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98話:体育教員、石橋 嶄十郎

あの後、恐怖から解放されたからか、伊藤は泣き出した。俺が頭を撫でたという直後もあって桐生が泣かせたと言われる始末。俺はえ~?とか狼狽えるしか出来なかったが、それを見て笑ってくれたからまあ良いだろう。


3時間目は国語で、これはもうイージーモード。漢字の150問テストを4人班で解いてみましょうってやつ。みんな優秀だったからすぐ終わって文字数縛りのしりとりで盛り上がってた。


そして4時間目。やってきてしまったのだ。


「剣道か・・・やだなぁ」


という気怠そうな声が多い中で


「出来たらモテんじゃね?俺頑張るわ!」


とか夢を見る男子もいた。


男子なら一度は憧れるだろう。軽やかに剣を振り、悪を断ち切るその姿に。高校生にもなってまだモテる為に頑張るとか宣言する奴いるのかと思いながら俺は着替える。


前にも話したが俺は剣術を高めただけで剣道は全くのど素人。型に関しては知らないのでそこは覚えないといけないのだ。


道なんて謳ってはいても所詮は人斬りの技。真剣を用いて悪用すればスパスパっと人を殺すのも可能なのだ。人殺しに近い技を学校で教えるなんて本当物騒だぜ。自己防衛の為だからまあ致し方ないんだけど。


みんなで武道場に行く。なんと男女関係なく剣道はやるらしい。


武道場には黒帯をした明らかに剣道やってます感満載の人がいた。


「お、来たか。それじゃ前に書いてある通り並んで座ってほしい」


元気なお兄さんだ。なるほど、この人が噂の体育教員か。確か名前は・・・名前は・・・


「なあ颯斗。あの人なんて言うんだっけ?」


「あー、石橋 嶄十郎(ぜんじゅうろう)先生だよ。あれ?お前始業式の時はまだいたよな?」


「あー、、、、、悪い。全然聞いてなかったんだわ」


「石橋先生かわいそ」


そんな聞かれたら失礼の極みみたいな会話をしながら俺は先生の事をよく観察していた。


(腕は相当の筋肉だし引き締まってるな。その上で柔軟性はしっかりしている良い鍛え方だ。なるほど。夏からいきなり赴任して授業任されるわけだ。こりゃ強いし生徒への当たりも柔らかい。こんなレベルの人なら剣道教室で教えたほうが良いだろうに・・・)


そう。こんな高校教師で終わるような人じゃないと直感で思った。さらに上の高みだって目指せそうなんだが・・・


まあ今わかるのはこの人にちゃんと教えてもらえるなら授業内だけで十分強くなれるだろう。この授業をサボるのは損だ。


「じゃあ揃ったし時間前だが始めるか。号令頼む」


さあ、授業の開始だ。
















なんというか・・・普通。剣道にはこんな型があります。んで、今回はこのピックアップしたのを教えていきます。で座学終わり。


残り20分でとりあえず素振りらしい。まずはお手本。


「良いかい?竹刀を長持ちさせる為にもちゃんと竹刀が下についてしまう前に止めるんだよ?良いね?そんじゃ見てて。はっ!」


俺はその姿を見て思わず「おー」と声を発してしまった。綺麗だったのだ。あそこまで鍛えあげられているだけあってやはり綺麗。思わず真剣を振ったらどうなるんだろうを見たくなってしまった。


「最初はこんな風に振れるわけないからぶつからないようにを注意してね。次回からは筋トレも少しずつやっていくから今日自信のなかった人は鍛えてくるように。それじゃ一人目、素振り始め!」


俺は周りの様子を見る。筋の良い人が結構多い。俺と組んでる男の子は筋力が足りてないせいで振ってるんじゃなく遊ばれてる。


「よし、それじゃ二人目。始め!」


さて俺の番だ。さてここで深い思考の海に入ろう。わざと出来ない風を装って一般人として受けていくか・・・はたまた素振りだけはいっちょ前と見せるか・・・


出した答えは


「ふっ!」


玄人には見えないが素人にも見えない。そんな程度を目指すことにした。


そうして24回振り終えた所で


「君凄いね。剣道部には登録のなかった子だったって記憶してるけど」


「あ、ありがとうございます。ちょっとだけ鍛えてるんで素振りくらいなら何とか」


「へぇ、君なら剣道部主将も夢じゃないよ。一度入部考えてみて」


そう言って去っていく。その後も素振りを続けて


「それじゃ時間だね。今日はみんながどのくらい出来るか見させてもらったから次回からの内容もそれ次第で決めていくよ。それじゃ今日は終わりだ。お疲れ様」


そうして武道場を出ようとしたその時だった。


「グッ、あ゛がぁ・・・」


一人の男子生徒が苦しみだした。


「おい、どうした!大丈夫か!」


「い・・・息が・・・」


「息が出来ないのかい?マズいな・・・すぐに救急車を呼んできて!」


「あ、はい」


俺はわざと人の陰に隠れた。()()()()()()()()()()()()にいる為に。


そして小声で


「解」


その瞬間、男子生徒は呼吸を取り戻した。


「!!!こ、呼吸が・・・戻った。良かった」


俺は思わず口角を上げる。面白い。そうまでして俺の平穏な学生生活を世界が奪いたいってんなら・・・俺はそれに抗うだけだ。

























放課後。


香坂と合流し帰ってる途中。


「そう言えば、私も次の体育の授業からご一緒することになったんです」


「え?日和ちゃんも参加するって事?」


「はい」


「へぇー、こりゃ楽しくなるな。にしてもあの男子生徒大丈夫だったかな」


「まあ、後遺症もないらしいし大丈夫でしょ」


そんな話の最中、相楽から耳打ちで


「この後暇なら付いてきて」


無言で頷く。


詩歌には念話で伝える。頷いたのが確認できた。これで少し帰るのが遅くなるのは確定。後で母さんに連絡しよう。


とりあえずその前に整理しないといけない。間違いないのはあの呼吸困難は()()()によるもの。そしてそれをかける事が出来たのはあの人だけ。


だが分からない。俺を試すだけなら俺にかければ良い。しかし無関係な奴にかけた。いったいなぜ・・・


結局その謎に答えが出ることはこの日は無かった。

















皆と別れた後、土師の屋敷へ来ていた。


「桐生蒼矢、桜木詩歌の両名お連れしました」


「入れ」


ふすまを開けるとそこには土師耀厳が座っていた。


「呼びつけてしまってすまない」


「いや、構わない。それより呼んだ理由はこちらの申し出を断る為か?」


「そうではない。受諾するからこそ呼んだのだよ。しかし君もヤンチャだね。最初聞いた時は耳を疑ったよ。ヤクザと交戦?しかも友達一人の為に?アッハハハハ笑える」


「煽るために呼んだわけだな?やるぞ詩歌」


「え?ちょ!」


「あーごめん。まあそういうヤンチャさのお陰で伊藤さんは救われたんだ。誇っていいよ。まあそれは置いておいて、君には知っておいてもらわなきゃいけない事がある」


「なんだ?」


「星連会。いったいどんな組織なのか・・・をね」


「こっちも情報は仕入れてある。親に国内最大の極道組織、美濃連合を持つ武闘派。海外との取引もあり、芸能プロダクションも経営する実業能力も高い奴らだってのは知ってる」


「そうだね。でも海外の取引の内容までは知ってるかい?」


「いや」


「それを知らないと、敵の全貌は見えてこないよ。ラムール・ジュバ。この名前に聞き覚えは?」


「無いな」


「これはね、海外のマフィアの名前だ。ここから違法な色々を入手しているのが美濃連合。そしてそれを売り捌いているのが」


「星連会って訳か」


「そうなんだ。彼らが日本の顧客との窓口の役割を果たしていた。ラムール・ジュバが日本というマーケットを捨てるなら何も問題は無いが、捨てるとは考えにくくてね。この先君が彼らの魔の手に抗っていくというのなら・・・それも相手にすることを考えなきゃいけないんだ」


やっと合点がいった。神崎とかいうのが言ってたのはこれだったのか。確かに海外勢力となんて避けたいリスクナンバーワンだろうな。


それでも・・・


「ま、そいつらが俺を狙ってくるってんなら迎え撃てばいい。でももし、人質とか力のない奴を狙うようなクズなら・・・俺は殺しを厭わないことにする」


「相変わらず・・・15の子が醸し出していい殺気じゃないししていい目じゃないよ。でも、そこまでの覚悟か・・・良いよ。3日後にまたおいで。良いものを見せてあげるから」


「分かった。ありがとうな。俺に協力してくれて」


「良いよ。僕が出来ないことを君はやってくれる。なら、応援すべきってだけさ」


「それに、隣の詩歌ちゃん。その子も相当強い。今君の家を攻め落とすなら国一つ軽く落とせる戦力無いと無理かもね。それと、君の学校にどうやら虫も紛れ込んだようだ」


「虫・・・ね」


「もう見つけたって顔か。なら、僕はそちらでは動かないことにしよう。さて、遅くなってしまうし今日はお開きとしようか」


「そうだな。時間を作ってもらってありがとう」


そう言って踵を返す。


「気を付けてね。くれぐれも無茶はしないように。詩歌ちゃんも桐生くんの暴走を止めてあげてね?」


「人をなんだとおも」


「そうですね。い・つ・も暴走してるので私()で止めます」


「おい!?いつも?そんなにブレーキ効かない車みたいな事してないぜ?」


皆の視線が刺さる。まるで「何言ってんの?こいつ・・・」と語りかけるような目だった。

結局学校の内容だけで構成出来なかった・・・

あ、出てくる組織名とかは架空の物です。フィクションです。

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