90話:終幕
つい数刻前まで常識では推し量れないような光景が広がっていたが、今は打って変わって剣を手にした2つの勢力がまるで静謐な空気の中で睨みあいをしている。
1対4。どう考えても1が不利であり、速攻をしかけても勝てるだろうに動こうとしない。その光景で誰もが悟った。
「双剣の遊侠」がいかに畏怖の対象だったのかを。
それもそうだ。蒼矢はかつてこの2振りだけである母娘を守り抜くためだけに小国とは言え国軍と一人でぶつかり返り血を浴びながら生還したというエピソードを持つ。この出来事のせいで後にある国では入国しただけで国王が顔色を窺うという事件に繋がってしまうのだが。
剣聖に育てられた。この事実だけですら恐ろしいという物なのにそれに加えて、母娘の為に国に喧嘩を売る度胸という名の無鉄砲さも相まって付いた二つ名が、双剣だけでどんな巨悪も叩き潰す(なるべく殺さないようにはしていたが)という力ある悪に苦しむ弱者を助けるその姿を「双剣の遊侠」と呼ばれていた。
尚、本人は遊侠がなんとなく遊び人みたいな感じがするのであんまり呼んでほしくないと周囲には語っていたが。
「どうした?さっさと来いよ」
「簡単に言ってくれますね。桐生蒼矢を知っているからこそ手を出せないでいるのに」
「まあ、正しいとは思うけどさ」
「本当、ヤバすぎるよな。人類史上初めての領域に至った奴ってのは。まるで隙がない」
「でも膠着状態がいつまでも続くというのも疲れますし」
一瞬でリッタが背後に回る。
「仕掛けるとしましょうか!」
短刀で首を狙う。早いのだがそれに蒼矢が気付かないはずもなくキンッという音と共に弾かれる。
それを皮切りにハダルとベラが真正面と左から切り込む。リッタも背中を狙う。3方向からの攻撃だ、普通なら不可避なのだが・・・
「おいおい、手ががら空きじゃねえか」
ハダルとベラの剣を持つ手を切り落としにかかる。剣筋を見切っている事に気付いたリッタがすかさず狙い目を右肩に、隠してあったナイフを左肩にほぼゼロ距離から投げる。
「チッ、仕切り直しか」
ナイフを捌きその場から離脱する。次をどうするか考えていると右脇腹に変な感触を覚えた。正確には深くまで拳が入っていたのだ。
「グロニス!」
「こうでもしないとあんたには一発入れられねえよな!」
空中を蹴りより遠くへ飛ぶ。そうでもしなきゃ内臓が潰れていたからだ。
「ヒヤッとしました。手を落とされたら勝ち筋消えますもんね」
「まあ、マスターの前では再生してる時間が命取りだしな」
「結構深く入れたつもりだがどのくらいのダメージになってる事やら」
「予想ですがちっとは効いたぜみたいな事を言われるかもですね」
等と話していると蒼矢が歩いてくる。
「おーいててて。ひっさびさにもろに食らったわ。これは効いたな」
「・・・うーん、半分当たり半分外れですかね」
「なんのこと?ま、そこは置いといて、次はこっちの番だ」
腰を落とし構えを取る。
「!!あれは!!」
「皆構えろ。来るぞ!!」
「まさかあれを使う相手って認められるなんてな・・・光栄すぎるぜ」
「私も感動していますがそうも言ってられませんよ・・・来ます。伝説の154連撃!」
「さあ・・・耐えてみせろよ」
斬撃には9種類ある。その9種類を同時に出す技を前にアニメで見た事があったが蒼矢はかつてこう思った。
その斬撃ってどこまでなら連続で出せるんだろう
そうして研究をした結果、体の柔軟性を最大限活かし、次の技に繋げられる限界が双剣による154連撃だった。
そう、つまりは繰り出す速さも斬撃と斬撃の間隔が殆どない斬撃の嵐が154飛んでくる。4人だからなんとか受けきれると異世界でも屈指の実力者が思う技。その名は
「荒れ狂え、天御中主!」
音を置き去りにする剣と剣のぶつかり合い。見ている者には最早今聞こえている音が今繰り広げられている剣戟の音なのか分からないほどの速さで目で追えないほどの斬撃が発生している事しか分からない者が多くいた。
神リントヴルムですら驚くその速さを魔王ディールはニヤニヤしながら見ていた。
(この連撃を相手に出来るというだけで余ですら勝てるか不安だな。常人を遥かに超す感覚と剣技、自分を落ち着かせる胆力。まさしく強者の資質を全て高いレベルで身に着けてないと10連撃すら不可能であろう・・・しかし、この技には驚かされた。アメノミナカヌシ・・だったか?まさかそこへ繋げる等と誰が思うだろうな)
視線をリンに移す。
「リンよ」
「ん?」
「いつかあ奴が神をも脅かす存在になるやもしれんと思わんか?」
「神・・・ね。案外神を脅かすのは簡単なんだよね」
「そうか?」
「うん。神にとって生物からの信仰、認知こそ神力なんだよ。僕はたった一人の神だった。だからこんなに強い。でも、神があまりに多いこの国の神様ってのは僕とは比べ物にならない弱さだよ。僕が認めた人間なら脅威になる」
「なるほどな。つまり、ソウヤは遅かれ早かれそうなる運命だと言うのだな」
「・・・呼んじゃった以上は出来るだけ強くしたつもりさ。それでも人間だからね、限界は来ちゃう」
「余はな?お前がいけ好かない奴であったならソウヤの為に戦いを挑んでいたかもしれん。15の青年が追うには重すぎる運命だ」
「運命は決まっている。これからの苦しみも何もかも。でも、それに抗ってほしいから。いや、抗ってくれなきゃいけないから力を与えた。その集大成がこれなら・・・合格だよ」
ハッハッハと笑う。
「全く・・・これだから嫌いなのだ。期待など」
154連撃のうち152連撃までを凌いだ4人は最後の反撃への準備をしていた。
(後2連撃。これを耐えれば・・・勝ちだ!)
そして154連撃目。一際高いキンッという音と共に技が終わる。
もらったぁ!
4人がそう思った。そう叫びたかったがその声は遮られる。突如蒼矢を中心とした衝撃波が体を襲ったのだ。
「ガゥハッ!」
全員が呻き声をあげ遠い地面に打ち付けられる。154連撃を凌いで満身創痍の身体にはあまりに厳しい衝撃。もう動けなかった。
「いったい・・・なにがおきて・・・」
「さあ、終わりにしよう。万ては、無の彼方に」
詠唱が終わると同時に地面の至る所が割れ、マグマが流れ出す。同時に激しい地震を引き起こしていた。
「立てん・・・」
「最初のは世界を作り直す魔法だ。でも今回のは・・・ただ破壊するだけだよ」
人とは愚かだ。人とは不完全だ。だからこそ救おう。そう思いながらも本当に救えるのか。救う価値はあるのか。
無いと結論を出したときに何が必要になるのだろうか。そうして作った。世界を灰に変え、生きとし生ける町、人を焼き尽くす、埋める為の技を。本当の最終手段を。
みるみるうちに自分の周りにはマグマが迫っていた。ここで全員悟った。そして口にした。
「完敗です。我が主」
その言葉を待っていたかのようにリントヴルムは指を鳴らす。世界を終わらせる魔法をキャンセルしたのだ。
そしてこの瞬間、戦いは終わりを告げたのだった。




