ダンジョンマスター
9月に入って、いきなり涼しくなりましたね。
また暑くなるかもしれませんが、皆様、体調には充分気を使って下さい。
いよいよダンジョンマスターの登場です。
エリーの魔法陣を写メらせてもらい、俺はエリーの所へ戻った。
ダンジョンマスターはどんな存在なのだろう?
ベリアルでさえ、マスターでなかったのだ。
どうしても『全滅』の文字が頭を過ぎる。
「ノーマ・・・お前・・・いい加減に起きろよな・・・」
思わず独り言を言ってしまった。
― ― ―
休憩が終り、ダンジョンマスターの部屋に突入する時間になった。
今までのようにイッキに突入して先制攻撃を・・・と思ったのだが、
誰も攻撃出来なかった。
突入と同時に溢れ出した殺気に気圧されて、誰も行動できなかったのだ。
ベリアルの時を遥かに凌ぐ殺気だった。
目に見えないはずの殺気が、ゆらりと陽炎のように見える気がした。
「「「・・・」」」
誰も口をきかなかった。
殺気に気圧されたのもさることながら、皆、ダンジョンマスターの姿に唖然としていたのだ。
ダンジョンマスターは身長30センチほどの小さな魔族だった。
真黒なタキシードを着込み、シルクハット、真赤な蝶ネクタイ、着こなしは第5階層の氷の魔族によく似ている。
肌は死体を思わせるような血の気の無い青色に、左目が金色、右目が真紅のオッドアイだった。
だが、小人族よりも小さな身長と、溢れ出る尋常ならざる殺気。
そのアンバランスさ故に、皆言葉を失い、ただただ、その小さな魔族を見つめるだけだった。
「やあ・・・よく・・・ここまでやって来たね・・・」
姿形に似合わない太く低い声だった。
その声を聞いた瞬間、体中に鳥肌が立ち、冷汗がどっと吹き出た。
俺だけではなく、皆同じだったに違いない。
獣人の方が、感覚が鋭いのだろう、パワーボムの面々はじりじりと後退していた。
「まあ、ベリアルを筆頭に楽しみすぎたからだろうけど、それでも人間がここまで来ることはできないはずなんだ。そこにいるドラゴンの力が予想以上だったからかな?」
ダンジョンマスターはエリーを指差した。
「だから、まず封じさせて貰うね」
ダンジョンマスターがパチンと指をならすと、エリーがガクンと膝をつく。
「あっ!?ち、力が・・・」
エリーはそのまま横に倒れ、全く動けなくなった。
「エリー!!」
俺はエリーに駆け寄り、抱き起こした。
「ヒデキ様・・・全然力が入りません。魔力との繋がりを完全に断ち切られました。ドラゴンに変身も出来ません」
「どうなっている!?」
「それと、君がフィロゾの6大魔法を連発する魔術師だよね?そこのドラゴンから魔力の供給がなければ、無理だろうけども、念のため!」
再びパチンと指を鳴らす音が聞こえると、俺の身体から力が抜け、エリーと一緒に倒れてしまった。
エリーと同じように、全く力が入らず、スマホも持てない。
こいつ、全く遊ぶ気はないのか?
俺とエリーの状態を見たエバートンが慌ててスクロールを取り出すが、何の前触れもなく、燃え上がり灰になってしまった。
「!?」
エバートンが無言でダンジョンマスターを睨む。
「さて、これで抵抗する者はいなくなったかな?無駄だから何かしようと思わない方が利口だよ」
「我々を無力化して、何をしたいのだ?」
「そう!それ!!」
ダンジョンマスターは右人差し指を立てて、倒れている俺とエリーを一瞥し、その後エバートンの方を見て、にっこりと笑った。
「このダンジョン、いつものダンジョンと全く違うのは気付いているよね?」
「通常のダンジョンなら、第10階層までに上位魔族やレインボー・ヒュドラなどが階層守護者としているはずはない。これは100階層以上の古いダンジョンのラスト10階層の配置に近い」
「正解!!で・・・理由は分かるかい?」
ダンジョンマスターの問いに、エバートンは暫く考えている。
「先の人魔大戦が終了し、長い年月が流れた。女神の協力もあって、上位魔族や魔王は封印された。だが、今その封印は解けつつある。ベリアルやあなたが、その証だ」
エバートンはダンジョンマスターを指差し、ゆっくりと語り始める。
指を指され、ダンジョンマスターは肯定するようにうなずく。
「あなたは・・・そう・・・恐らく魔王か、それに近い存在に命令を受け、この特殊なダンジョンを創った」
「それは・・・何故?」
「我々が・・・人間がどこまで強くなったか?それを探るため!第3階層のベリアルが倒されなければ、人間はほとんど進歩していない。相変わらず取るに足りない存在だ。だが、第3階層のベリアルや、それ以降の上位魔族が倒されれば、人間は確実に進歩している。おいそれと全面戦争に持ち込むわけにはいかない・・・そんな所か?」
「ほう・・・その通り。通常のダンジョンを作ると、あなた方の実力を知るのに時間がかかりすぎるからね。ちなみに私に人間の実力調査を命じたのは、魔王様・・・」
「なるほど、それで我々の力が判明して、これからどうしようと?」
「そうだね・・・」
ダンジョンマスターは右手を顎に持って行き、暫く考え込んだ。
その後、再び右人差し指を立てて言った。
「このまま、速攻で全滅させても良いけれど、そんな事をすると、あなた方は無駄に抵抗して、派手に命を散らすよね?」
「当然!!」
「当たり前だ!!」
「只では死なん!!」
「必ず一矢報いてやる!!」
皆、それぞれ抵抗の意思を表明する
俺だって、動ければ自爆でも何でもするぞ。
「そう、それが困るんだよね。あまり派手にやられると僕の魔力が天界に察知されてしまう。不味いんだ」
「では・・・どうすると?」
「あなた方、半分は助けてあげるから、おとなしく半分命を差し出してよ」
「何ぃ!?」
「ふざけるな!!」
「誰かを犠牲にしてまで、助かりたいとは思わん!!」
再び皆、反論の声を上げた。
ダンジョンマスターは肩を竦めながら、やれやれと首を横に振る。
「あー!!これだから人間は!!半分は助かるんだよ!?全滅するより、よほど良いじゃないか!!何故全滅を選ぶかなあ?」
ダンジョンマスターは拳を振り上げて、力説する。
と、ダミアンが一歩前に出た。
「ダンジョンマスター殿!!」
「ん?何だい?」
「私は王国騎士団大隊長ダミアン・マー・マッカレル・・・」
ダミアンはダンジョンマスターに貴族の礼をした。
「これは、これは、ご丁寧に。私は魔族マスモデウス・・・王国騎士団大隊長のダミアン殿が、どのようなご用件で?」
アスモデウス・・・ベリアルと同じ72柱の1人・・・いや、あくまでも俺の世界での話だ・・・偶然だよな・・・?
「私の命を差し出すので、他の者は助けてもらえないだろうか?」
「な、何を言うんだ!?ダミアン殿!!」
デトレフさんが口を挟んだ。
アスモデウスは少し考えてから、答えた。
「さすがに1人って訳にはいかないなあ・・・あと2人・・・そうすれば、他は見逃すからさ・・・ここで全滅したところで、何の意味があるんだい?そこに転がっている男と、魔法陣を駆使する男の命を差し出せとは言わないよ。相談していいから、2人選びなよ」
「では、2人目は私が・・・」
親衛隊のディートリッヒが前に出る。
「エバートン様が助かるならば、この命、全く惜しくありません」
「なるほど・・・確かにそうだ・・・なら、私の命を差し出そう」
最初ダミアンを止めたデトレフさんが前に出た。
「そんな!?デトレフさん!!」
俺は思わず、名前を叫ぶ。
「なあに、エバートン殿とヒデキ殿が助かれば、この先いくらでも巻き返せる。なら一番歳を食っている者が犠牲になれば良い」
「デトレフさんが犠牲になる事はない!!私が・・・」
「いや!!俺が・・・」
「黙りなさい!!」
皆が自分がと言い始めた時、デトレフさんが怒鳴った。
「ここは、最初に名乗り出た3人で決まりだ!!」
「そ、そんな・・・」
「アスモデウス殿!それでよろしいな?」
デトレフさんが聞くと、アスモデウスは即座に答えた。
「もちろん!!それでは3人共、覚悟はいいね?」
アスモデウスはゆっくりと片手を頭上に掲げた。
「痛みもなく終わらせてあげるから・・・この手が下がりきった時、君達3人の命は終わる・・・」
ゆっくりと下がってゆく。
「止めろ!!止めるんだ!!」
俺は叫びながら、全滅を防ぐ条件を思い出した。
3人の命を差し出したところで、全滅は防げないのでは?
アスモデウスはただからかっているだけなのでは?
俺は大声で叫んだ!!
「おい、ノーマ!!起きてくれ!!頼む!!」
だが、ノーマが眠っているロケットから反応はない。
アスモデウスはにやにや笑いながら、腕を下げてゆく。
このままではヤバイ!!
「ノーマ!!このペチャパイ!!いつまで寝てるのよ!!」
エリーが叫ぶ!!
「何ですって!!」
俺の首に下がったロケットから、大きな声が聞こえた。
全滅回避の条件が満たされたのだ。
ノーマはどんな時でもノーマです。
ブレません。




