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閑話 腕ならし

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 大規模な戦闘の予感でワクワクだ。

 嵐の中、船と船、そしてアーマー戦……

 吹きすさぶ風、砲火と砲火、アーマー同士の戦いだ……フフフフフ。


 船長とリンピアは作戦会議を続けるらしい。

 俺は機体を念入りに手入れしておこう……と思いながら部屋をあとにすると、サジがピッタリと後ろについてきた。


「ぐああ~、めちゃくちゃ肩凝った……姉貴も姉御も殺気立ちすぎてて、マジで怖かったッスよぉ……」


 会議の間、妙におとなしいと思っていたが、どうやら雰囲気に気圧されていたようだ。両肩をぐるぐると回しながら、大げさに溜め息をついている。


「まあ、船に乗ってる全員の命がかかってるからなあ。それに……あの二人からすると、かなり恨みのある相手だし」


 リンピアにとっては、大岩の街のころからの因縁の相手。

 ヴェラ船長にとっては、大事な船に工作を仕掛けてきた憎き相手。

 あと船の皆にとって、食の恨みの相手だ。


「オレ、完全に場違いだったスよぉ。せっかく兄貴が参加させてくれたのに、一言も喋れずに置物になってたッスから……」

「慣れだよ慣れ。おまえは少年団のリーダーなんだから、雰囲気だけでも知っておいたほうがいい。そのうちマトモに振る舞えるようになる。俺もいつまでも居るワケじゃないしな」

「うえー……兄貴ずっとこの船にいて下さいよお」


 口ではこう言っているが、これでもサジはストリートチルドレンを率いて生き抜いてきた奴だ。

 今の姿は俺に甘えているだ。そう遠くない将来には立派にやっているだろう。

 サジこそ、ずっとヴェラの船にいるつもりなのだろうか? 勉強になることは沢山あるだろうから当分は世話になるのだろうとは思うが。そのうち聞いておくか。


「はあ……疲れたわ」


 コロコロ移動する箱に乗ったルーマも、俺たちについてきた。

 会議のほとんどは箱に代弁させていたが、今回のキーマンだ。かなり気力を使ったことだろう。その前からデータサルベージと解析もこなしていた。


「もう逆に元気、なってきた……めっちゃ疲れすぎて逆に元気、なってきてしもたわ……ウチ、逆にテンション上がるタイプ……働きすぎも……考えモン……」


 わざとらしく首をグリングリンまわしたり肩をほぐしたりして、これでもかとアピールしている。

 そんなウザいアピールをしなくても、実際ほんとうに活躍してるのは分かってるんだが……

 あ、そんなことやってるからバランス崩して箱から転げ落ちそうになっている。


「大手柄だった。ルーマの働きがなければ俺たちは奇襲を受ける側で、大きな被害を出したことだろう。俺やサジの命の恩人と言ってもいいくらいだ。一段落したら改めて礼をしよう」


 本気の感謝を述べておく。ルーマ自身おちゃらけた言動をしていることが多いせいか、俺も彼女を雑に扱うことが多かった。だが親しき中にも礼儀ありというやつだ。


「ううぇ??」


 あー、落ちてしまった。

 顔面から落ちて鼻をさすっているのを抱き起こしてやると、ルーマは頬をヒクヒクさせながら、落ち着きなくクネクネと身をよじらせた。


「……せ、せやろ? ウチ……お手柄、やな? うぇへへへへへ……」


 その後もしばらくルーマは挙動不審だったが、なにもない空間を眺めてはニヤニヤしていたので、悦に入っているのだろうと放っておいた。

 喜んでるんならいいか。

 ずっと箱になりすまして機械扱いされていたから、人間からちゃんと感謝されるのが久しぶりだったのかもしれない。


 ↵


 アーマーには自動修復機能があり、ナノメタルを補給してさえいれば充分なコンディションを保ってくれるが、それでも人間の手によるメンテナンスは欠かせない。

 船員や乗客のなかで心得のある者がエンジニアとして手伝ってくれているが、俺は断然、自分でやる派。


 ナノメタルはそれなりに高価な資材だ。簡単な溶接で済むような傷はそれで直してしまうほうがナノメタルの節約になる。

 逆に大きすぎる損傷がある場合には、見切りをつけて自動修復を停止し、パーツごと取り換える判断をしないとナノメタルを無駄遣いすることになる。

 機体を動かしていて消耗される部品はナノメタルによって補修されるが、これも現物があるなら安く上がる。簡単に交換できる部位なら交換、複雑な心臓部ならナノメタルに任せる。状況にあわせた選択が節約のカギだ。

  

 清掃も必要だ。自動機能が働くのは内部だけだ。異物が貯まると免疫機能のように各所から吐き出されてくるので、それを取り除く。

 もちろん表面の洗浄もする。関節部の砂埃やスラスター周りの焼付きなどは特に念入りに。

 いくら中が綺麗でも、外に汚れが挟まっていては万全に動けない。

 野盗から奪ったアーマーパーツには、信じられないような汚れが積層していたものだ……砕き割るように除去していくのは、それはそれで快感だったが。


 砲口カバーも交換しておくことにする。

 待機時、ライフル砲などの発射口には、砂塵よけのためのカバーが被せられている。これはキメラ蟲の大腸を洗って伸ばしたものだ。手に入りやすく、使い捨てにしても惜しくない。前世の地球で、銃口にコンドームを被せていたという話に似ている。

 このカバーはつけたまま発砲しても問題ない──むしろ、戦闘開始時までつけておき、初弾でカバーごと撃ち抜くことが推奨されている。

 ライフル砲弾の破壊力が腸程度に阻まれることなどないし、それよりも内部に石などが入り込んで暴発するリスクを確実に防ぐことが優先されるからだ。

 とはいえ……分厚く硬いカバーよりも、薄く柔らかいカバーのほうが、影響が小さくて良い気がする。戦闘に絶対は無い。

 素材の腸も狩りのおかげで余っているし、より薄く伸ばしたものを作って交換してしまうことにした。

 新鮮な腸をアーマーの腕で引っ張って伸ばし、そこにライフル砲の砲口を押し当て、頑丈なロープで固く縛り上げる。あとは乾燥させてからロープを外せば、ピッタリとフィットしたカバーの完成だ。

 発砲の衝撃でスポンと吹き飛んでいくため、撃った後も一切邪魔にならない。

 なかなか良い出来栄えに満足だ。まあ、実戦1回でサヨナラする使い捨て品なのだが。


 アーマー置き場(エプロン)の隣にはジャンクパーツを積み上げた山がある。俺を失望させたパーツたちだ。見ているだけで残念な気持ちになる。野盗への苛立ちがフツフツと沸き立つ。いっそのこと綺麗サッパリ捨ててしまいたい。

 ところで、鹵獲した野盗のアーマーを検分していて気づいたことがある。

 やつらの機体には『手首』が存在せず、腕部に直接武装をつけている個体が非常に多かったのだ。たしかに『人間らしい手』がついていない腕パーツは多いが、それにしてもだ。わざと撤去した痕跡すらあった。

 乱暴な構造には腕武器のようなカッコよさは無く、雑魚ロボットのような間抜けさに拍車をかけていたが、これには現場ならではのリアルで合理的な事情があることが理解できた。

 単純に、充分な補給や整備が期待できないから──そして武器の扱い方に適しているからだ。

 手首をオミットすれば、衝撃吸収性や照準速度、関節可動域の低下による照準範囲の狭さといったデメリットが生じる。しかしその反面、構造が単純になるぶん頑丈で故障率が大幅に下がり、大口径火器の強烈な反動を腕全体でしっかり受け止められるというメリットがある。

 野盗の戦術は、相手を脅してハッタリをかますための『火力一辺倒』であることが多い。ろくに制御もできないくせに大物火器を二丁持ちするような奴らだ。そういった極端な運用において、固定化された腕部は相性が良いのだ。

 野盗なりに、考えてはいるということだろう。


 我ながら、準備に気が入っている。

 考えてみれば、対アーマー戦としてはこれまでで最も危険な戦いが待っていることになる。いくら野盗が雑魚とはいえ、それは平均の話だ。数が多いなら腕の立つやつも当然いるし、幹部級はほぼ間違いなく上等なアーマーで武装しているだろう。

 戦いに絶対は無い。ゲームにはリトライがあるが、現実で死ねばそこで終わり。使い古された言葉だが、それを実感する。

 この世界の人類には心臓と脳をひとまとめにしたような臓器『コア』があり、それさえ無事なら復活できるが……アウェイの戦いでは回収する余裕があるかどうか。

 憂慮すべきは戦死に限らない。野盗に囚われるようなことになれば死んだほうがマシな目に遭う。

 失敗はできない。

 敗北は許されない。

 だが……だからこそ楽しむべきだ。

 俺の前世はつまらない人生だった。不幸に俯き、絶望に屈し、曖昧な灰色のまま終わった。それはとても勿体ないことだったと、今なら分かる。

 恐怖とは避けるものではない。立ち向かい、打ち砕くものだ。


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