野盗ガチャ
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その日、一隻のホバーボートが、船の進む先に現れた。
平均的な中型サイズで、見た目はボロボロ。完全に機能を停止している。絵に描いたような遭難船だ。
その船からは救命ビーコンが発せられていて、甲板にも両手を懸命に振ってこちらへアピールしている、船員らしき人影もあった。
『総員傾聴──』
船長ヴェラが、艦内通信で指示を発した。
『──砲撃開始。アレをぶっ殺せ』
その声を引き金として、タンカー甲板のコンテナ陰に身を潜めていたアーマーたちが一斉に姿を現す。ライフル砲が次々と火を吹き、轟音とともに無数の徹甲弾が一直線に放たれた。
その標的はボロボロの遭難船だ。表にいた名も知らぬ人物はあっというまに消し飛び、船体はさらにズタズタに引き裂かれていく。
ブリッジからその光景を見下ろしていたであろう船長が、通信越しに気怠げにぼやく。
『こういうとき、でっかい大砲が欲しくなるねえ……一撃で消し飛ばせりゃ爽快だろうにさあ。クソッタレどもの懸賞金で足りるかね?』
『クソがッ! 民間船をいきなり攻撃するやつがあるかよ!』
オープンチャンネルに、野盗の狼狽と怒りが入り混じった声が響き渡った。まんまと騙し討ちにしてやるつもりが、挨拶代わりの斉射を浴びてパニックに陥っているらしい。
ヴェラは鼻で笑って言い捨てた。
『身元開示もナシにビーコンだけ出す間抜けがよく言うよ』
地中を掘り返せば、旧時代の兵器が発掘されるこの世界だ。見た目がただの難破船だろうと、内部にどんな危険物を隠し持っているか分かったものではない。
ゆえに、本気で他人の救助を求める遭難者であれば、ギルドが管理するものと共通の信頼度スコアなどの身元情報を、救難ビーコンと共に周囲へ開示するのが荒野の常識だ。それを怠ってビーコンだけを垂れ流すなど、「私は野盗の罠です」と自己紹介しているようなものだ。アーマーが甲板に全く居ないのも怪しかった。
待ち伏せの事実を事前に知っていなくとも、この船長なら迷わず撃っていただろう。
やがて、黒煙を上げる難破船は擬装用の外殻をパージし、複数のアーマーが蜘蛛の子を散らすように飛び出してきた。遭難船はただの隠れ蓑だ。そこらにあった難破船を利用したのだろう。あるいは野盗の手による被害者のものかもしれない。
中にいたアーマーたちのほうは全員無事だったらしく、こちらを包囲するために散開していく。近くの砂丘の陰からも気配がある。
『7機のドメインノイズを確認──全て犯罪者だな、討伐する。行くぞジェイ、仕事の時間だ』
「ああ行こう。……良いなあその掛け声。次も言ってくれ」
『はいはい』
戦闘モードを起動。ジェネレータの甲高い機関音が轟く。
リンピアの愛機である赤兎──ダークレッドの最高級戦闘機体は一瞬で臨界点に達し、盛大な噴射炎を残して跳躍していく。俺の予備機もあとに続く。
船から出て直接戦闘するのは、俺とリンピアだけだ。こちらの他のアーマーは作業用に毛が生えた程度のものなので、アーマー戦では心もとない。静止目標に対して斉射するくらいはできるが、勢いだけはある野盗たちを撃ち落とすのは難しいだろう。
野盗たちのアーマーも、性能的には作業用と遜色ない。戦闘用パーツがいくつか混じっているが、街や村で補給ができないせいで、ろくな整備がされていないからだ。
とはいえライフル砲弾の威力は誰が撃とうとも変わらない。まっとうなアーマーでも当たれば痛いし、人間なら消し飛ぶ。船に命中するのもまずい。
初戦ということもあり、サジや船員たちのアーマーには様子見も兼ねて船を守るのに徹してもらう。撃ちまくって遠ざけるくらいなら簡単にできるはずだ。
船そのものに戦闘力は無いが、作業用アーマーはサジたちを含めて12機も載っている。それに加えて俺とリンピア。
対して野盗たちは7機。
騙し討ちが成功すると皮算用していたのか、それとも野盗のくせに腕に自信があったのか? その答え合わせはすぐに済んだ。
『他愛ないな』
レーザーブレードを構えた赤兎が、包囲するために散開する前の野盗アーマー集団へ突っ込み、通り抜ける──
それだけで、3機の野盗が散った。どれも機器中枢をバッサリと焼き斬られていて、完全に機能停止している。
誰一人反応すらできていなかった。船のメインマストと太陽を目眩ましにして跳び、降り立った瞬間の早業だ。
俺も負けてはいられない。
リンピアが先んじた方向とは反対側から、丁寧に仕留めていく。
予備機はライフル砲2門の砲台に脚が生えたような形で頭も無い。各部パーツの性能は低いが、腕部と頭部が無いぶん軽量で軽快だ。火力も通常のライフル砲より若干高い。
1機2射──両腕からほぼ同時に放った砲弾を、全く同じ部位へ命中させる。1射目で装甲に損傷を与えたところへ、2射目が貫いて深部まで破壊する。本来なら数発かそれ以上耐えられる装甲だが、それはある程度弾がバラけること前提の話だ。損傷が同一箇所に蓄積してしまうと本来のスペックを発揮できない。そして装甲さえ抜いてしまえばライフル弾は十分致命的なダメージを与えることができる。
リンピアのほうに注目が集まっていたせいで、面白いように決まっていく。
きっちり6発で、3機が沈黙した。
『……へ? ……は?』
残りは1機。何もできないまま棒立ちになっている。後方へ陣取るようにポジショニングしていたせいで生き残ったらしい。
火力支援役だったのか、ゴツい武装を持っている。
──と、そこで俺は気づいた。
「待てリン!」
『!?』
最後の1機に襲いかかろうとしていた赤兎が逆噴射をかける。
『どうした? 何かコイツに注意すべき点でも……』
「いや。ソイツの武器、格好良いから無傷で欲しいな、って」
『……』
『テメエらふざけてんじゃッ──』
我に返ったように最後の野盗が武器を構えるが、次の瞬間にはスラスタ噴炎が閃き、赤兎がレーザーブレードを振り抜いていた。
『ジェイ……そういうのはくれぐれも、安全が確認できているときに頼む』
とは言うものの、仕留められた最後の1機は的確にコクピット部のみを貫かれていて、武装は無事だった。
やはりリンピアは優秀なドライバだ。
というか達人。この世界でも上の上。リンが最初に出会った人間だったせいで俺の中でのアーマー乗りの基準がおかしかったんだよな。赤兎の性能があるとはいえ、ここまで鮮やかに戦える人間はそうは居ない──ということが今なら分かる。
バーチャル模擬戦とかできる発掘品が欲しい。いつか損傷を気にせず戦ってみたい。
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野盗アーマーは船には揚げず、その場で解体した。危険物が侵入するのを防ぐためだ。
サジや船員たちが、雑にバラしてめぼしいものだけを回収していく。
とはいえ奴らの機体は質が悪いので、弾薬・燃料棒・ナノメタルを抜き取っていく程度だ。個人収納スペースに遺されていた携帯食糧はちょっと助かるが、量は多くない。
「普通の雑魚だったね。平均的な野盗ってとこか」
「威力偵察の捨て駒と見るべきだろうな。船や村に工作をした潜伏役も居なかった」
船長とリンピアが頷き合っているが、俺は別のことに夢中だった。
最後の野盗から回収した武器についてだ。
「ふふふ……」
ガトリングだ。ガトリング砲を入手した。
ガトリングを入手したぞ!
「ウフフフフフフ」
ガトリング。それは漢の浪漫。
ガトリング。それは全男児の憧れ。
ガトリング。それは男の子の初恋。
「フハハハハハハハハハハハ」
「アンタの相棒の様子がおかしいみたいだよ」
「アイツはあれでいいんだ……たぶん」
胡乱げな目線をむけてくる女船長。
リンピアはなにか擁護をしようとしてくれたみたいだが、途中で諦めたようだった。
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この世界ではどいつもこいつもライフル弾武装を使いすぎなんだよ。確かに弾が入手しやすいってのは最強に近いアドバンテージだし威力も使い勝手も申し分ないし砲身のほうもよく発掘されるし全部これでいいんじゃね?ってなるのは分かる。分かるんだけども違うんだ。個性ってやっぱり大事だし。小と大があるからこそ中が生まれるわけで。いやそんな話はどうでもいいか。
野盗の持っていたゴツい武器はガトリングだった。あんな雑魚にはもったいない代物だ。彼もふさわしい人間の手に渡って喜んでいることだろう。
野盗という奴らは村や街から締め出されてまともな補給ができないので、場当たり的に使えるものを使っていることが多い。そのせいでたまに普通では見られないような装備をしていることがあるのだ。
だが残念なことがある。まず整備状態が悪いこと。自動修復機能が満足に働いていない。ナノメタルによる自動修復は人間でいう新陳代謝に似た仕組みで、通常使用による摩耗や小さな傷は万全に直してくれるが、異物侵入や大きな断裂の修復は苦手としている。ろくに手入れもされずゴミが詰まっているのだろう、可哀想に。俺がすぐ綺麗にしてあげるからね。
そして大問題として、弾が少ないこと。全員の弾倉まで調べたが、満足のいく量を回収できなかった。これでは駄目だ、実戦中にすぐ弾切れしてしまう。弾幕を張ることができない。ガトガトできない。撃ちまくれないガトリングなんてガトリングではない。
しかしこれは希望でもある。
野盗を狩りまくればいいのだ。
それですべてが解決する。
野盗とは、まともにディグアウトする技量もなく、弱小商隊を襲って小金を稼ぐ程度のことしかない雑魚である。
だがそんな野盗の中にもレアなアタリが混ざっていることがある。
野盗とはガチャだ。
ガトリング用の弾が欲しい。もう1丁ガトリングをゲットして2丁持ちしたい。ガトガトしたい。他にも欲しいものはたくさんある。
俺の望むものが出るまで──俺の欲望が求めるかぎり、狩って狩って狩り続ければいいのだ。世界が平和にもなって一石二鳥。
嫌な奴らに絡まれることになったと思ったが、がぜんやる気が出てきた。
これからが楽しみだ。待っていてくれ、野盗団のみんな。




