽子を被った銀髪の女性。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい?あら?貴女は……」
青いトレンチコートの内側に黒と紫色のゴシックドレスを着ており、首元には緑色のブローチ、腰にはソードオフショットガンや銃剣にサーベル。
背中にはスプリングフィールドM1903を背負っている。
リッジウェル邸でシトに止めを刺した人物だ。
「始めまして……ではないですね、ゾーリート愚連隊のシト、本名は東雲十和子です」
「私はSK、本名はスーノ・クヴィン、スーノと呼んでください」
「はい、あの時はありがとうございました」
「お礼を言われるようなことは……」
スーノは命を奪ったことに礼を言われて非常に複雑そうな顔をしているため、シトはこの件に関しての話題を終わらせて別の事を話す。
「えっと……スーノさんは個人参加ですか?」
「ええ、私はギルドには入っておりませんので、PVP有効エリアでばかり遊んでいたものですからフレンドもいませんし」
「M&MでPVP専なんて珍しいですね」
M&Mはタイトルの通りモンスターと戦うPVEがメインのゲームであり、PVPをしたいなら別のゲームをプレイすれば良い。
それでもM&MでPVPを行う利点はプレイ条件の精神鑑定だろう。
VRゲームには精神鑑定を行う必要があるものが存在する。
悪質なゲームプレイや過剰な暴言などを行おうとする者を精神鑑定で事前に排除するのが目的だが、もちろん完璧ではないので悪質なプレイヤーが紛れることはある。
M&Mの会社はそういった場合の対応も優れているので、比較的民度が高い。
つまりやられたからと言って粘着したり、されたりと言う事が発生しにくいゲームで銃撃戦がしたい者がM&MでPVPをすることがある。
「そうだ、安全地帯か警戒地帯に行ったらプレイヤー検索してフレンド登録しましょう」
「ええ、その時はぜひお願いしますね」
フレンド登録の約束を交わした二人は周囲を歩きながら会話をする。
PVP専門のスーノはM&Mに関する知識――というよりゲームの知識――が乏しかったので、スーノが質問してシトが解説をするという流れが会話に出来ていた。
「彼らはなんでしょうか?鎧のようなものを着込んでいますが……」
「ああ、あの人達は”CRUEL MASSACRE ”ってギルドの重量部隊ですね」
「くるーえる?」
「何年か前にサービス終了したゲームのことらしいです」
限界までプレイヤーの感じる痛みを上げたハードコアロボットVRゲームが存在した。
一部の者がドハマりしたが、あまりにも敷居が高いゲームであったため人口が増えずサービス終了してしまった。
そのゲームのタイトルがクルーエルマサカーであり、サービス終了後にM&Mへ引越しをしたプレイヤー達が創設メンバーのギルド。
現在はM&Mで最強ギルドの一角であり、歩兵の質が高い。
「特にたった四人でレベル5ダンジョンを攻略したジェヴォーダン部隊は有名ですね」
「なるほど……それではあの撮影機材を持っている方達は?」
「ん?あっ!”ミリタリー&モンスターエンターテインメント”、METです!」
西部劇のガンマン風の老人、白衣の若者、スーツ姿の中年の三人組を発見したシトははしゃぎ始めた。
M&Mがアーリーアクセスだった頃、MET三人がゲーム内でPVを撮影した。
その格好良い映像がネットで話題となり、M&Mの新規ユーザーが急激に増加し、公式にもM&MのPVとして採用された。
METの映像からM&Mをプレイし始めた者はMET世代と呼ばれている。
「彼らも有名なんですか?」
「そりゃもう!私はMET世代ですし!あっ、MET世代というのはですね――」
シトとスーノの二人が話している間にも着々と他プレイヤーは準備を進めていた。
クルーエルマサカーのテントの中で運動をしている獣人一人と、その者に声をかける男性が一人。
「ロゼールさん、そろそろ始まりますよ、準備するから筋トレやめてください、エカルラート隊はとっくに準備完了してますよ」
「ふぅ……まだまだやり足りないよ、リドル君も一緒に筋トレしないか?この世界に来てからアバターの肉体が鍛えられるようになったんだよ?」
「もう聞き飽きたっての、さっさと服着てプロテクトも装備、弾薬の確認とそれから――」
「リドル君、私のお姉ちゃんに似てきたなぁ……」
一方少し離れた所の上空では五つの航空機が翼を並べていた。
『あんたがアングルだな、初めまして、俺は”パノプティコン”所属のアルカトラズ、この小隊の隊長だ』
『俺はタンドール、帽子と手袋を着けたままでの挨拶だが問題ねぇよな?』
『私はレオーベン、アナタの噂は耳にしているわ、活躍を期待しているわよ』
『私はアバシリ、よろしく』
無線で小隊の挨拶を聞いたアングルは自己紹介を済ませ、アルカトラズ小隊と共にレイドイベントの方向へ飛んで行った。




