主人達
「何読んでるの?」
シトは酩酊港街中央広場のベンチで紙を広げている同じギルドメンバーのグラニータ、通称ニータを発見して話しかけた。
「EDC新聞よ、この世界の情報とか考察とか色々載ってるわ」
エターナルダークネスカンパニー、通称EDCという攻略情報収集専門のギルド。
ゲーム内でも掲示板や動画投稿などができるにも関わらず、あくまで紙媒体に拘るよくわからない連中。
「『この世界で最も不思議なことはなにか?それは現地人の性格が良すぎることだ、我々のいた世界の歴史と比較するとまずありえない』だって」
「相変わらず考察部分は適当だね、レイアウト変えれば良いのに」
「EDCって情報は正しいことが多いけど考察は完全に社長の趣味よね、M&M世界の考察もかなり可笑しかったもの」
「『モンスターは宇宙人だった』ってやつ?」
「うふふ、まるでモルダー捜査官ね」
二人が談笑していると、ニータの腕時計が午後を伝える音が鳴った。
「午後か……ニータ、良かったら私の家でお昼ご飯食べない?コンスタンスのご飯美味しいよ」
「シトのメイドさんだったかしら?いいわよ、一緒に食べましょう」
「やった」
(たまにはジャンクフードが食べたいけど、コンスタンスに料理好き設定をつけたからには責任持って食べないとね)
酩酊港街にはハンバーガーショップやバーなどが存在している。
店そのものは港湾冒険者組合が街並みの雰囲気を気にして作られたNPCが経営しているものと、組合員のプレイヤーが経営しているものがある。
プレイヤーが経営しているものは主に銃や戦闘機の設計図、NPCにも装備可能な自作の衣装など。
「ニータはメイドのNPC作ったりしないの?家事は全部任せられるよ」
「私は料理も掃除も好きだから、それにNPC作成券は全部売ってるから今は作れないわ」
「お金は何に使ってるの?」
「実は港湾冒険者組合の戦艦建造を支援してるの」
「組合が建造中の戦艦っていうと比叡?」
「そうよ、完成が楽しみねぇ」
M&Mにおいて軍艦を建造する者は多くない。
建造に必要な資源が多すぎる上に使用する機会が少なく運用も面倒で、プレイヤーが操作するかNPCに技能を持たせて操作させるか、一時的に操作してくれるミニオンを雇うしかない。
そのため酩酊港街のギルドは駆逐艦一隻と潜水艦一隻、魚雷艇を数隻しか保有していない。
しかしそういうデメリットを考えず、ひたすら大量の軍艦を建造しているギルドもある。
(前に海上レイドイベントあったけど、セスデクさんはよくルーベン・ジェームズだけでクリアできたなぁ)
シトの自宅に入ると、玄関でキャロラインが出迎える。
「そちらはお客様でしょうか」
「うん、友達のニータ」
「よろしくね」
この世界に来てから初めてキャロラインを人に会わせ、対応に問題がないことに安心しつつ、マントをキャロラインに預け、帽子を脱いで椅子に座る。
「シトはあのレイドイベント、行くのよね?」
「うん、まあ戦いはしないと思うけどね」
レイドイベント通知はレイドボスの出現時間と方角だけしか表示されない。
今回のレイドイベントが通知された時点から七日後、つまり七日間準備期間を与えられるレベルの敵という可能性がある。
しかし何度か運営の嫌がらせレベルに強力なレイドボスが通知と同時に出現したこともあるので出現時間はあくまでも目安。
「それじゃあ何をしにいくのかしら?」
「クリムさんっていう人と会うために開始地点に行くだけだよ」
酩酊港街からリッジウェル邸までの道がわからなかったため、シトとクリムはレイドイベントの開始地点で会うことにした。
シトとクリムの二人が北を向いた状態でレイドベントの開始地点を確認すると、シトからは西、クリムからは南の方角だった。
シトはレイドイベント参加者の車両に同乗し、クリムはリッジウェルの者に送ってもらう。
レイドイベントが終わったらまた参加者の車両に同乗して酩酊港街へ帰還するという手筈。
「ご飯持ってきたよ~」
「まあ、美味しそうね」
「ありがとうコンスタンス」
「零戦二一型、今回はウェストランドワイバーンじゃあないんだな」
隣にいる男性の問いかけにアングルは頷いた。
零戦はM&Mにおいて利点がいくつか存在する。
それは古い機体の中では比較的航続距離が長く、ゲームの中で簡単に手に入るという点。
少し頑張れば大抵のプレイヤーが入手可能なのでレイドイベントなどで他のプレイヤーと連携しやすい。
時代制限に引っかからずに長い時間飛んでいられるため初心者や初心者と飛行するプレイヤーには愛用されており、零戦の派生型なら操縦の感覚が似ているので乗り換えもしやすい。
問題点は地上目標に対する火力不足、しかし今回のレイドイベントでは他の機体に任せられる。
「よおチーフ」
「……マスター、増加燃料タンクと弾薬の補充は完了した」
チーフと呼ばれた白衣を着た研究者風の女性は男性をウザったそうに睨みつつ、アングルに報告をした。
チーフに対して頷いたアングルは機体に乗り込み、エンジンを始動させた。
「一発でかかるとは、さすがチーフだ」
「マスター……気をつけて」
プロペラの音で聞えてはいないが、そう言ったチーフに対してアングルはサムズアップをしてゆっくりと飛んで行き、二人は見えなくなるまで見送った。
「空は……広いな」




