誓いのイオン
イオンの最寄駅に着くと、池田はすでに改札口で待っていた。
「まずは受験お疲れ様」
池田は清々しい顔だった。高校生活をほとんど野球に捧げ、高3の春、引退後に受験勉強を始めたと聞いていた。
「大学生みたいにカフェとか行っちゃう?」
「いや、俺たち浪人生だけどな!」
池田のツッコミが刺さる。
僕たちはイオンの1階のカフェに入った。カフェに入ったのはおそらく初めてで、何を注文したら良いかわからなかった。池田はブラックコーヒーのSサイズを注文していた。
「ご注文は何になさりますか?」
店員に急かされる。レジの上にメニュー表があるため、迷うための時間がなかった。
「カプチーノのSサイズで」
なんとなく目に入った中で甘そうな名前のものを注文した。390円を、100円玉2枚、50円玉3枚、10円玉4枚で払った。
入り口付近の席に座ると、池田が話し出した。
「正直、木村が浪人するってインスタで知って驚いたわ」
「そうか?センター試験の時点でだいぶ諦めてたけどな」
「高2の時とか、成績良かったじゃん」
「あの時はねー」
熱々のカプチーノを恐る恐る飲んだ。想像の5倍苦かった。途端に後悔に襲われた。高2までは良かった。最低限のテスト勉強もしていたし、周りよりもできる優越感が勉強のモチベーションとなっていた。
「池田はどうだったの?予備校も行って、頑張ってるって思ってたけど」
「俺はさすがに時間がなさすぎたわ。英語の長文が読めるようになってきたの、つい最近だし」
「時間がなかった」という言葉が、潤沢にあった時間を浪費し続けた僕に後悔を促した。
「池田はこれから予備校生活だよね。どんな感じなのかな?」
「高校みたいな時間割らしい。高校4年生きついわww 木村はどうするの?」
「予備校入りたいけど、金的にどうなるかわかんないわ」
「そっかー。予備校行けるんだったら俺の行ってるところ、オススメだよ」
「確かに!一緒に頑張りたいわ」
池田はブラックコーヒーを自然に飲んでいる。
「インスタとか、これから見たくないよね」
コーヒーを置いた池田が話す。
「わかる。大学の入学式の投稿とか、絶対見たくないわ」
「出家しようぜ!」
「出家!?」
「そう。インスタのフォロワーもLINEの友達も、ブロックしまくろう」
馬鹿げた提案だったが、池田と一緒なら頑張れる気がした。何かが変わる気がした。
インスタのフォロー欄を見て
「こいつ誰?」
「高1の時のクラスメイト」
「はい、ブロック〜ww」
1時間が経つ頃には僕のインスタのフォロー、フォロワー欄は8人になっていた。LINEの友達は27人。グループからもたくさん抜けた。
「ってことで、浪人生活頑張りますかー」
池田が立ち上がる用意を始めた。
僕も冷めたカプチーノを一気に飲み干した。少しだけ甘かった。
イオンの2階の本屋で現代文の参考書を買い、帰路につこうとしたところ、ゲームセンターが目に入った。
「浪人プリクラ、いっちゃいますか」
プリクラなんて、普段では絶対に撮りたがらないであろう池田が言った。
一人200円ずつプリクラ機に入れ、カメラを睨んだ写真を撮った。隣で池田が忍者のポーズをとっている。
「何それ?」
「俺たちはこれから浪忍。耐え忍ぶ生活だー」
僕も忍者ポーズでカメラを睨んだ。落書きコーナーで「浪忍卍」と書き込んだ。
「じゃ、また近いうちに語ろうね!」
「おう!お互い頑張ろう!」
池田と駅で別れた。家に着いた僕は下敷きにプリクラを貼って、買ったばかりの現代文の参考書を開いた。




