嵐の前
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おしゃべり酸欠から意識をとりもどしたルーマは言った。
「見つけたで……すぐ近くや。何本か隣のストリームの中に……野盗の根城がある」
すぐに作戦会議が行われた。
ブリッジに集まったのは俺、サジ、リンピア、ヴェラ船長、クルー筆頭の男、──そして頭に大きな箱をかぶったルーマだ。
『ウチの天才的ブレインによって野盗どものすべてが明らかになったッッッ!! 奴らのアジトは、なんと激流のストリームん中を漂流し続ける、“超・巨大幽霊船”や!! こんな危険な場所を隠れ家にしてるなんて、誰も夢にも思わんかったやろ? 凄すぎるやろウチの功績!! さらに言えば、絶えず移動する船の現在地なんて普通なら絶対特定不可能なんや! でもなあ、ウチの神がかった頭脳は、やっこさんらの頭の悪い交信メッセージやら、ごくごく稀に記録されとる位置情報やらを何百何千と積み重ねて複合的に噛み合わせて、極限の超計算で現在座標の完全特定まで成功させたんやで!! これを可能にしたんはまさにウチの──』
うるさい上に話が進まないので、ルーマから箱を奪った。
やかましいエセ関西弁が止まり、生白い細面が現れる。
「さっさと本題に入ってくれ」
「むぅ……」
ブン、と青白い光。
会議の中央に、ホログラムの地図が浮かび上がる。ここにそういう設備は無かったはずだが……ルーマがやってるのか。箱にそういう機能もあるらしい。情報方面では器用万能なやつだ。
俺達の船のマーク、現在乗っている安定した流れと取り巻く嵐、さらに並行するいくつもの流れと嵐……
その中に禍々しいマーカーがひとつ。
四角いシルエットをした大きな船だ。こちらのホバータンカー船より何倍もデカい。
「これは……旧時代の貨物船か?」
『大正解や、リンピアはん! ただし、ただの廃船やない。制御システムは完全に狂っとるのに、自動航行エンジンだけが奇跡的に生きてて、ストリームの中を永遠に漂流し続けてる悪霊みたいなデカ物や!』
ホロを投影している、置かれた箱の方からスラスラと説明が流れる。長くなりそうなのでスピーカー機能を使うようだ。
「嵐の中を移動し続ける船かい……幽霊船なんて気取りやがって、許しちゃあおけないね」
「気取ってるのか?」
『気取ってるで。仲間内のメッセージ読んだけど、めちゃ気取っとったで』
「許しちゃおけないね……」
「そこ気にするんだな……」
内部構造すら表示される。アーマーによる地形スキャンデータログを元に作ったらしい。範囲は限られているが、それでも主要な箇所は押さえられている。
アーマー戦が可能なほどの大きさだ。
『これはもう、ひとつの街やな。中立地帯として扱われとって、経済もある。普通の街に入れん野盗にとっては貴重な場所や。獲物の情報交換なんかもあるわけやけど……ここ最近、“とっても美味しい獲物”のウワサでもちきりだったみたいやで。“ジャンク街からあわてて逃げ出してきた、ろくに戦力も無い、財産をぎょうさん抱え込んどるタンカー船”がおるって、な』
「……わざと誤った情報を広めている奴がいるな?」
『そういうことやな。メッセージ履歴をたどると、ほんの数名から拡散されたウワサやった』
「黒幕がけしかけていたということか。どおりで、散発的だったわけだ」
ここまでの道中襲ってきた奴らは、明らかに一枚岩ではなかった。まともなのは遭難者を装った最初の騙し討ちくらいで、あとは飛んで火に入る夏の虫よりもホイホイ寄ってきて、面白いように倒されていった。あれは油断していたせいもあったのだろう。
何者かが偽情報を広めて、リターンとリスクを見誤らせ、多くの野盗が襲うように仕向けていた。
目的は俺達を休ませないためか?
俺とリンピアが瞬殺していたので、小遣い稼ぎにしかなっていなかったけれども。
「大岩の街から逃げたっていう野盗団の幹部……居る可能性は高いだろうな」
「嵐のなか潜み続けることができる野盗の根城……こんな厄介なものがあるとはな。私たちが発見できたのは運が良かった。ここで根絶やしにしてやる」
野盗は弱者だけを相手にする雑魚だ。まともなスキルがあるなら稼げる方法はいくらでもある。
ストリームの中を航行するには優れた船と操舵技術が必要であり、アーマーでも長期滞在は不可能──こんな難所で野盗が飛び出してくるとは誰も思わない。その常識に反する襲撃を可能にするアジトは、これまで多数の被害者を出してきたことだろう。
「この針路……次のストリームへ移動するときに最接近するね。乗り換え中の嵐の中で奇襲をしかけてくる手筈だったかい」
「砂嵐は視界も探知も最悪だ。先手をとれるかどうかは大きい。向こうはこちらがアジトの位置を特定したどころか、その存在にすら気づいていないと思っているはずだ」
リンピアが静かに、しかし力強い声で言った。
「後手に回る必要はない。相手が襲撃の準備を整える前に、こちらから殴り込んでやろう」
「同感だね」
殺る気満々の船長が不敵な笑みを浮かべて言う。
「嵐の中での戦いになるね。燃えるじゃあないか。デカい船に乗って良い気になってる馬鹿どもをまとめて藻屑にしてやる。やつらに教えてやろうじゃないか……この荒波を制する本物の海賊は、この船と、アタシ達だっていうことをね……」




