暴露
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野盗フィーバーが落ち着いてしまった。船が地殻流域に入ったためだ。
砂嵐のなかを激しく揺れながら数時間ほど突っ切った船は、一転して驚くほど穏やかな砂流地帯へ抜け出た。
『安定流域に到達した。各自休憩をとりな』
船の外には風が吹き、砂と岩石がゆったりとうねっている。いつもの荒野の光景に見えるが、遠方をよく見ると、違和感に気づく。台風の日に流れていく雲のように、速度感がおかしい。事実そのとおりだ。船は姿勢制御以外の動力をほとんど使っていないが、すさまじい速度で移動している。
この世界の大地は活発に流動している。その流れが重なり合った場所には、特に強く速い流れが生まれる。それが流域だ。
川のように明確な一本道があるわけではない。渦潮のように、あちこちで突発的に現れては消える奔流。それが多発しているので非常に危険だが、ある程度以上の大きさと性能を持った船、そして熟練した操舵技術があれば高速移動が可能になる。『大きく速い流れ』の上をさらに流れる『安定した流れ』に乗るのが基本だ。ハイウェイというよりは動く歩道に近い。
乗りやすくかつ速度の出る流れから流れへ。八艘飛びのような曲芸航法こそが最適解。
そんな危険地帯では戦闘どころではないので、敵襲も無いというわけだった。
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スタビライザーを最大化しているため、猛スピードで移動しているにもかかわらず船の揺れは驚くほど少ない。
この流れには3日ほど乗り、そのあとはまた砂嵐を突っ切って、別の流れへ。これが数週間ほど続くらしい。
外敵の心配がないこともあって、甲板には穏やかな空気が流れていた。
乗客の居住スペースとなっているコンテナ群の間には、茶色いビーズカーテンのようなものがそこかしこに垂れ下がっている。カニ肉で作られたジャーキーだ。
キメラ蟲の肉は巨大だ。運よく連続で狩れると、到底食べきれないほどの量が確保できる。それを無駄にしないよう、乗客の誰かが知恵を出し、素早く処理して保存食にする方法を考案した。食糧液に変換するとわずかにロスが発生するので、食べられるならそのまま食べたほうが節約にもなるらしい。味も悪くなかった。
そんな生活感満載な光景のとなりで、俺は日曜大工をしている。
自分用のコンテナハウスを設置しているのだ。
もともと俺たちの部屋は船体後部に割り当てられていたが、引っ越すことにした。リンピアとくっついて過ごすのは悪くなかったが、狭いし暗いし、なにより窓が無くて景色も見れないので飽きてしまったからだ。
事情が変わったというのもある。敵襲が頻繁にあるので、アーマー置き場の直近に居たほうが良い。
新しい住処となるコンテナハウスは2階……貨物用コンテナの上に乗ったコンテナ。外に出るとそのままアーマーへ乗れる高さだ。
コンテナハウスとはいっても貨物用にそのまま住み着くわけではない。もとから居住用に改造されたものがあったのだ。窓、床、換気口などが最初からついていた。何度も利用されてきたか年季が入っているが、清潔にされていた。
本体はできているので、俺は主に外回りを使いやすくした。
目玉は出入り口から伸びるタラップ。向かう先はもちろんアーマーのハッチだ。
気分はスクランブル出撃する待機パイロットだ。寝所から直線でアーマーへ向かえるような配置にしてある。装身具なども動線上にありスピーディーに着用可能。
警報の音に目を覚まし、上着を羽織りながら駆け、そのまま飛び込むようにアーマーの中へ……良い光景だ。
何度も実際にシミュレーションしていると、隣に住んでいるサジたちも羨ましがりだしたので、同じものを作ってやることになった。ドライバたちが一斉に乗り込み、唸りを上げて起動しはじめるアーマーたち……それも良い光景だ。
日曜大工にしてはレベルの高い大仕事だったが、そこは発掘品の力で楽勝だった。いい接着剤とカッターがあったのだ。百均にありそうなチープな見た目のハンディツールのくせに、業務用機器のような性能があった。
コンテナ自体はアーマーで運んだ。内装については俺の腕力で持てない物は無い。こうなると卓上工作と何も変わることがなく、配置とデザインに頭を悩ませる時間のほうが長かった。
寝床はハンモックにしてみた。船の揺れが軽減されるだろうと期待してのことだ。逆に揺れすぎて具合が悪いかもしれないが、そのときは撤去してベッドに変えよう。この手のロープ工作は、植物の蔓であらゆるものを作ってきた俺にかかれば朝飯前だ。
水回りは自動精製ボトルに頼る。さすがに水道管を引いてくるのは無理があった。eを消費する携帯ボトルタイプとは別に、大型だが空気中の水分を集めるタイプのものを買っていた。風呂トイレは船の水場を利用するので、これで事足りる。壁に固定し、扱いやすいように延長ハンドルを取り付け、流し台を下に置いて完成。排水は甲板の掃除用排水溝へ。
その他、壁などについてはワイルドでマテリアルな雰囲気に仕上がっている──つまりは無加工そのままだ。木材などのナチュラルな素材が希少なので自然とそうなるのだ。これはこれで無骨で悪くないが。
あとは揺れたときにぶつかると危ないから部屋の各所にクッションシートを張っていこうと思ったのだが……
「必要か?」
「……確かに?」
覗き見しにきたリンピアに言われて気づいた。俺は高性能脳みそのおかげで、そもそも寝ぼけたり躓いたりということをしない。
リンピアにしても、毛髪という天然のヘルメットにして全身防護コートを常に身につけているようなものだ。彼女も運動神経が良いので、部屋の中で激しく揺られたとしても無事だろう。無事でないときは船のほうが爆散でもしていると思う。
雰囲気が壊れるし、めんどくさいし。素材の味をそのまま活かすということにして、工事完了。
ハンモックに身を預け、自らの手でこしらえた部屋を眺める時間は格別だった。
充足感。これがチルってやつか。
「なかなか良い部屋になったじゃないか」
満足げに室内を見渡していると、どこからともなく大荷物を抱えたモフモフ妖精がやってきて、小物入れや着替えなどといった私物を好き勝手に並べ始めた。
この毛深い生き物は、好みの環境を見つけて自分のテリトリーと定めると、自らの毛色に合う装飾品を運び込み、あっという間に空間を自分色に染め上げてしまう生態を持っています。
リンピアにも気に入られたところで今日は終日お休みデーにしようと思っていたのだが、そんなリラックスタイムは唐突に終わりを告げた。
「ねえ!! 船内に痴女の幽霊が出たってさ!!」
ワクワクキラキラ笑顔のリンゴがやってきて、衝撃のニュースを伝えた。
なんだそりゃ。幽霊とエロは相反する存在なんじゃなかったのか。
……痴女?
……なんか忘れているような気がする。
↵
薄暗い通路の先に、それはいた。
曲がり角のむこうにヌッと現れたのは、尋常ではない背の高さの女だ。
柳のように垂れ下がる長髪。その下は一糸まとわぬ全裸。
天井に届きそうなほどの長身が音もなく直立している様は、夜に遭遇すれば悲鳴を上げてしまいそうなほどのインパクトがあった。
「ジェーやん……いつのまにか……部屋に知らん人……」
「すまん、忘れてた」
地獄の底から響くような声を箱から漏らすルーマに、俺は短く謝罪した。
新しいコンテナハウスへの引っ越しに夢中になるあまり、元の部屋にルーマを置き忘れていた。俺たちが去った後の空き部屋に別の人間が割り当てられ、そこでこの異様な姿の彼女と遭遇したらしい。
言い訳をすると、最近のルーマはずっと芋虫形態で部屋のすみっこに転がっているだけだったので、存在感が薄かったのだ。
食事もせず寝てばかりいるようだった。聞くと「省エネちゅう……」とだけ返ってきた。彼女の体からは、修復中のアーマーのような、繊細なナノメタルの流れを感じた。定期的にメンテナンスモードのような状態になる体質だと聞いた。俺を助けるためにかなり無理をしてくれていたので、休息が必要だったのだろう。
それにしても、人間の姿で直立しているところを初めてまともに見たが、かなりの長身だ。2メートル以上あるかもしれない。
しかも堂々と裸。ここまで来ると色気など皆無で、威圧感だけがある。
激しくエキセントリックな奴だ。どう説明すればいいのか面倒くさくて、船の皆に紹介しそこねていたツケが回ってきた形だ。いや俺が置き忘れたのが悪いんだけど。
『こちらジェイ、異常は無かった。封鎖は解除していい』
『もう解決したのかい?』
『あー……そもそも俺たちのせいだった。あとで説明する』
とりあえず、報告をしておく。船に侵入してきた危険人物である可能性があったため、区画ごと人払いしていたのだ。大事無くてよかったが、いろんな人の仕事が止まっているので心苦しい。
「箱に戻ればいいのに、なんでそのまま出てきたんだ」
「体……鍛えよかな、思て」
話を聞くと、以前のように箱で居続けることができなくなったらしい。
箱入り状態だったときは仮死状態に近く、新陳代謝が停止しているので食事不要、電力を補給するだけで長時間活動可能だった。しかし本来のフルパワーを発揮するために──俺を古代人から助けるために一肌脱いでくれた。
そして、仮死状態に戻るのはかなり大変で、自由に切り替えることはできないそうだ。箱の中にただ入るだけならできるが、以前のように機械のフリができるほど入りっぱなしになるのはツラいとのこと。
「これからのウチは……引きこもり卒業……コミュりょく、爆発レディ……」
「すでにコミュニケーション不全で事件が起きてるんだけどな」
でも、やっぱり俺のせいか。
ルーマのことはなんとなく便利なアイテムとして連れてきてしまって、放置気味だった。ちゃんと人間として扱わないといけない。仲間のトラブルは自分の責任だ。
数日ぶりに起きたようなので、いろいろと説明する。
野盗を何匹も倒したこと。今は戦闘が休止中であること。俺達は別の部屋へ引っ越したこと。
「野盗……解析。するで」
「ん?」
「……データ。見せてみ」
「ああそうか、その手があったか」
野盗のアーマーの残骸はいくつか回収して船に置いてある。ルーマの回路技能があればそこから情報を解析して野盗側の事情を探ることができるだろう。
野盗たちはどうやら一枚岩ではない。にも関わらず狙ったように船を狙いにくる。どこかで情報交換でもしているのだろう。そのどこかが分かるかもしれない。
散発的な襲撃にいちいち備えるのもアホらしいと思い始めていたところだ。ここらで一発、デカい巣穴へ殴り込みにいくのも悪くない。
「ウチ、役立つ……やで」
ルーマはどうやら張り切っているようだ。喋り方こそボソボソしているせいで陰気に見えるが、中身は変わっていないように感じる。箱に引きこもりすぎて肉体で喋るのに慣れていないのだろうか。
今日はどうせ暇だし、情報解析にむかうことに否は無い。
だがひとつ、どうしても言っておくことがあった。
「ルーマ、服を着ろ」
↵
「ルーちゃん、似合ってる!」
「おおきに……」
事件現場に入りたくてウズウズしていたリンゴがすぐそこに居たので、服を頼むとあっという間に調達してきてくれた。役に立つヤツだ。
「その姿で行動するつもりだったのなら、言ってくれれば用意しておいたのに」
俺と同じ危機対応係なのになぜか現場に来ず、役立たずだったリンピアが何か言っている。
「……ちょっと道に迷ってな。遅れてすまなかった」
「いや別に何も言ってないぞ」
「……言いたそうな顔をしてた」
寝るとき真っ暗にせず小さな灯りをつける派のリンピアは、しばらくのあいだモニョモニョと気まずそうにしていた。
データサルベージを試みるため、野盗たちからの収穫を保管しているジャンク置き場へむかう。
歩くルーマの姿は、依然として不審者だった。リンゴが調達してきたのは服というより、何重にも巻いて纏うタイプの外套だった。高すぎる身長の彼女に適した服はこの船に無かったのだ。それをローブのように羽織る形に落ち着いたのだが……ふらふらと歩く姿は巡礼者か、あるいは妖術師か。
すれ違う者たちが驚くので、いちいちフォローが必要だった。そのうちまとめて皆に挨拶させよう。
ジャンク置き場には、これまでに俺たちが野盗から剥ぎ取ってきた獲得品が積まれている。アーマーパーツの予備としてはもちろん、航行中の時間を使って、エンジニア技能のある乗客や船員たちが部品を抜き取って日用品に変えるのに使われている。
「ハァ……」
ジャンクパーツの山……本来なら心踊る光景を前に、ため息が止まらない。
本来なら楽しい時間のはずだったのに。あーでもないこーでもないと言いながら取っ替え引っ替えできるはずだったのに。
それなりの数のパーツを回収してきたが、残念ながら俺自身が満足できるものは無かった。
工夫も改善の余地もない、ゴミパーツばかりだったからだ。
とある野盗から奪った散弾砲──有効射程が短いのに、ゼロ距離命中させてもイマイチな火力だった。ショットガンといえば近距離大火力が魅力の武装なんじゃねーのかよ。もとは羽虫キメラでも追い払うためのクラッカーかなにかだったのかもしれない。
とある野盗から奪ったレーザーライフル──20秒以上、一点へ照射し続けなければ装甲にダメージを与えられなかった。恐ろしく燃費が良いが、実戦では話にならない。もとは武器ではなく、ミサイル迎撃装置かレーザーポインターだったのかもしれない。「アニキが腰につけてるレーザーソードに似てますね!」と笑ったサジは地獄阿弥陀落としの刑に処した。
とあるイカレ野盗から奪ったチェーンブレード──刃の構造的に、柔らかい肉を解体することだけに特化していて、戦闘には使い物にならなかった。キメラ蟲の肉を解体するのには使えそうだったが……その肉は変換器を経てで口に入れることになる。人間相手に使用した形跡があったので船の皆に嫌がられ、処分した。
機体パーツもぱっとせず、下位互換ばかりだった。せめて4脚やキャタピラ型の脚があれば、性能が低くても楽しめたのだが……2脚型ばかりだ。神経同調する操縦システムである都合上、使い手が限られすぎていて流通数も少ないので仕方ないのだが。
自動修復機能が故障しているせいで使えないものもあった。工房に持ち込んでオーバーホールすれば修理できるだろうが、そこまでコストを支払う価値のある良品は見当たらない。今のところは万が一の使い捨て用予備として置物になっている。
日曜大工でコンテナハウス建築なんてものをしていたのは、気分転換のためだ。
やっと自由に武装組み換えができると思っていた俺は、大きく期待を裏切られることになった。性能に劣るパーツをいかに活用するかという楽しみ方は存在するが、それにも限度というものがある。
完全なゴミパーツというものはゲーム上だと少数しか存在しないが、この世界には無数にありふれている──その現実を思い知った。
ジャンク街では機体1機ぶんのパーツを揃えるだけで精一杯だったし、ただアーマーに乗れるだけで満足だった。リンピアといっしょにストイックな生活をしていたせいもある。だが、そろそろ満足できなくなってきた。
そろそろ遊び心をだして、色んな武器や機体パーツを試して楽しむべきだ。
いちばん手っ取り早いのは街で購入だろうか。金には余裕があるので、早く街に行きたい。
とはいえ、すべてが無駄になったわけではない。俺の機体には使えなくとも、作業用アーマーよりはマシな性能のものがいくつかあった。それらを利用して、乗組員たちの作業用アーマーや、少年団の継ぎ接ぎ戦闘アーマーの性能が、若干だが底上げされている。
街での整備ができない野盗たちが使っていたものだけあって、修復コストが安いパーツが多く好都合だった。一部分だけでも手軽に組み換えできるところがアーマーの良いところだ。
「そいつが幽霊の正体かい?」
「すみません、前にもうひとり情報担当の仲間がいるって話したと思うんですが。コイツでした」
「ルーマ……やで」
ちょうど船長がジャンク置き場にいた。ローブのノッポを引っ張ってきて、紹介を済ませておくことにする。
ルーマは緊張しているのか、所在なさげにローブの裾をいじっている。
「……アンタ、古代人なのかい?」
「ちゃう……やで」
「本当かい? 回路技能に長けてて、ヒョロっとした見た目で……」
「ちゃう……そんなんと、ちゃう……」
「ふうん。そういう変人を見たら古代人と思えって聞いてたんだけどね」
「……うぅ」
ルーマは俺の背中に隠れるように丸まってしまった。
さすがに助けてやろうか……と思っていると、ゴソゴソとどこからともなく板状のものを取り出した。なにか操作をすると、その板はあっというまにガチャガチャと展開し、なんと例の箱に変形した。
箱を天高く掲げたルーマは、そのまま勢いよくズボッと頭からかぶる。
とたん、洪水のように喋り始めた。
『古代人なんかと、一緒にせんといてや!! あんな、自分らが世界の中心に立っとると勘違いしとるような、頭ガチガチで、人の心ってもんが無い、過去の遺産にアグラかいとるだけのクズどもと──』
「古代人について、詳しいんだね」
『……黙秘するで』
「アンタが言ったんだけどね」
『……』
ルーマは箱を外して畳み、俺の背中に小さく縮こまって隠れてしまった──デカいのであまり隠れていないが。
船長は肩をすくめると、俺のほうに向き直った。
「ま、構わないさ。信用できて、船の役に立つなら誰だろうと歓迎だよ」
「それは保証する。今も、仕事をさせに来たところだったんだ」
パーツの山に向かい、俺は指をパチリと鳴らして《操作》を飛ばした。
ガシャガシャとパーツが蠢き、屍の山から怪物が蘇ったかのように、手脚の長さすら不揃いな、粗雑な人型が立ち上がる。
繋がりそうなものを適当にくっつけただけの、即席アーマーもどきだ。短時間動いて、パーツを運ぶことができさえすればいい。
「ルーマ、指示をくれ。力仕事はまかせろ」
「おーけー、やで」
ルーマの出す指示に従って作業を進める。
彼女も得意な仕事をしているうちに落ち着いてきたようだ。アレコレと次々とばされる指示に、ホイホイと従ってアーマーもどきを動かしていく。
「データが残ってるんは……胴体パーツ、だったトコ。でも手脚にアンテナが生えとったら……そこからでも漁れるねん」
胴体パーツというのはもともと流体CPUが内蔵されていた機械のことだ。流体CPUは非正規の操作を受けた時点で蒸発して消えてしまうが、ドライバは流体CPUが収まっていた場所をコクピットとして搭乗し、様々な操作を行う。情報系の回路技能に長けていれば、そこで扱われた情報処理の痕跡を解析することができる。
ただし、胴体パーツというのは戦闘になると真っ先に破壊されるパーツでもある。なぜなら殆どの場合、胴体内にいるドライバに致命傷を与えなければ行動不能にすることができないからだ。
対アーマー戦において胴体パーツを無傷で獲得できることはほとんど無い。実際、戦利品としてこの場所にある胴体パーツはかなりの割合で破損してしまっていた。
こういうとき代わりに手がかりになるのが、腕や脚のパーツに搭載されている送受信機能類であるらしい。
この世界のアーマーとは大昔の機械パーツを腕や脚として《認識》して繋ぎ合わせたものであり、胴体と腕とで機能が重複していることがある(はじめから人型兵器としてトータルで製造・構築されたものは『完全品』と呼ばれている。いつかフルボディで手に入れたいものだ)。
情報処理の中心が胴体であっても、四肢や頭のほうに高性能な送受信機能がついている場合、操縦システムはそこを情報の『出入り口』として扱う。その痕跡からデータログを漁ることができる──というのがルーマの解説だった。
ブレードアンテナ(空気抵抗が小さくなるように飛行機の翼のような形をしたアンテナ)やレドーム装甲(内部に回転式のアンテナを内包し防護するもの)などなどがついているパーツを運んで集める。
それをルーマがふらふらと撫でていく──《読み取り》しているらしい。
傍から見ていると猫背のノッポがペタペタとパーツを触っているだけだが、やっていることは高レベルだ。
まず機械の表面からアクセスできるのがおかしい。普通は装甲を開いて外部接続端子を探すところからだ。回路という常識外の力があるとはいえ、やっていることは超能力者に近い。
そんな作業をしていると早々に成果が出た。
「……ビンゴ、やで。頭の悪そうなお手紙……たくさん」
「もうか。すごいな」
「せやけど……虫食い状態。穴埋めに時間かかるから……ちょいと寝かせて、放置……」
フウと一息つくルーマ。あとは自動で進むらしい。
船長やリンピアたちは別の作業について話し合いはじめている。
待ち時間になったので、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「なあルーマ、おまえはどうしてそんなコテコテな関西弁なんだ?」
「!!??」
ルーマはカッと目を見開いて俺のほうを見た。ホラー映画の幽霊みたいで怖い。
コイツと真正面から目が合うのは珍しい。ちゃんと見るとわりと美人系の顔立ちなので余計に迫力があって怖い。
「いや、俺が勝手に妙に感じてるだけか。それに関西弁って言っても分からないよな……でも他にそんな喋り方してるヤツ他にいないから気になって……」
「ウチのカンサイベン、変んんなんんか!?!?」
ルーマは予想外に取り乱した。
「いやすまん、べつに変ってわけではない、と思うが……」
コテコテエセ関西弁、という意味でならルーマの喋り方は逆に正しい。フィクションとかでよく見る気がする。本物の関西人が聞くと拒否反応で鳥肌が立つというが、俺にとっては変ではない。ただなぜそんな喋り方なのか気になっただけだ。
そもそも、あの関西弁を話しているとは限らない。
俺の言語認識というものがどこまで正しいのか……。
異世界言語問題というやつだ。ここの人類は日本語を喋り、文字は英語のアルファベットと漢字(中国語?)が入り混じったものを使う──明らかにおかしい。ヘンテコ過ぎる。
おそらく俺の頭が勝手にそう解釈しているだけで、実際には謎の異世界言語が通用しているのだろう。
そこらへんの真実は早々に放り投げていた。証明不能なクオリア問題に近いし、興味もなかったからだ。
「……変じゃ、ない?」
「そう、珍しいなと思っただけだ」
「……これはな、陽気で、コミュ強な、人気者の喋り方やねん」
いろいろ突っ込みたくなるが……黙って聞く。
「古い時代の話やけどな……熱い魂を持ってて、人情に溢れた、明るくて気さくでユーモアのある地方……あってな。そこにおる人らが、喋ってた言葉やねん」
「そ、そうなのか」
「古代人とかより、もっと昔の話や。その言葉を使いこなせる人は、どんなつまらん話も面白くできる、ドッカンドッカン笑いをとる、人気者になれたらしいねん。だから、ウチも使ってるん」
やばい、もっとヘンテコな話が出てきた。
異世界にも大阪があったのか。関西がミラクルワールドになっている。つまり……そういうバックストーリー事情がついてるから俺の頭は関西弁と認識していたのか……? いやそれだと前後が……
……まあいいや。めんどくさい。
ルーマは陽キャに憧れて変な言葉を使いこなそうとしている変なやつ。それでいいや。
うん、これまで通りだな。
「どうやろ、うまく喋れてるんかな?」
「良いんじゃないか? 個性的でキャラ立ってるよ」
「さよか……おおきに」
ニュフフと湿った笑顔を浮かべるルーマ。俺の評価なんて気にせず好きに話せばいいのに。
それからデータの抽出作業が終わるまでの間、ルーマはすっかりご機嫌だった。お墨付きを得たとでもいうように、いつも以上に胡散臭さに磨きのかかったカンサイベンをひけらかし、休むことなく喋り倒した。
そして酸欠で倒れた。
肉体方面が貧弱すぎるなコイツ。




