ヒャッハーズ!
「装備完了?」
「OK」
ウインクと共に右手の親指を立てるスモア。
これから周囲の確認とヒャッハーズ!に車を出してもらう依頼をするため、酩酊港街の外へ出ることになった。
酩酊港街の横にヒャッハーズ!の拠点があると言っても実際どれくらい離れているかわからないので、念のため武装をして行く。
私は弾薬の補充は済んでいるけれど、せっかくだから手に入れたばかりの杉浦式自動拳銃を持っていくことにした。
杉浦式自動拳銃と書いてはあるが、実際はコルトM1903とほぼ同じであり、せいぜいグリップと刻印とセーフティの形状くらいしか違わない。
「しっかしスモアは地味になったね」
今までの可愛らしい服やロマン重視の武器とは違い、現在は勇ましい。
標準的な深緑の戦闘服の上からチェストリグやベルトを着用。
袖は指が二本入る程度に肘上までピッチリと捲くり、帽子にコンバットグローブとコンバットブーツも着用。
胸のホルスターにはM1911A1(海兵隊仕様)、腰には軍用トマホークとマーク2コンバットナイフ。
メインで使うM1A1カービンを背中に担いでいる。
「うっせぇ、十分可愛いだろ?」
アニメや漫画のあざといキャラクターみたいなポーズを取るが、やっぱり可愛いとは思えない。
「うんうん最高に可愛いよ」
スモアの冗談に冗談で返してスモアの家を出る。
外は相変わらず晴天で、空気が美味しいという感想を抱く。
まずは酩酊港街の外へ行く、コンパスで確認した限りでは東がリースくんのいた海側で、現在位置から酩酊港街の外へ出るのに一番近いのは西側の門。
「そういえばシトのNPCも喋りだしたんだよな?自我があるみたいに」
「うん、キャロラインもコンスタンスもね、それがどうかしたの?」
問うとスモアは視線を泳がせた。
「いや……歓楽街の方はどうなのかなぁって」
「ああ……」
酩酊港街には様々な施設が作られているが、歓楽街も存在している。
一部の港湾冒険者組合員が作ったもので、ボイスや会話パターンを大量に設定したNPCのキャスト達が沢山いるのでお話をして楽しめる。
といっても素人製作なのでそこまでクオリティが高いわけではないが、キャロラインやコンスタンスのようにあのキャスト達にも自我が芽生えているのならもっと自然な会話が可能かもしれない。
「気にならないか?」
「多少は」
一度行ったことがあるけど、キャスト達が可愛いせいで生殺し気分を味わった。
一様そういういやらしいお店も作られているが、さすがにVRエロゲーじゃないM&Mでは”いやらしいことが出来るお店”という設定の施設を作る程度しかできない。
(なるほど、スモアは設定の通りにあのいやらしいお店が機能しているのか気になるのね……この女好きめ)
完全にブーメランだが声に出していないのでセーフ。
というか私はまだ18歳未満だから色々アウツだけど。
十分ほど歩くと門へ辿り着く、酩酊港街は壁で囲われてはいるが門は開きっぱなしだ。
安全地帯にモンスターは入ってこないので閉じていても意味がない、酩酊港街の模擬戦イベントくらいでしか閉じることはない。
「ヒャッハーズ!ってあれか?」
「あれだね」
門を出てすぐに視界に入ったのは体長7メートルほどの体中に苔が生えた巨人、トロールというモンスターだ。
だが一番視線を奪われたのはそれを追いかける数台の車両だ。
「何逃げてんだコラァ!」
「ツラ見せろワレェ!」
「ヒャッハー!」
ブローニングM2重機関銃を乱射する派手な装飾を施されたM3装甲車が一両。
M24型柄付手榴弾を投げながら走るオフロードバイクが二両。
そしてそれとは離れている大きな赤いバイクが一両。
「どうしよ?」
「もう終わるだろ、ほら」
トロールはすぐに膝から崩れ落ちて死亡した。
死体は残ったままだが、オフロードバイクに乗ったプレイヤーが拳銃を死体に何度か撃つと死体は赤いドライアイスの煙のようになった消えた。
「消えた?」
「ん?そりゃ消えるだろ倒したんだから」
ゲームではそうだったがこの世界のモンスターは死体が残ったはず。
しかしあのプレイヤーが死体を撃った後はゲームの時と同じように消えた。
「こっち来るぞ」
装甲車やオフロードバイクはその場で車両から降りて話をしているが、一台の赤いバイクはこっちに走ってくる。
攻撃する意思があるなら一台では来ないと思うので銃は構えずにその場に立って待つ。
やがてよく見える距離まで来ると、それが特攻服を着た女性だというのがわかる。
「よォ!こんにちわ!」
「どうも」
「こんちわ」
私達の横に止まったそのバイクは近くで見るとかなり大きい。
確か2115年に開発されたバイクで、このバイクの会社とのコラボイベントで一時的に入手可能だったレアもの。
手に持っているのはレーザーサイトとリフレックスサイトを付けたバレットM82A2。
「ヒースですよろしくゥ」
「スモアだ、よろしく」
「シトです、よろしくおねがいします」
ヒースと名乗ったこの女性、種族はエルフ系の長い耳、左側を編みこんだ赤い髪、白い特攻服とかなり派手というかケバい。
加入条件ではないらしいがモヒカンと肩パット率が異常に高いヒャッハーズ!のメンバーにしてはこれでも大人しい方かもしれない。
「二人とも酩酊港街のひとォ?」
「はい、実はヒャッハーズ!に依頼がしたいんですけど」
「あーそうなのちょっと待ってねェ、レーラこっち来てー」
ヒースが無線機に話しかけると装甲車がこちらに走ってくる。
「誰その子たち」
「お客さんだ、さァ乗った乗った」
スモアと一緒に装甲車で連れてきてもらったヒャッハーズ!の拠点である地下街に到着した。
どうやら酩酊港街の北側に位置しているらしく、彼女達はトロールを追って西側まで来たらしい。
拠点は安全地帯だが、その周囲にはモンスターがいて邪魔だったので昨日から駆除していたそうだ。
拠点の周囲はブローニングM2重機関銃などの強力な武器が規制されていないのでかなり簡単に倒せるようだ。
「しかし人が多いですね」
「まァウチらはデスペナとか気にしないからね、自滅したらヴァルハラとかアウトサイダーとか言われてさァ」
自滅といったものは頭の中で念じる感じで簡単に使用できる。
バグなどで体を動かしたり声を出したりできない状況でも自滅できるようにと配慮されているからだ。
私もデスペナルティを気にせず自滅していたらクリムさんやウィルマさんに会えなかった。
そう思うと自滅しなくて良かった。
「ちょっと待ってねェ連絡するから」
ヒースが誰かとチャットで数分間連絡を取る。
「リーダーはなんか忙しいから依頼は私が請け負うよ、依頼内容は?」
「えっと……周囲の捜索、主に現地人から情報を集めたいんです」
「へ?現地人?」
この世界に来てすぐに自滅したのなら誰にも会っていないということか。
私はこの世界に来てからの事を噛み砕いてヒースに話すと、かなり驚いた様子だった。
「えェ?マジで?この世界で痛みがあるのは知ってたけど……切断って……それで良く外に出る気になるねェ」
「ま、まあ……それで協力というか、車両だけでも貸して欲しいんですけど」
「引き受けるよ、周辺地域の捜索をしたいってリーダーも言ってたしねェ」
私の痛い話を聞いても引き受けるのはさすがヒャッハーズ!と言ったところか。
「というかアングルさんに協力してもらって空から辺りを見て回ってるからその情報を待てば簡単だと思うよォ」
酩酊港街で聞いた二重反転プロペラの音はやはりアングルさんだったようだ。
ヒャッハーズ!のリーダーと協力していたから飛んでいたのね。
「現地人を発見したら私達が接触をするってことで」
「そだね、シトちゃんは既に現地人と話したことあるみたいだし、リーダーに話を通しておくよォ」
「それじゃあ私達はこれで――」
「ちょおっと待ったァ!」
去ろうと立ち上がったその時ヒースが大声をあげて引きとめた。
「遊んでいかない?ゲーセンあるよ」
「マジで?」




