ハリス村緊急クエスト3
(ここは……水中!?)
盲目のものに吹き飛ばされ海に落ちたシャルは一瞬上下の感覚がなくなり、口や鼻から入った海水でむせるのを我慢していた。
(落ち着け落ち着け、焦ったら駄目……っていうか耳痛い、私沈んでる?)
シャルは弾薬などを入れているリュックのせいで沈んでいた。
水圧のせいで耳に痛みを感じている。
(ネコミミの方は大丈夫だけどイヤーマフのせい?そもそもこのネコミミって……いやそんなこと考える場合じゃないね)
マントとリュックを脱ぎ捨て急いで浮上する。
しかしそれでも浮上しきるまでの苦しさはあるため、少し息を吐いて苦しさを紛らわす。
さらに荷物を捨てることもできるが、シャルは拳銃を持ち歩いていないので今持っているSVT40を捨ててしまうと完全に丸腰になってしまう。
(苦しい!苦しい!もう銃捨てちゃおう)
諦めて銃を捨てたその時、何者かに背後から掴まれ、シャルの体が浮上する速度が増した。
そして水面から顔を出してゴホゴホと数十秒咳をした後に後ろを見た。
「ゴホッ、き、君は……?」
「……俺の名前はスドパ」
「あーもう!うんざりだってば!」
シトはグールとの二度目の白兵戦に苛立ちながらも一番近くのグールに発砲して即座に排莢を行う。
「グルァァッ!」
「だりゃぁ!」
飛び掛ってきたグールを銃床で殴り、怯ませた隙に別のグールを撃ってから怯んでいるグールに銃剣を二回突き刺して排莢。
「シト!左側に避けろ!」
スモアの指示に従って確認するよりも先に左側に回避する。
家の壁に背中をつけてさっきまでいた場所を見ると、ムーンビーストが投擲したであろう槍が刺さっていた。
スモアのM1A1カービンによる.30カービン弾の射撃はグールであれば簡単に倒せるが、ムーンビーストに対してはストッピングパワーが不足している。
もちろん倒せないことはないが、ムーンビースト一体を倒す間にグールを数体倒すことができる。
一体のムーンビーストが地面に刺さった槍を走りながら手に取り、シトに襲い掛かってくる。
「グールは任せたよ!」
「了解!」
スモアは盲目のものに吹き飛ばされる前にできる限り多くのグールを倒す。
現在確認できるムーンビースト三体はシトが倒す。
「来いカエルちゃん、唐揚げにしてやるわ」
小銃をムーンビーストに向けて発砲し、正面から見て右よりの中央に命中。
しかしやはり一発では仕留められない。
(四足動物なら急所のはずなんだけどなぁ)
ダァン!ダァン!
装填されている弾の残りを全て撃ち込む。
「――――!」
「うわっ!」
最後の力を振り絞ったかのようにムーンビーストが再度槍を投擲してくる。
しかし身体構造的が投擲に向いていないためか、槍はシト体を大きくはずれて後ろにある家の壁に突き刺さり、ムーンビーストは倒れこんで少し足掻いた後に事切れる。
「残念だったね」
弾薬盒からクリップを取り出して小銃に装填、ボルトを操作して薬室に弾薬を送り込もうとしたその時。
「グルァァァッ!」
「なっ……!?」
シトの背後にある家の木でできた窓を突き破ってグールが飛び出して来た。
鋭い爪をシトに振りかざすが、シトは小銃を盾にして爪を受けて後ろに下がる。
(なるほど……さっきの槍投げは私の弾切れを家の中にいるグールに伝えるための合図だったのね)
槍は命中すればシトにダメージを与えられ、命中しなくてもグールに合図を送れるというムーンビーストの作戦だった。
(まあ私は無傷……じゃない……)
左手の違和感に気づき、見てみると左手の薬指と小指が千切れ、薬指の先は斜めに傷つき爪が剥がれている。
その怪我に気づいた瞬間、シトには腹の底から熱い怒りが湧いてきた。
「よくも!結婚できなくなったじゃない!」
小銃のスリングを左腕にかけ、右手で拳銃を取り出してグールに乱射する。
右手の切断と左足の切断を経験したせいなのか、シトには薬指をなくしたことによる冗談を言える冷静さが残っていた。
「シトー!」
スモアの声が聞えて見張り櫓に目をやると、体を宙に浮かせたスモアが櫓にしがみついているのが見えた。
上位個体の盲目のものによる攻撃がスモアを捉えている。
目には行ったのはそれだけではなく、スモアの銃撃によって死んだ数十体のグールを他のグールが見張り櫓の下に積んで足場を作っている光景。
残った二体のムーンビーストは舟の横に落ちているオールと網を組み合わせて作ったであろう即席のアンカーを櫓に引っ掛けて引っ張っている。
このままムーンビーストがアンカーを引っ張って櫓の高度を下げれば、グールの死体の足場まで下がってしまう。
「させるか!」
狙うのはムーンビースト、高度を下げさせなければ少なくともスモア以外の櫓に乗っている者はとりあえず助かる。
発砲しようと引き金に指をかけた時、右側から水音が聞えて振り向くと、そこにはシャルとオルカ族の少年、スドパがいた。
「シト!その槍この子に渡して!」
「えっ?うんわかった」
シトには意味がわからないことだが、とりあえずシャルには考えがあると思い壁に刺さっている槍を引き抜いてスドパに渡す。
槍を受け取ったスドパは思い切り息を吸って目を瞑ると、呪文を唱えた。
「[エコー]」
ジッリウェル邸でセリカやメイド長がやっていたようにスドパが魔法を使うと、三秒ほど舌打ちのような音がこだまする。
そして一秒ほど経った時、スドパは目を開けると手に持った槍を何もない空間目掛けて投げ放つ。
「そこだぁッ!」
飛んでいった槍は見張り櫓の真上で突然停止し、何かに突き刺さる。
そして悲鳴などの声は一切上げないが、確実にそこには何かがいるのがわかる。
盲目のものの力から解放されたスモアは、即座に下のモンスター目掛けて銃を乱射。
シトは槍の周囲に小銃を可能な限り早く発砲する。
「見えた」
「き、気持ちわるいな」
その場にいたシャルもシトもスドパの呟きに同意する。
銃撃を受けて姿を晒したそれは、体長五メートルほどの半ポリプ状の生物。
長い胴体には所々に触手や人間のものに似た歯を持つ口。
それぞれバラバラの大きさであるイソギンチャクのような物体が各所から飛び出している。
「銃借りるよ」
シャルはシトの腰から拳銃を取って発砲する。
今回は共にパーティを組んでいるので他のプレイヤーが持つ銃を使用可能。
二人が盲目のものに向かって銃撃を行うが、ボスモンスターを倒すには攻撃が足りない。
「銃捨てなければよかったかもぉ!」
「スモアにも撃ってもら――」
その瞬間、大きな音が遠くなら鳴り響き、同時に盲目のものに大量の銃撃が加えられているのがわかった。
機関銃の連射と大口径の銃声が組み合わさった音。
「あっ、アレ見て」
「ん?レーラさん?」
シャルの指差す方にはブローニングM2重機関銃を積んだM3ハーフトラック。
しかし妙なことにシト達が乗ってきたものとは違ってモンスターの頭骨が乗っていたり、ファイヤーパターンのペイントが施されている。
「ヒャッハーズ!ではあるみたいだね」
ヒャッハーズ!の保有する車両には攻撃的な加工がされているものばかりで、シト達が乗ってきたのはかなり希少。
「なんでもいい、とりあえず味方だよ!マデュース最高!」
シトとシャルとスモアによるモンスターへの集中攻撃。
盲目のものを倒し終えた重機関銃は残ったモンスターに対して家を壊さないように精密な射撃を行う。
数分もしないうちにモンスターは全滅した。




