オルカ族
私とスモアは自宅へ招待してくれるという村長のポーダインさんの後を歩いている。
「ポーダインさん、ここはなんて言う村なんですか?」
「ハリス村というオルカ族の漁村じゃよ」
「オルカ族?オルカってシャチのことじゃ?」
「そのようですな、元々は我々種族に名前なんてなかったがアウトサイダーに命名された、という伝説があるんじゃ」
シャチは英語ではオルカと呼ばれているが、英語圏のスモアでも自動翻訳のおかげかニュアンスが理解で来ているらしい。
やはり昔にもアウトサイダーと呼ばれる存在の話はあるようだ。
「狭い所で申し訳ないが」
村長の家というには他の家と比較すると結構小さい気がする。
「お邪魔します」
中に入ると丸太の面影を残す長いテーブルや椅子。
石で作られた暖炉などがあり、その他はせいぜい鍋や銛程度。
外には網や樽が置いてあった。
(リッジウェル邸よりも前の時代っぽい?)
若干時代の違いを感じたが、リッジウェル家は貴族だけどここは普通の漁村、身分も場所も時代も違うのに素人の私が考えてもわからない。
「寒かったでしょう、蜂蜜酒でもいかがかな?」
「ぜひいただこう」
「私は飲めないので」
私とスモアは椅子に座り、ポーダインさんは薄っすらと火が点いている暖炉に薪をくべて火を強くした。
その後に木製の入れ物から木製のコップに蜂蜜酒を注いでスモアに差し出す。
(まっ、マズイ……)
スモアが蜂蜜酒を飲んだ瞬間苦い顔をしたが、すぐに普通の顔に戻って蜂蜜酒を飲み干した。
「ポーダインさんはお一人で住んでるんですか?」
「いや、息子と孫と住んでおる、息子は漁へ行っているが孫はもうすぐ水汲みから戻ってくるはずじゃ」
「へー、漁って何獲ってるですか?」
「基本的には魚じゃが、今息子や村の若者達が行ってるのはクジラじゃ」
(ああ、だから武器を持った村人が少なかったのか)
海獣人は泳ぎに優れた種族という設定だけどプレイヤーは見た目だけで行動力に補正などなかった。
しかしクリムやシャルみたいに耳が良くなっているのなら海獣人も泳ぐのが上手くなっている可能性がある。
それなら彼らオルカ族が泳いだりして漁を行っているということもあるだろう。
私が戦ってる時妙に怒りっぽかったのも私の種族のせいなのかな?
そんなことを考えていると家の扉が開き、女性の海獣人が入ってきた。
肌は青と白で、頭部のヒレで目元が少し隠れている、身長はシャルと同じくらい低い少女。
「ただいまおじいちゃ……ん?」
「おかえり、こちらお客さんに挨拶を」
「お客さん!?は、はじめましてリャポダです!」
「スモアだ」
「シトです」
「よ、よろし――!」
私の顔を見たリャポダという海獣人は一瞬体を震わせた後、じっとこちらを凝視している。
その視線が私の顔のどこを見ているのかわかるほど熱心に眼球を動かしているが、最後に視線が私の口で止まっているのがわかる。
「ええっと……リャポダさん?」
「はっ!ご、ごめんなさい!」
なぜか非常に申し訳無さそうに謝りながら水の入った桶を持って家の中にある壷に移し変える。
オルカ族的には顔を見るのが失礼にあたるのだろうか。
「申し訳ない、リャポダはその……歯が好きなんじゃ」
「おっ、おじいちゃん!」
ポーダインさんは頭に手を当てながらとても呆れたようにしており、リャポダは顔を赤くしながら怒鳴っている。
「歯ってどういう?」
「えーっとですな……オルカ族の女にとって歯というのは人間の男性で言う胸に相当するものなんじゃ、尖っているほど良いそうじゃよ」
「うぅ……」
「へー、なるほどな」
つまり初対面の女性の胸を凝視したようなもんなのかな?
それを祖父の前でやらかして祖父に説明されるのはなんとも可哀想だ。
「ちょっと村を見て回りたいんですけど、リャポダちゃんに案内してもらいたいなぁ」
「え?ええっ!?」
「あの……怒ってないんですか?」
「歯をじっくりと見たこと?気にしてないよ」
私だって目の前に巨乳の子がいて凝視しちゃったことあるし。
「もっと近くで見てみる?」
「ぜひっあっ!いや!だ、大丈夫です!」
リャポダは始めこそ無口だったけど、村を一緒に歩きながら周囲にある適当な事を質問して答えてもらう内によく話してくれるようになった。
少しずつだけどチラチラとこちらを見てくるようになったし、好感度が上がった手ごたえはある。
「リャポダのお父さんはいつ帰ってくるの?」
「二日経ってるのでもうすぐだと思うんですけど……父はクジラを獲るのは早いけど油を樽に入れるのが時間かかるって言ってました」
私には身長以外で見分けがつかないけど、村で見かける人はほとんどが年寄りや子供ばかりという。
クジラを発見できた時は若い者が男女関係なく捕鯨に向かうらしい。
普段の食事は網漁や素潜りで取れる魚だけで十分だが、それ以外の日用品や酒、オルカ族の好物である鳥肉は金がなければ手に入らない。
ハリス村はファイロ帝国の領土の中に存在し、ハリス村よりもファイロ帝国に近い場所に人間の漁村があるため魚は売れない。
なのでハリス村ではクジラから取れる油が主な収入源らしい。
「あそこは?」
私は海際の端にあるガゼボみたいなものを指差す。
「あれはクジラ見張り櫓ですね、普段は交替で遠くにクジラがいないか見てるんです」
今見張りがいないのは既にクジラを発見したからだろう。
しかし見張り櫓というには低すぎるような気がする。
「行ってみますか?少し面白いですよ」
「うん、行ってみたいな」
船着場の横を通って見張り櫓の前まで来る。
やっぱり低すぎ、というかやっぱり真ん中に変な青い石があること意外ただのガゼボじゃないのかな。
「乗ってください」
リャポダに言われるがまま見張り櫓に乗ると、リャポダは中心にある青い石に手をかざす。
「お、おお!」
すると見張り櫓はゆっくりとエレベーターのように浮遊し、地上から二十メートルほどの高さで停止する、
「私ではこれくらいの高さじゃないと長く浮いていられませんけど魔力が強い人ならもっと上まで上りますよ、まあそこまで上に行くことはないんですけどね」
「へぇ~!」
ただ高いだけなら既に航空機の操縦もしたことがあるし、なんなら別のゲームで宇宙まで行ったこともある。
しかしやはり現実だという認識があるせいか妙な感動がある。
「ねえ、これってどういう仕組みで浮いてるの?」
「私にはわかりません、私が生まれる前に魔道教会の人の厚意で作られたとは聞いているんですけど」
「魔道教会?アイローゼ教会じゃなくて?」
「私もあまり詳しくはないので……父ならもっと色々知ってるんですけど……」
そこでリャポダは顔を俯かせて手を胸の前でギュッっと握り、なにかを決心したように話し出す。
「あっ!あの、父が帰ってくるまでこの村に泊まっていきま――」
リャポダが言い終わる前に、腰の弾薬盒と繋がっているショルダーベルトに付いている無線機に音声が入る。
『こちらシャル応答せよ、繰り返す、こちらシャル応答せよ』
ここではまだ携帯型無線機の制限がないので使用できるが、場合によってはハンドシグナルなどで連絡を行う。
私は急いで無線機を手に取って返事をする。
「こちらシト、どうぞ」
『こちらスモア、オーバー』
『私が隠れた岩場から南南西の方角、武装集団接近、数は十以上』
シャルの言う方向を見ると、確かに武装している人が見える。
しかしその人影の後ろに続く何かは明らかに十以上という数ではない。
「リャポダちゃん、もっと高くできる?少しの間で良いから」
「え?ええできますよ」
そう言って中心の青い石に手をかざすと、高さは四十メートルほどになった。
この高さから遠くの方に目を凝らすと、武装集団の後ろに続く者が確認できた。
『見た感じ盗賊だけど、現地人?』
「それも問題だけど……西からモンスターが接近中、数はおよそ五十!」
(なんで私はこうもモンスターの襲撃に出くわすのかなぁ……)




