ハリス村緊急クエストクリア
「あ、あんたそれ大丈夫なのかよ……?」
スドパはシトの手の怪我を見てギョっとした後に心配していた。
「へーきへーき、それよりありがとうね、君のおかげで盲目のものを倒せたよ」
指が二本千切れた左手は、スドパには非常にグロテスクに見えいているが、シトやシャルには赤いドライアイスの煙に見えている。
スモアは流血表現を通常に設定しているが、シトは流血表現の設定変更ができず、シャルはグロテスクなものが苦手なので流血表現を規制モードにしている。
「シトさーん!」
見張り櫓が降りると、リャポダは沢山転がっているモンスターの死体には目もくれずにシトの元へ走って抱きついた。
対するシトもリャポダが両腕を広げるのを見ると、小銃を肩にかけて両腕を広げて抱擁を受け入れた。
「おっとっと、無事で良かったよ」
「シトさんも無事……ではないですね……」
首の後ろにまわした腕が解けるのに名残惜しさを感じつつ、リャポダにされるがまま両手を見せた。
「ああ……指が……」
「安全地帯に行けば治るし問題ない、それにこんなことは初めてじゃないし最後でもないよ」
シトが両手をリャポダの頬に当てると、リャポダは僅かに微笑んだ。
数分間二人がイチャついているとハーフトラックから降りてきた三人のプレイヤーが歩いてくる。
一人はレーラだが、他二人はトゲトゲが着いた肩パットをしており、一人はスキンヘッドの女でもう一人は男性の筋肉解剖模型。
「やあレーラさん、今まで何してたんですか?シャルは連絡取れないって言ってましたけど」
「いやさ、いつ合図があっても良いようにトラックの上で待ってたら急に体が浮いてよ、吹っ飛ばされて骨折して動けなかったから自滅したわ」
「あー……それで遅れたんですね」
「あの攻撃は絶対盲目のものだと思ってさ、急いで来たんだよ……ヴァルハラとか二度と行きたくねぇわ」
(訓練ってやつをさせられたのかな?いったいどんな訓練なんだろ)
「大変でしたねぇ」
「お前らこそ大変だったろ、遅れて悪かったな……指取れてるじゃねえか、トラックから応急キット取ってきてくれシャーリー」
スキンヘッドの女性がトラックへ戻った丁度その時、沖からこちらを見守っていた村人や騎士が戻ってきた。
村人は皆が口々にその場にいる者に礼を言うが、人体模型のヒャッハーズ!メンバーには皆が怯えていた。
(まあ人体模型はM&Mでも敵だったことが多いし怖いよね、ヒャッハーズ!の場合服装も悪いし)
そして騎士達はと言えば怪我を負ったウィルヘルムに魔法をかけながら「見捨ててすまなかった」と謝罪し、ウィルヘルムも「あれは仕方ない」というやり取りを全員分行っている。
「アウトサイダーの皆様、村をお救いくださいありがとうございます」
「いえ、当然のことです」
「シトはお人好しだなぁ」
「まあアイツは施設の子だからな、植えつけられてるんだろうさ」
「おっ、スモアお疲れさまぁ」
会話もそこそこに全員でモンスターの死体の処理を開始する。
やることは単純でただモンスターの死体を攻撃するだけ。
M&Mのゲームシステムの通貨であるJは倒した段階で手に入るが、ドロップアイテムなどは死体を攻撃して完全に消し去らなければ手に入らない。
「シトさんは休んでてください、私が変わりにやりますから」
「そう?じゃあお願いね、あれ?」
小銃から銃剣を取り外してリャポダに手渡そうとすると、銃剣はリャポダの手をすり抜けて地面に落ちた。
その現象はその場にいたプレイヤー全員が見覚えのあるものだった。
パーティを組んでいなかったり、他人の武器を使用できるダンジョンや対人マッチング以外では他プレイヤーの武器を持とうとしてもすり抜けて持つことができない。
それと同じ現象がプレイヤーであるシトと現地人の間でも発生した。
「そういえば銃剣も武器扱いだったな」
「じゃあスドパ君の槍ならどう?」
スドパが今持っている槍はムーンビーストのものであるが、槍が刺さっていた盲目のものや持ち主であろうムーンビーストを消滅させても残ったままだった。
その槍を回収してリャポダに渡してグールの死体に突き刺してもらう。
「普通に刺さるね」
槍に刺されたグールの死体は普通の生物のように血を流した。
「死体の処理はプレイヤー、アウトサイダーじゃないとできないってことか」
「お役に立てず申し訳ないです……」
「まあそんな時間かかることじゃないから気にすんな」
死体の処理を終えると村人が礼をしたいというのでシト達は一日滞在することにした。
モンスターの襲撃がもう一度来る可能性も考えて航空部隊が定期的に上空から監視する準備が終わるのを待ち、騎士達からファイロ帝国のことを聞くためでもある。
「ええ?そんなに緊急クエスト発生してるの?」
「航空機持ちのほとんどは大忙しさ、時間に差はあるが今のところ発見できた現地人の住んでる場所は全部モンスターに襲われてるらしい」
(私が最初に見かけた村も、リッジウェル邸も襲われていたなぁ……)
「第一騎士団と第二騎士団に第三騎士団も少し、我々騎士見習いも実戦用装備を与えられて出動する始末だからな」
鎧を脱いで魔法での治療を施されたウィルヘルムはすっかり健康になっており、その外見は十三歳か十四歳ほどの少年。
「ファイロ帝国騎士団ってそんなにいるの?」
「人数が多いのは事実だが役割が分かれているから第一から第三まで存在している」
スケイルズ率いる第一騎士団は盗賊などの対人戦闘を行う者達、第二騎士団はドラゴンやユニコーンなどの幻獣や怪物との戦闘を行う者達、第三騎士団は治安維持や警備を行う者達。
「ファイロ帝国の武装組織は基本的に騎士団と親衛隊だけだ」
「親衛隊って言うと……書記官鳥親衛隊ってやつだっけ」
「知っているのか?」
「うん、この世界に来た時お世話にな――」
「みなさん、お食事ができましたよー」
「はーい、話は食べてからにしよっか」
「そうだな」
皆が食事を取った後にシト達は騎士達とお互いの経緯、騎士としての立場上可能な限りを話し合って夜を明かした。
そして翌日の朝。
「本当に徒歩で大丈夫か?コイツで近くまで送っても良いんだぜ?」
レーラが騎士達にそう言いながらハーフトラックをこんこんと叩くが、騎士は全員断った。
「ご厚意には感謝する、しかし見習いの我々が勝手にアウトサイダーの方々と繋がりを持つのはな」
「今更なに言ってんだ、もう友達だろ?」
「ははは、そうだな……このことを報告した上でまた会いに来るよ」
(ウィルヘルムって怪我してない時はこんな感じなんだなぁ)
シトはウィルヘルムが怪我をしていた時との違いを少し可笑しく思いつつ、目の前のリャポダと別れを言う。
「絶対にまた会いに来てくださいね!」
「迎えに来るよ、リャポダちゃんを私達の街に招待できるようにしてもらうから」
「は、はい!」
シトとリャポダが別れを言う間、スモアはポーダイン、シャルはスドパと別れを告げた。
全員がファイアパターンのハーフトラックに乗り込み、見えなくなるまで手を振った。
シトが左手の指を再生するため、騎士から得られた情報を持ち帰るために酩酊港街に戻ることになった。
「ハリス村はもう大丈夫だよね?」
「まあ何かあったら巡回してる航空機が見つけるさ、あの村は酩酊港街からめっちゃ近いからすぐ来れるし」
「そそー、気楽に考えなぁ」
トラックは酩酊港街の門の前に止まり、ヒャッハーズ!の三人に別れを告げて街に入る。
すると広場にプレイヤーが集まっており、なにやら異様な雰囲気を纏っていた。
気になったシャルは一番近くの鎧武者風のプレイヤーに話しかけた。
「どうしたんです?何かありました?」
「ん?ああ、UI開けばすぐわかりますよ」
そう言われてシトとスモアとシャルはUIを開く。
すると右下のイベント通知の所が普段の灰色ではなく赤色に変わっていた。
「レイドイベント……?」




