ハリス村緊急クエスト2
「オラッ!言う事をきかねぇとこのジイさんの頭が吹き飛ぶぞ!」
「え?あっ!ひ、ひぃぃぃ!お助けください騎士様ぁ!」
スモアの演技に気づいたポーダインは状況の把握が早いのか、ノリが良いのか合わせて怯える演技をした。
「やはり村人を脅していたか!卑劣な奴め!」
これで騎士達のスモアに対する印象が村人を脅してモンスターがいると嘘をつかせた謎の力を使うアウトサイダーになった。
(にしてもこの騎士達アホすぎじゃない?全員なぜか声が高いし背が低いし……)
シトが騎士達に疑問を持っている間にもスモアの演技は続いた。
「さっさと村に入ってボートに乗るんだよォ!はやくしねぇとこのジジイを婆さんの財布みたいに引き裂くぞゴラ!」
「わ、わかった!従うからその人には手を出すな!」
そう言って騎士達は剣を、赤と黒のサーコートを来た者達は杖を捨てた。
「いや武器は持ったままで良いんだよ!拾え拾え馬鹿共が!」
「ええっ?は、はいすぐに――」
リーダーらしき騎士が剣を拾おうとした時、風が吹いた途端騎士の体が空中へ浮いた。
「ア”ァーウ”ッ!」
「ウィルヘルムー!」
その場にいる全員が驚き、状況を理解できないでいると、ウィルヘルムと呼ばれたリーダーらしき騎士はまるで誰かに投げられたかのように村の方へ吹き飛んだ。
そこまで見て状況を理解できたのはシトとスモアだった。
「まさか”あいつ”がいるのか」
「マズいね、シャル!はやくこっちに!」
シトが大声で呼びかけると、近くの岩陰から出てきたシャルが全力で走る。
その間シトは三十年式銃剣を小銃に取り付け、スモアはM1A1カービンを手に持って折りたたんでいた銃床を伸ばす。
周囲を警戒し、十数秒でシャルが辿り着く。
「はぁはぁ、さっき騎士が飛んでいったのってもしかして……」
「間違いない……”盲目のもの”がいる、レーラに連絡して」
「それがさっきから応答がないんだよ」
「じゃあスモークグレネード投げといて」
「了解」
スモークグレネードのピンを抜いて適当な方向へ投げると、緑色の煙が立ち昇った。
”盲目のもの”とはM&Mにも存在した厄介なボスモンスター。
グールと同様に地下系のダンジョンでしか見かけないが、飛翔能力を持ち一定時間姿を消し、壁を通り抜けたり風を使って人を宙に浮かして飛ばすという非常に厄介な存在。
ダンジョン内は基本的に屋内であるため、最悪周囲に銃を乱射すれば良いのだが、今回は屋外であり居場所が掴めない。
電気に弱く、風の力は再使用に時間が掛かり、透明化も一定時間で消える。
M&M開始当初は風の力を連続で何度も使用してきたが、後に修正されて現在は一部の強化された上位個体以外は再使用におよそ五分は必要。
「逃げよう、騎士もだ急げ」
「ウィルヘルムを探さないと!」
「あいつでもあの高さじゃ死ぬって!」
「逃げようよぉ!」
情けない声を出す騎士を急かして村へ進ませていると、後方からモンスターの群れが姿を見せた。
五十体は多いが、三人いれば勝てない数ではない。
シトの所有する弾薬は九十発、スモアは十五発入りマガジンを八個持っているので百二十発、シャルは十発入りマガジンを体に身に着けたものとリュックに入っている物も含めて十四個持っているので百四十発。
モンスター一体を一発で倒すことは難しく、全弾命中させるのも難しい、村に被害が出る可能性があるので航空部隊の支援は可能な限り避けたい。
モンスターの大半は脆弱なグールばかりであり、航空支援がなくとも安全な場所から慎重に発砲しつつレーラの援軍を待てばそこまで困難な状況ではない。
しかし今回は安全な場所、例えば見張り櫓から発砲を続けたとしても盲目のものに地面へ投げられてしまったら問題だ。
「早く乗って……増えてない?」
リャポダや数人の村人がボートとオールを準備していつでも海へ行けるようにして待っていた。
だがシトとスモアとポーダインの三人しか想定していなかったのか、準備されているボートは一隻。
「おい騎士、さっさとあそこのボート浮かべろ!」
「は、はい」
騎士がボートを準備する間に銃撃を行う。
「近くに来るまではしっかり狙って撃てよ」
スモアの指示に従いシトとシャルは四百メートルほど先の迫り来るモンスターをじっくり狙う。
シトは左の脇を締めて左手の親指が銃の右側に来るように構えた。
奇妙な構えだが、銃の撃ち方は銃の種類と射手の体格で違いがある。
「できました!」
数発撃つ間に一隻が海に浮かべられてオールを取り付け終わった。
「よし、頑張れば八人は――」
「見ろ!ウィルヘルムが!」
スモアの言葉を遮って騎士の一人が声を上げながら指を指した。
その方向には先ほど飛んでいったウィルヘルムが百十メートル先の民家の中から這うように出てきてる。
どうやら飛ばされた後民家の屋根に落下していたようだ。
「助けないと!」
「ちょっ……あーもう、ポーダインさんとリャポダちゃんは先に行って」
「すまんのう」
「私はもう一隻用意しておきます」
一人の騎士がウィルヘルムを助けるために走り出した。
プレートアーマーを装備した足を折っているであろうウィルヘルムを連れてくるには距離がありすぎる。
一人では確実に連れ帰る途中に追いつかれるだろう。
他の騎士達もそれを理解した上でウィルヘルムを見捨ててさっさとボートを出した。
ポーダインもボートに乗ったが、リャポダは残ってボートの置いてある方へ向かう。
孫を見送るポーダインは心配そうだったが、オルカ族はいざとなれば水中へ逃げることができるので引き止めなかった。
「私達も助けに行こう」
「わかった」
「えぇー」
スモアは了承したがシャルは渋った。
「じゃあそこから援護しろ」
「それなら――きゃぁー!」
シャルは言葉を言い終わる前に宙を舞って吹き飛び、海にドボンと音を立てて落ちた。
「まだ三分も経ってないのに……」
「上位個体の盲目のものだ、シャルは気にするな、早く行くぞ!」
海なら問題にはならない程度の高さであり、アウトサイダーであるシャルは死んでも蘇るので後回しにするという判断だ。
シトとスモアはウィルヘルムの所まで走っていると、遠方のモンスター達が立ち止まっているのが見えた。
そこで気がつく、先頭のムーンビースト達が光る手を後方のグール達に向けていることに。
「ヤバイ」
そしてムーンビースト達の手が発光して消えると、後方のグール達が緑色に輝いていた。
「強化されちまったぞ急げ」
ムーンビースト十体の魔法によるグールの移動速度上昇。
今まで全力で走っていなかったのは獲物がより多く引き寄せられるのを待つためだろう。
二人はすぐにウィルヘルムと真っ先に駆け寄った騎士に手を貸す。
「そっち持って」
「はい!」
スモアが銃撃で接近してきたグールを倒し、シトと騎士でウィルヘルムを担いでボートまで歩く。
「痛い!痛い!あし!足が折れてるんだって!」
「人間には二百十五本も骨があるのよ、一本くらいなによ」
「両足ヤってるんだよ!あと右手も!」
(痛いのはわかるけどここまで喚くことなの?私みたいに切断された方が痛くないとか?)
泣き喚くウィルヘルムはかろうじて暴れていないが、全身を覆うプレートアーマーは三十五キロになるものがある。
ウィルヘルムの場合は小柄なのでもう少し軽いだろうが、それでも人間一人というのはかなり重く、なにより人体というのは柔らかく安定しないため持ち運ぶのに手間取る。
シトのアバターはそれなりの身長があるが、もう一人の騎士はウィルヘルム同様小柄なので高さが合わないのが運びにくい主な原因だろう。
「多いなぁ!」
既にシト達の半径十メートル以内には入ってきてるのをスモアがギリギリで抑えている状況だ。
スモアとシトで持ったら確実に攻撃される。
「グルァァァ!」
「くそっ!」
シトと騎士の右前方に回りこんで来たであろうグールが飛び掛る。
マガジンチェンジを行っていたスモアは拳銃を取り出し、同じくシトも片手を離して拳銃で攻撃を行う。
「ギァァッ!」
一体を倒すことには成功したが、ボートのある右前方には続々と回りこんで来たグールとムーンビーストが見える。
スモア一人で右前方のモンスターを倒してボートに乗るのは困難だ。
「シトさん!こっちです!」
「リャポダちゃん?なんで逃げてないの」
水面に体を入れて隠れていたらしいリャポダが姿を現した。
リャポダに着いて行った先は、見張り櫓だった。
「これ逃げ道が……」
「なんでも良いから行け」
スモアに急かされたシトと騎士は櫓に乗り、ウィルヘルムを下ろして銃撃を行う。
「なんだこれ、浮くのか?」
櫓のことを知らなかった発砲しながらスモアは驚いていた。
そして櫓がゆっくりと上昇し、モンスターの攻撃が届かない高さになった所でリャポダがシトに声をかけた。
「これで後はその武器で攻撃するだけですね!」
リャポダはこの僅かな間に銃というものが遠距離攻撃を行う武器だと見抜いていた。
なので相手の攻撃が届かない高さまで櫓で上がれば一方的にシトとスモアが攻撃できると考えての判断だ。
だが盲目のものという存在は知らないので、シャルがどうして吹き飛んだのかは理解できなかった。
「いや、ここにいても盲目のものが――」
スモアとシャルに続いてシトも言葉を遮られた。
「し、シトさん!」
シトは盲目のものに吹き飛ばされ六メートルの高さから落下した。
人間が死ぬには十分な高さだが、シトが落ちた先にはムーンビーストがいた。
「――!」
ムーンビーストのブヨブヨとした肉体に落下の衝撃が吸収させ、なおかつ上手く受身を取ったおかげで怪我は膝の擦り傷程度。
しかし周囲には手を伸ばせば届く距離にモンスターがいた。
「あーもう!うんざりだってば!」




