皇帝
帰宅が遅くなり、ぎりぎりの投稿です。
転移した先は帝都の居住区内のごく普通の住宅の一室だった。
てっきり隠し部屋とか、結界で隠された場所に転移すると思っていたので、拍子抜けしてしまった。
今回、転移先で待っていたのは、メイドさんだった。
ガウラン辺境伯の屋敷で見た事があるな。
やはり親衛隊か。
「帝都へようこそ!エバートン様!ベルタ様!ヒデキ様!エリー様!」
「ジーナ!帝都での先行隠密活動、ご苦労様!!」
ああ、既に密偵を送り込んでいたわけだ。
「それで、ミタには連絡は取れたのか?」
挨拶もそこそこにエバートンは本題を切り出した。
「ミタの屋敷を訪ね、エバートン様の訪問を伝えましたところ、すぐに会談の段取りを取っていただけました」
「さすがに合理的な男だ。普通なら1週間は間をおいて、色々準備をするだろうに。一刻も早く、私の知識を得たいのだな?」
「はっ!!ご推察の通りだと思います。本日の夕刻、帝城にて非公式の会食が開かれます。そこで皇帝陛下とミタとの会談を予定しています」
「こちらのメンバーは?」
「エバートン様とヒデキ様のお2人です。護衛は2人まで会食する貴賓室の扉まで随行できます」
「では護衛にベルタとエリー殿で丁度良い。ジーナは帝城までの案内を!」
「畏まりました」
ミタと密かに会うのかと思っていたら、皇帝陛下との会食か・・・
お偉いさんとの謁見は気を使うから、嫌なんだけどな。
だが、色々な交渉ごとは全てエバートン任せだ。
なんとかなるだろう。
「夕刻まで、まだ時間があります。お掛け下さい。お茶を入れますね」
部屋は意外と広かった。
転移魔法陣の奥には丸テーブルが置かれ、背もたれ付きの椅子が4つ置かれている。
窓はなく、扉が1つ、灯りはライトの魔法が小さな魔法陣の真上にあって、部屋全体を照らしていた。
ジーナは扉を開けて、隣の部屋へと出て行った。
隣は厨房なのだろう。
「皇帝陛下って、どのような人物ですか?」
4人で椅子に座りながら、俺はエバートンに尋ねた。
「現皇帝ブルーノ・アッヘンバッハ5世陛下は、在位3年の若い皇帝です。弛緩しきっていた帝国軍の規律を建て直し、強力な軍隊を作り上げました。そしてミタの出現、ムカイの不在。王国を攻めたくなるのも道理でしょう」
「若気の至りですか?」
「それだけではありません、自国の軍事力の確認の意図もあったのでしょう」
「年齢は?」
「確か25歳だったと思います」
という事は22歳で皇帝の座に就いたのか・・・
「本当に若いですね。前皇帝はどうされたのですか?」
「病死・・・と言うことになっています」
「なっています?」
「ええ!前皇帝は軍規を軽んじて、帝国軍を弛緩させた張本人です。現皇帝は国力の低下を危惧して、前皇帝の暗殺を謀ったとの噂です」
「父親殺しですか?」
ここでジーナがお茶を持って入って来た。
すぐにティーカップが手際良く並べられ、紅茶が注がれる。
お茶を飲み、エバートンが続けた。
「この世界ではよくある話です。ヒデキ殿の世界ではないのですか?」
「少し昔の時代では、ありましたね。いや、もしかすると俺が知らない他国ではあるかも知れません」
「その通りです。権力あるところに陰謀ありです。いつの時代も人がいる限り、絶えることはないのです」
恐ろしい話をしながら、お茶を飲み終え、ジーナの案内で帝城へと向うことになった。
― ― ―
帝城の門へと行くと、驚いた事に門番がいなかった。
「ヒデキ様、門番がいません!?」
「私も最初驚きました。ミタの屋敷も同じ仕組みになっておりました」
ジーナが言いながら、門の右にある、魔石に手を翳した。
すると魔石を通して声が聞こえた。
「目的と名を名乗れ!!」
「アリベリ王国、ブルネル辺境伯補佐エバートン及び魔術師ヒデキ。他護衛2名、会食のお招きにより、参りました!!」
ジーナが言うと、少しの間があって、返答があった。
「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
声と共に、門が開き始める。
この世界では珍しいのだろうが、要するにインターホンと自動ドアだ。
ミタの知識が存分に発揮されている。
扉が開ききると、左右に衛兵とアイアンゴーレムが1組ずつ立ち、中央に執事が礼をして控えていた。
「ようこそお越し下さいました。私が会食の会場まで、ご案内いたします」
ジーナとはここで別れて、4人で屋敷の中へ入った。
執事に案内され、広い廊下を進む。
よく見ると、左右の壁には魔石が等間隔で埋め込まれ、常に監視されているのが分かった。
「監視されていますね」
「それに気付いているのは、我々だけですよ。普通は只の装飾だと思ってしまいます」
俺とエバートンはひそひそと話しながら歩いたが、執事は気にもとめなかった。
何度目かの角を曲がり、会食の間へと案内された。
扉の前でエリーとベルタが止まり、俺とエバートンが中へと案内される。
エリーが「何かあれば、すぐに駆けつけます!!と小声で言ってきた。
会食会場となった貴賓室は体育館ほどの大広間で、天井には豪奢なシャンデリアが飾られ、四方の壁には宝石と魔石がちりばめられていた。
広間の中央には大きなテーブルが置かれ、奥の席にはミタと若い男が座っていた。
その若い男こそブルーノ・アッヘンバッハ5世なのは、間違いない。
金髪碧眼で優男と言って良い体格と顔立ちだったが、瞳の輝きだけは力強く、溢れんばかりの知性を思わせた。
「帝城へようこそ!!あなたが名高いエバートン殿か!?そしてそちらが、ミタと同郷の魔術師、ヒデキ殿?余はイーゼルト帝国皇帝ブルーノ・アッヘンバッハ5世である!!」
エバートンと俺は跪き、臣下の礼をした。
「はっ!本日お招き「ああ、堅苦しい挨拶はなしにしよう!!席についてくれ!!」
あれ?このパターンはブルネルでいつも味わっているパターンでは!?
皇帝陛下の許可が出たので、俺とエバートンは立ち上がり、正面の椅子に座った。
「今回は攻め込んで悪かった!まさかムカイを超える魔術師がいるとは思わなかったし、ミタの技術があれば、勝てると思ったのだ!はっはっはっ!!」
ガウラン辺境伯よりも軽い乗りだった。
しかし、はははじゃないぞ、この野郎・・・と思ったが口には出さなかった。
「ですが、ミタ殿が造られたアイアンゴーレムの実力を知るには、我が国は丁度良い標的だったのでは?」
「お見通しか・・・アイアンゴーレムの弱点も分かったので、収穫はあった。ヒデキ殿の力も知ることが出来たから、なおさら有益だったな」
皇帝はニヤリと笑った。
やはり実験も兼ねていたのか・・・絶対にミタが進言しているよな・・・
「我が国には有益だったが、貴国にとっては、迷惑千万だったな。侘びとして、賠償金なしの条件を撤回して、賠償金を支払おう。こちらから正式な使者を出すが、先に伝えておいてくれ」
「承りました」
「うむ、それでは食事をしながら、先の話をしようではないか!!始めろ!!」
皇帝が手を叩くと、奥の扉が開かれ、メイド達が食事を並べ始める。
前菜にスープはよくわからない物だったが、悪くはなかった。
メインは肉料理で、牛肉のようなステーキに香辛料をたっぷりと振りかけてあり、とても旨かった。
料理はベルタやエリーにも振舞われ、彼女達も満足したことだろう。
「さて・・・今後だが、余は王国と同盟を結び協力関係を維持したいのだが、いかがなものかな?」
デザートが運ばれて来た時に、皇帝は話を切り出した。
「私の主、ガウラン辺境伯は大歓迎なのですが、国王陛下は承知されないでしょうね。勝てると思った相手に戦争を仕掛けたら、予想以上に強くて勝てなかった。だから同盟しましょうと言われても、承諾はしないでしょう」
「ああ、やっぱりそうなるか・・・だが、ガウラン辺境伯は同盟を結んでくれると?」
「左様です。わがブルネルは先頃、上位魔族の造ったダンジョンを攻略しました」
「上位魔族のダンジョンを!?」
皇帝が身を乗り出した。
「その魔族の力は、私とヒデキ殿の力を完全に上回っていました。偶然にその上位魔族の弱点がわかり、たまたま勝てただけでした。この先、魔族の活動が活発になってゆくでしょう。そうなると、ミタ殿の技術はかなり貴重になります。ですから、ぜひとも同盟を願いたいのです」
「なるほど・・・上位魔族が・・・とすれば国同士が争っている場合ではないか・・・」
「そうです!!」
「分かった!!腹の探りあいはなしで、話し合おうじゃないか!!よろしく頼む!!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
長い夜になりそうだ。
明日も投稿予定です。




