荒野活動
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荒野の風は、いつだって錆と砂の匂いがする。
オレは薄汚れたポンコツのコクピットで、葉巻をふかした。
紫煙のむこうに広がる地平線。あそこからオレの運命がやってくる。
この残酷な世界は、夢見る者に容赦なく現実をつきつける。
隙を見せればすぐに襲ってくる、クソッタレな虫と機械ども。
オレのやることなすことにケチを付けてくる、街のしみったれた引きこもりども。
だがオレは諦めない。いつか必ず成り上がり、大都市の貴族どもすらひざまずかせて、オレだけの王国を創り上げて見せる。オレにはそれだけの器があるのだ。
先週襲った開拓民から巻き上げた水ボトルと食糧缶で喉を潤す。
あの親子も、オレのような未来の覇者に全財産を投資できたのだから、本望だったに違いない。泣いて喚いてうるさいので仕方なく挽肉にしたが、それもこの厳しい荒野における掟というやつだ。勉強になったことだろう。
偉大な目標を叶えるためには、莫大な軍資金が要る。
チマチマとした小銭稼ぎはもう終わりだ。
ついにオレの運命を劇的に動かすだけのビッグチャンスがやってきたのだ。
──そのとき、砂丘の向こうから低い駆動音が響いてきた。
蜃気楼をまといながら、目視圏内にゆっくりと、巨大なシルエットが姿を現す。
たっぷりと物資を溜め込んだ、丸々と太った一隻のホバータンカーだ。
あれこそが今回の標的。情報通りだ。砲門などのろくな武装も無い、鈍重な輸送船。
まるで、オレという新たなる覇者に莫大な富を献上するため、わざわざ恭しく出向いてきたようにさえ見える。
操縦桿を握り込むと、胸の奥で煮えたぎる野心が、抑えきれない歓喜の叫びとなって、自然とオレの口から飛び出していた。
「ヒャッハー!!!! 命が惜しけりゃ貨物をすべて置いてけェ!!!!」
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【ハズレ】臭いのきついドライバ座席
【ハズレ】粗製タバコ(有害)
【ハズレ】期限切れの保存食
【ハズレ】性能の低いジャンク機体パーツ各種
【コモン】未開封の保存食
【コモン】燃料棒とナノメタル
【コモン】ライフル砲と弾薬
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荒野の風が、金の気配を知らせている。
野盗という生業を、底辺のクズがやるただの強盗だと思っている奴は三流だ。
私に言わせれば、これは立派な『ベンチャー企業』である。
世のビジネスは全て需給で決まる。では人が欲しがるものはどこに存在するか? それは人が持っている。ならば、人から調達すれば良い。
だが私の経営理念を街のマヌケどもは理解せず、荒野へと追い出されてしまった。
それでも構わない。ビジネスは明晰な頭脳さえあればどこでも可能だ。
今はまだ薄汚れたツギハギのコクピットで砂埃にまみれているが、徹底したリスク管理と効率的なリターンを追求すれば、必ずこの荒野の覇権を握ることができる。いつか大都市すら買収し、私がすべての経済を牛耳るメガ・コーポレーションになるのだ。私にはそれだけの経営手腕がある。
お気に入りのコーヒーで喉を潤す。少々値が張るが、私の明晰な思考を手助けする、頭脳労働には欠かせない相棒だ。
先週も、行商人のキャラバンを一つ『事業解体』してやった。
はした金で雇われた雑魚護衛どもを皆殺しにしてタダで武装を仕入れ、生き残った商人はまとめて奴隷商へ『アウトソーシング』した。子供が何人かいて親が命乞いをしてきたが、労働力にならないガキをとっておく手間は無駄だ。まとめて轢き潰して処理してやった。それを目の当たりにした親たちも大人しくなって一石二鳥だった。
我ながら実に鮮やかな経営手腕だ。
だが、真のトップ企業へと事業をスケールアップさせるためには、どうしても莫大な『初期投資』が必要だ。チマチマとした小銭稼ぎはもう終わりである。
ピピッ──私の業務用機体に搭載された索敵レーダーが、待ちに待った特大の反応を捉えた。
砂丘の向こうから、重低音を響かせて現れた巨大な影。たっぷりと物資を積んだホバータンカーだ。
事前のリサーチ通りである。載っているのは作業用級のアーマーばかりで、大した武装も積んでいない鈍重な輸送船。私の事業を一気に拡大させてくれる、これ以上ないほどの『ローリスク・ハイリターン』な優良案件だ。
私の完璧な事業計画に、ついに最高のボーナスが舞い込んできたのだ。
操縦桿を握り込むと、胸の奥から湧き上がるベンチャー魂がアドレナリンとなって脳髄を駆け巡り、私の口は自然と熱い経営理念を叫んでいた。
「ヒャッハー!!!! 命が惜しけりゃ有り金ぜんぶ置いていきなァ!!!!」
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【ハズレ】ボロボロのビジネススーツ
【ハズレ】カフェイン過剰かつ依存性のある危険エナドリ
【ハズレ】使えそうで使えないアーマーパーツ各種
【コモン】30万e
【コモン】比較的綺麗なタブレット端末
【コモン】燃料棒とナノメタル
【コモン】ライフル砲と弾薬
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荒野の風は、いつだって退屈で無粋だ。
ボクは美しく装飾したコクピットに身を沈め、焚きしめた香の深い匂いを吸い込んだ。
広がる地平線は、ボクの次なる傑作を展示するための、広大なキャンバス。無知でナンセンスな人々はボクの崇高な芸術を理解せず、この荒野へと追い出したが、真の芸術は場所を選ばない。鉄と深紅によって表現される真の美は、いつだってボクに描かれることを求めている。
赤ワインで喉を潤す。ボク自身が深紅をブレンドした特製だ。先週、ボクの美学を理解しようとせず逃げ惑った哀れな下民から頂戴したものだ。
残念ながら彼らには審美眼というものが備わっていなかった。なので観客ではなく素材として、ボクのアーマーを彩る芸術の一部になってもらうことにした。彼らは至高の美を追求するためのプロセスのひとつになれた歓びにより、終始泣き叫んでいた。
だがいまだにボクは満足していない。歴史に名を刻む画堂を拓くには、ボクの感性と釣り合うだけの至高の画材と絵筆が必要だ。
──そのとき、索敵レーダーが美しいソプラノを奏でた。
来た。知らせ通りだ。
深紅の装甲。洗練された流線型と鋭角の機体。
鈍重なみすぼらしい船にふさわしくない、沼地に咲いた1輪の薔薇のような機体だ。
これほどまでにボクの美学を震わせる素体が存在していたとは。あれこそ、ボクという真の巨匠が搭乗し、この荒野をより赤く染め上げるための筆にふさわしい。
ボクの鼓動が、かつてないほどのインスピレーションの爆発を告げている。
操縦桿を撫でると、胸の奥で渦巻く創作意欲が、押さえきれない情熱となって叫び声をあげた。
「ヒャッハー!!!! テメエの血は何色だアアアア!!!!」
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【大外れ】違法薬物
【大外れ】腐った血のボトル多数
【大外れ】腐った肉がへばりついたアーマーパーツ
【大外れ】血液が混入したナノメタル
【ハズレ】意味不明ポエムがぎっしりと彫刻された装甲板
【ハズレ】どぎつい着色されたライフル砲
【アタリ】ブースター噴炎の色を変更するオプションパーツ
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荒野の風を感じると、いつだってワクワクする。この先には俺が望むものが待っている。この世界には俺が愛するものがそこらへんに当たり前のように実在している。なんと素晴らしいことか。それに加えて初めて地上に出られたときの解放感や、西部劇とかの渋くてカッコイイ男の世界みたいなイメージも上乗せされているのだろう。
荒野ではアーマーを好き勝手に乗り回しても誰にも怒られないというのもいい。
街の中はなんだかんだで窮屈なのだ。ブースタは吹かしちゃいけないし、戦闘モードは禁止だし、通常モードでもジャンプすると地面舗装が荒れて怒られるし。格好良いポージングしてると変な目で見られるし。武装を握って構えるのも、ガレージの外でやると通報沙汰だ。銃を飾ることしかできないガンマニアとかもこんな気持ちだったんだろうか。
その点、荒野は良い。
うってつけの相手役だって居る。野盗だ。
野盗は良い。本当に撃墜してしまっても誰からも文句を言われないどころか、ギルドからは感謝されて小遣いまで貰える。
おまけに彼らは、頼んでもいないのに自分から弾薬や武装やパーツを抱えて、わざわざ俺のところまでデリバリーしにきてくれるのだ。
まあ、たまに変なのも混じってるけど。先日も、薬物中毒者とか完全に頭イカレたスプラッタ野郎が襲ってきたので返り討ちにした。倒しても危険物を掴まされたり、そもそも漁るのが苦痛だったりするのは勘弁してほしい。
ピピ──と、索敵レーダーが要警戒反応の接近を伝える。
今日は4人組の野盗のようだ。地平線を転がる岩の陰から飛び出してきたアーマーが、土煙をあげながら突っ込んでくる。初日に遭遇した奴らのように巧妙な騙し討ちをしかけてくる野盗は少数派だったようで、このような直球襲撃がほとんどだ。リンピアの赤兎以外は作業用に毛が生えた程度のアーマーしか居ないように見えるので、とても美味しい獲物だと思われるらしい。
カメラをズームして品定めしてみると、なんとライフル砲ではない武装を持っている機体が確認された。これは期待できそうだ。
俺はハンドルレバーを力強く握り込み、ジェネレータの出力を一気に跳ね上げる。
腹の底から溢れてくるワクワクとドキドキのままに、叫び声をあげながらブースタを一気に解放した。
「ヒャッハー!!!! その武器とアーマーパーツをよこしなァ!!!!」




