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「そうだわ! いざとなったら私と一緒に野菜を育てるのはどうっ?」
「……野菜? えっ⁉ あなた……まさか畑仕事なんてしてるの? 貴族令嬢なのに……??」
驚くディクリーヌに、私は話して聞かせた。隣国に雪芋という農作物を広めるための研究に長年勤しみ、ようやくそれが花開こうとしているのだと。ディクリーヌはしばしあっけにとられ、ぽかんと口を開いていたけれど。
「あなたって……不思議な人ね! そんな貴族令嬢、はじめて聞いたわ。それに……」
「それに?」
ディクリーヌは一瞬言葉を切り、小さく笑うと続けた。
「それにあなたって、とっても素敵だわ! あなたと話しているとなんだかできないことなんて何もないって気持ちにさせられるもの。目の前は真っ暗なはずなのに、なぜだかまだまだやれることはあるって気持ちになるの。変ね……」
そう言ってディクリーヌはどこかほっとしたように笑ったのだった。その目尻にほんのちょっぴり涙をにじませて。
けれど、ふとディクリーヌの顔が不安げに曇った。
「……でも、本当は不安なの。私……本当にこれからひとりで生きていけるのかしらって……。陰口を言われるくらい慣れているけど、たったひとり誰の支えもなく生きていけるのかしらって……」
「ディクリーヌ……」
ディクリーヌの声が小さく震えていた。私はその肩にそっと手を置くと。
「大丈夫よ! あなたは見るからに健康だし体力も気力だってありそう。それに自分の頭で考えて行動する力だって十分にある。それがあれば充分よ! それに私というお友だちだっているんだものっ‼ 何か困ったことがあったらいつだって私のところへくるといいわ‼」
「お友……だち……?? 私と……あなたが……??」
心底驚いた顔でこちらを見るディクリーヌに、私はにっこりと微笑んでみせた。
「ええっ‼ お友だちよ! 私たち、けっこういい組み合わせだと思うのっ。冷静で熟考型のあなたと、ちょっとだけ猪突猛進型の私。ね! そう思わない?」
そう言ってパチンとウインクしてみせればディクリーヌが目をまん丸にして、そして破顔した。
「あなたってとびっきりのお人好しね! 私はあなたを罠に陥れようとしたのに……そんな私をお友だちだなんて……。でも、そうなってくれたら嬉しいわ。これからは私、あなたのように自分に嘘をつかずにお日様の下で堂々と生きていくつもり! これまでは父のことを知られまいとして、こそこそと生きていたから……」
「ええっ‼ それがいいわ。ディクリーヌだったら大丈夫。きっとうまくやれるわ! だって私のお友だちだもの‼」
「ふふっ‼ もう……あなたったら……。でも、ありがとう。ラフィニア。これからどうかよろしくね! あなたの自慢の友だちになれるよう、私頑張るわ」
そう言ってにっこりとかわいらしい笑みを浮かべたディクリーヌと顔を見合わせ、私も満面の笑みでうなずいたのだった。
こうしてふたり友情をあたため合っていた頃、ベーゼルとカインはダルコの罪を明らかにすべく証拠集めに奔走していた。例の横領の証拠品である帳簿を持ち出した使用人の居場所はすぐに知れた。いつ公にしようかと今か今かとタイミングを見計らっていたらしい。
ベーゼルとカインはすぐさまその使用人を王宮に呼び出し、ラフィニアを化粧室に監禁する手伝いをしたメイドも仲間に引き込んだのだった。
そしていよいよ断罪の幕は上がろうとしていた。晴れがましいデビュタントの日ではあるが、その前に邪魔なものを一掃すべくふたりはその時を待ったのだった。




