おやすみ
「命中、次は頭部を、風は東から四メートルに変更」
ウィンドウを弄ると風向きと風速が変わる。
「了解……ふぅ」
ダァン!
昨日ヒャッハーズ!の拠点のゲームセンターでレトロゲームをひとしきり遊び、その後に私の所属するゾーリート愚連隊のギルドメンバー数人と再開。
今はその内の一人であるスナイパーのシャルロートカ、通称シャルやスモアと一緒にアングルさんからの情報を待つ間訓練エリアで射撃をしていた。
人型の的を配置し、私が双眼鏡を覗いて様子を見ている。
「命中、結構距離あるのに良い腕だね」
シャルは猫タイプの半獣人、半獣人といってもクリムとは違って手足にも体毛のあるキャラメイク。
華やかな柄のジャンパースカートを主にした可愛らしい衣装だが、上から子汚いマントを着て台無しにしている。
クリムと同様に聴力が良いためケモミミ用イヤーマフというカチューシャのようなものを付けている。
使用している銃はトカレフM1940半自動小銃、通称SVT-40。
機関部に問題がある銃ではあるが、同じソ連製の狙撃銃と比較すると軽量であり、装弾が数十発のオートマチックであるためシャルはこれを愛用している。
「動いてない目標なんて何ヤードで当てても自慢にならないけどね」
「ヤードってなぁに?メートルで言ってよぉ今時ヤードポンド法なんてわからないよぉ」
スモアは無駄に煽り、シャルもそれに乗ろうとする。
これが二人のコミュニケーションというかじゃれ合い。
「はいはい喧嘩するならもっと人いるとこでやってね、賭けれないから」
そして別のギルドメンバーが仲裁するという流れまでがテンプレ。
スモアとシャルが二人きりの時は割と普通に接しているらしい。
毎回やるこの茶番は面倒なのでやめて欲しいんだけど、なくなったらそれはそれで寂しい気がする。
「おっともうこんな時間、コンスタンスがご飯作ってるから出るね」
「そうか、んじゃ私達も出るか」
「そーだね、じゃあねシトお姉ちゃん!」
あざといがこれはこれでアリ。
しかし実際はシャルの方が年上なんだけど恥ずかしくないのかな。
「ばいばい」
UIを操作して訓練エリアから出ると、酩酊港街自宅の自室に出現した。
「おかえりなさいマスター」
「びっっくりしたぁ……!」
いつのまにかキャロラインが真後ろに立っており、急に声をかけられて体が一瞬震えた。
「私の部屋で何してたの?」
「掃除をしていました」
「そう……ありがとう」
部屋の掃除をするなら一言断ってからにして欲しいけど、特に見られて困るものもないしキャロラインがやりたいならいいか。
「食事で出来ています、ここまでお持ちしましょうか?」
「いや、下で食べるよ」
一階のリビングで一緒に食べたい。
と思ったけどよくよく考えればキャロラインの種族はオートマタだから食事や睡眠が必要ないというかその行為ができるのかわからない。
コンスタンスはホムンクルスだけど食事は必要なのかな。
食材は港湾冒険者組合創設ギルドの一つであり生産系ギルド最大手の<ハイヌウェレ>がこの世界でも販売を続けてくれている。
一階へ下りると何かの料理の匂いと、コンスタンスの姿が見えた。
「やあマスター、今日の晩御飯はチリコンカンだよ~」
テーブルの上には白い食器に入った料理とスプーンが二人分。
コンスタンスも食べるみたいだ。
「マスター、マントを」
「あっそうだね、ついでに手を洗ってくるよ」
訓練エリアから出てきたままの格好だから完全武装だった。
マントをキャロラインに預けて小銃を壁に立て掛け、キッチンの蛇口から水を出して手を洗う。
この蛇口からは普通に水が出るけどこれが貯水タンクに繋がっているとかはなく、なぜか水が出る。
ゲームでもそうだったが<二十八番目の世界>でも同じように水が出る。
(不思議だなぁ)
手をしっかりと洗ってから椅子に座ってスプーンを手に取るとコンスタンスがじっとこちらを窺っているのに気づく。
チリコンカンに入っている豆と貝殻型のパスタをスプーンに乗せて口へ運ぶ。
「どうかな~?」
コンスタンスは私が咀嚼を終えて飲み込んだ後に感想を聞いてくる。
「うん、美味しいよ」
ただ今は美少女の手料理というのにテンションが上がってなんでも美味しく感じる気がする。
もっと味覚に集中しないとコンスタンスの技量がわからない。
「そういえばさ、コンスタンスはどこで料理覚えたの?」
僕っ子設定はしたけど料理含めてメイド的な技術は設定していなかった、でもキャロラインもコンスタンスも完璧に家事をこなしている。
「どこでって言われてもな~強いて言えば生まれた時かな~?」
「生まれた時?」
それは私が作成した時なのか、それとも酩酊港街がこの世界に来てからなのか。
少なくとも今のコンスタンスやキャロラインを含めた酩酊港街とヒャッハーズ!の拠点のNPCはこの世界に来てから形成されている。
「えーっとねぇ~うーん……ごめんわかんないや」
私には人を見る目がない方だけど本気でわからないように思える。
スモアのペットであるデイジーやスナッチも同じように記憶がはっきりしていなかった。
「そっか……まいっか、食べよう食べよう」
「食べて食べて、愛情たっぷりだよ~」
「マスター、レモネードはいかがでしょうか?」
キャロラインのレモネード推しも設定した覚えないんだけどなぁ。
「ほらほら、遠慮しないで良いんだよ~?」
食事も風呂も済ませ、後は寝るだけという所で部屋に入ってきたキャロラインとコンスタンス。
キャロラインは護衛とか言って椅子に座ったまま微動だにしない。
そしてコンスタンスは私のベッドに寝て一緒に寝ようと誘ってきた。
共に睡眠を取ろうということなんだろうけど変な意味に聞えてしまうのは確実にヴァルハラのせいだ。
「じゃあ遠慮な――」
言いかけたところでポンという音が頭に響く。
これはヒースさんから連絡が来た時は通知音が鳴るように設定していたことを思い出し、UIを開く。
ヒース:アングルさんからの情報が下りてきました、明日の午前十時頃に追って報告します。
シト:わかりました おやすみなさい
現地人がいると思われる場所を発見したのだろう。
つまり明日か明後日には出かけるということだ。
「マスターどうしたの~?」
「仕事の話みたいなもん、寝よっか」
コンスタンスのいるベッドに入ると、既に暖かくなっていた。
それだけでなく自ら私に密着してくるコンスタンスはとても体温が高く感じる。
(死ぬ直前のメイド長の体温を思い出すなぁ……なんか安心する)
「どうしたの?あっ、当たってるの気になる~?」
「もうっ……お返し」
自分の胸をコンスタンスに押し付け返す。
「マスターって結構おっきいよね~」
この世界が現実ならキャラメイクで大きくした胸は自前の物と言えるのだろうか。
私本来の胸とは明らかにサイズが違うけど自分のってことで良いよね。
「いいでしょー」
「いいな~」
いや、偽りの胸だという認識が拭いきれないせいか自慢すると少し悲しくなるからもうやめよう。
「それじゃおやすみコンスタンス」
「おやすみマスター」
「おやすみキャロライン」
「起動確認、おやすみなさいマスター、待機状態へ移行」
キャロラインは既に寝ていたらしく、一回起きてからおやすみを言ってまた寝たという感じだ。
これからは無駄に起こさないように気をつけよう。




