ハリス村緊急クエスト
「へぇ、その魔道教会って人達が魔法を教えてるのか」
「うむ、捕鯨では少しでも使えると便利なんじゃ、だからハリス村ではみんな使えるんじゃよ」
シトがリャポダを口説いてる間、スモアはポーダインと話をしていた。
本来ならこの世界のことやシトの探しているリッジウェル家の情報を聞くのが重要だ。
しかしリッジウェル家のことは誰も知らず、リッジウェル家の情報を得られる可能性が高いファイロ帝国のことは知れた。
なおかつ急ぎの用事でもないので今は現地人と仲良くなるために雑談をしている。
「あんたも使えるの?」
「うーん……魔法は筋肉みたいなもんでな、使わないと衰えるんじゃよ、ワシは何年も漁へ行っとらんからなぁ」
オルカ族の捕鯨方法は人間の行うものと少し違っている。
ハリス村に一つしかない帆船である程度クジラの群れに近づいた後に小型ボートを使って接近する。
そしてボートとロープで繋がった銛を打ち込むのだが、この村では浮きと繋がっている銛も同時に打ち込むという。
ここまでは人間と同じだが、オルカ族の捕鯨の特徴は解体にある。
水中でも長い間息を止めることが可能で、なおかつ泳ぐのが得意な彼らは全員が水中で解体作業をする。
その時クジラの血に引き寄せられてサメやシーサーペントなどの肉食生物がクジラを食べてしまうのを防ぐため、水中で電気系の魔法を誰かが常に使用する。
電気系の魔法でサメを追い払うという知識はかつてどこかのアウトサイダーから伝わったものらしい。
(前にクジラ型のレイドボスが出たことあったな……銛じゃなくて魚雷で仕留めたけど)
「私に銛投げて来た……スドパだっけ?あの子も漁に行くのか?銛投げ上手かったし」
「来年の今頃には行くじゃろうが……しかし盗賊に父親が殺されて以来ずっと村を出たがっておるのでな……」
(父親をねぇ……重い話になりそうだから話題変えたいなぁ)
「そういえばスモアさんが飛んでくる銛を捉えたのは驚いたのう、あれはいったいなんなんじゃ?」
「ああ、あれはハワイで親父に――」
『こちらシャル応答せよ、繰り返す、こちらシャル応答せよ』
スモアがポーダインの質問に答える前にシャルから連絡がきた。
『こちらシト、どうぞ』
「こちらスモア、オーバー」
『私が隠れた岩場から南南西の方角、武装集団接近、数は十以上』
『見た感じ盗賊だけど、現地人?』
『それも問題だけど……西からモンスターが接近中、数はおよそ五十!』
シトはショルダーベルトに取り付けた単眼鏡を使って遠くに見える武装集団を覗く。
「あれ?あの甲冑って……」
武装集団は後方のモンスターにはまだ気づいていないのかゆっくりと歩いているが、このハリス村に近づて来てはいるためその正体が次第に分かってくる。
「確かファイロ帝国騎士団だっけ?」
スケイルズとよく似た甲冑を身に着けた者先頭にいた。
スケイルズと違う点と言えばヘルメットに一つ目が描かれていなかったり、背中から垂れているマントをベルトで縛り付けていない点だろうか。
しかし十五人ほどの騎士の中には見覚えのない赤と黒のサーコートを着用している者が混じっている。
「リャポダちゃん、地面に降りたい」
「は、はい」
リャポダが青い石に手に触れるとゆっくり高度が下がる。
「もっと早くならない?」
「ごめんなさい、安全のために魔力を抜いてもゆっくり降下するように作られてるらしいんです」
(魔道教会とやらは気が利いているみたいだけど……はやくはやく)
いくら急かしても見張り櫓は同じ速度で降下しているので、時間を無駄にしないためにフレアガンを一発上空へ撃つ。
フレアガンは予備の信号弾が一つしかないがまだスモアが持っているし、シャルはスモークは焚いていないが既に無線で航空部隊へ連絡しているはずだ。
数十秒経ってからやっと着地した。
「リャポダちゃんは村の人を安全な場所……ボートに乗せて海に逃げて」
リャポダと一緒に散歩をしている時に聞いた話で、盗賊がハリス村を襲った時は数人が盗賊を足止めしている隙に全員が海に逃げたという。
泳ぎが得意なオルカ族は海でもかなり長い間留まれるという話を思い出しての判断だ。
「し、シトさんは?!」
「私はスモアと一緒に騎士団達も非難させる、ボートをいくつか海に浮かべといて」
スモアと一緒に騎士団にモンスターの接近を説明してさっさとボートに乗り込んでしまえば良い。
みたところモンスターはやはりグールやムーンビーストが多かったが、ガーゴイルのような飛翔するモンスターは確認できなかった。
もっともグールやムーンビーストが泳ぎが得意だったら厄介だが今はそうする以外にない。
小銃の遊底を引いて装填を行い、急いで騎士団のいる方へ向かった。
「海へ逃げてください!モンスターが来ています!」
周囲に警告を言いながら走る。
「モンスター?……というかあなた誰?」
いきなり知らない者に警告されてもこういう反応をするのは当然だが、今は一から説明する暇はない。
ダァン!
「いいから行け!」
「はっ!はい!」
上空に発砲して脅した。
怯えさせてしまっても彼らオルカ族はどうせ陸を走ったりするよりも海へ逃げることを選ぶだろう。
家に隠れてしまう可能性もあるが、シトがさっさとその場を離れてしまえば隠れるよりも安全な海へ逃げるはず。
(思ったとおりに行かないかもしれないしあまり脅すのは良くないな)
少しイラついて過剰な警告をしてしまったことを反省しつつ走っていると騎士団の目の前まで辿り着く。
そこには既にスモアとポーダインが騎士団と向かい合っていた。
「だから!脅して言わせてるんじゃないっての!」
「そ、そうじゃよ!」
「信用ならん!なんだ貴様、仲間がいるのを隠していたのか!」
どうやらモンスターの接近を信じていない騎士団とスモアが言い合っているようだ。
(私が来て状況悪化してる?)
「スモア、ボートで逃げるってことになってるんだけど……」
「そうか、しくじったな……ポーダイン一人で説明に行かせれば良かった」
この世界では警戒の対象であるアウトサイダーがいきなりモンスターの襲撃を警告しても信用できないのはわかる。
しかし彼らは何のためにこの村に来たのか、スケイルズのようにモンスターから村人を守りに来たのではないか。
そんな疑問をシトが抱いていると、スモアはおもむろに左手を上げた。
その人差し指と親指を立ててピストルのようになっている手を見て何をするのかシトは理解した。
「おい!妙な動きをするな!」
先頭のリーダーらしき騎士は剣をスモアに向けた。
「……弾入ってる?」
「多分な」
そして左手を時計回りに動かしたスモアは、人差し指を騎士の剣に向けた。
キィン!
次の瞬間、騎士の持っていた剣が金属音を響かせて吹き飛ぶ。
スモアの合図に合わせて岩場に隠れていたシャルが騎士の剣を狙撃したのだ。
「なっ?!」
「何か起こったの?!」
この世界の特殊な金属なのか技術なのか、7.62×54mmの弾を受けても騎士の手元から離れた剣は傷一つついていない。
スモアは左手の人差し指をポーダインの頭に突きつけてこう言った。
「オラッ!言う事をきかねぇとこのジイさんの頭が吹き飛ぶぞ!」




