89話:二つ名
「なに!?」
リッタが声をあげる。彼女の使った技は本来そう易々と破れるものでは無い。人間、いや生物の抱える闇を増幅させ廃人同然のようにする為の物。おおよそ150年前に世界最強と呼ばれた剣豪を止めるために使われ、実際に抜け出せず気づいた時には物言わぬただの肉へと変貌させた最凶。
その筈だったのに・・・
「おかしい・・・例えマスターと言えどこんな早く抜け出せるはずが・・・」
「あの闇をようは食ったって事だろ?どんな化け物だよ・・・」
「過去一番に気を引き締めていきましょう・・・・・・じゃないとやられます」
「これでも十分集中してたはずなのにな。少なくとも幻術とかの小細工はもう効かない。全くとんでもない人間だ」
そしてついに亀裂が走る。
「穿て、ゲイボルグ!」
「全てを壊せ!エクスプロード!」
「悠久の眠りを与えましょう、ゴルゴーン!」
「なら足止めしてやるか。バインド!」
確定の死を与える槍、万物を壊せる爆発魔法、石化させる魔眼。それに足の拘束と確実に相手を仕留めるために同時に放った。
しかし
「な!」
「消えた!?」
「嘘だろ・・・」
「・・・漸く最終局面というわけですか」
「ハダルが敬語使わないなんて久々に聞いたわ。いやー、驚いてもらえたようで結構結構。こっちも用意した甲斐があったな」
「一体何をしたらゲイボルグすら消せるんだ?」
「ん?単純だろ?俺はただ一つのことしかしてないぜ。そこにある物体を跡形もなく消し去れって魔法を使っただけだ」
「一体どれだけの魔力を使うことになると思ってるんですか」
「さあ?俺は無限に持ってるから考えたこともないよ。ま、使えるようになったのはさっきの事だ。あの闇の中で俺は捨てるという選択を躊躇いなくした。そのお陰かな。俺が使えなかったはずの根源消滅魔法を使えるようになったんだよ」
「成長なされたという事ですか?」
「ああ」
「味方だと頼もしい存在というのは敵方に回ると相当厄介って身に染みたぜ」
「ならもっとそう思わせてやるよ」
突然大地が隆起する。
「さて、遊んでくれよ?お前ら」
そして気づいた時には四方を巨大のな土の壁に包囲されていた。
見ていた人間は全員開いた口が塞がらないような状態だったがそんな巨大な土の壁は次の瞬間には破壊される。
だが、その土煙が晴れた時、蒼矢の本当の狙いを知ることになったのだ。
「・・・なんだあれは」
「まだこんな隠し玉を・・・」
「一人で大軍に匹敵、いや大軍を凌駕しているってのはこういう事か・・・」
「・・・まさに動く城ですね」
そこにはまさに城というに相応しい物があった。だが、石垣で出来ている訳ではない。全てが魔力なのだ。若干15歳の人間が制御できる量ではない魔力を自らの周りに纏わせそこに立っていた。
リントヴルムは戦いの後これを見てこう言った。
彼が本当に優しい子で良かったと。
今までも神たる者を驚かせてきた蒼矢だがまだまだ驚きを与えている。
魔王ディールは戦いの後こう言った。
戦争として戦わなくて良かったと。
実力者をも唸らせる攻守を兼ね備えた堅牢の城が聳え立っていた。
「ま、こんな大きさじゃ圧倒されるよな」
城の一番上で見下ろす蒼矢は呟く。
「ハダル。お前が俺に口うるさく言ってた事だろ?どんな状況でも冷静にいなさいって言ってたのにお前が忘れてどうするんだよ。どう見てもお前らなら軽くつける弱点があるじゃないか」
完璧な技などありはしない。だからこそこの大軍兵器とも呼べるこの技にもどうしてもカバーしきれない弱点があった。そこさえつけばいとも簡単に崩せるのだが・・・
「俺さ、勇者を辞める前の最後にお前らと戦いたいって言ったけどさ、結局は俺こんなに頑張ったんだぜってのを知ってほしいだけなんだよ。だから今嬉しくて仕方ねえ、そんだけ驚いてくれてな。まだ見せたい技もあるから・・・この程度で倒れんなよ?」
城の至る所に穴が開く。そこから光の矢が出てくる。
「これはさ?クソみたいな国を潰すってなった時に用意した技なんだ。犠牲は最小限になんて言っておきながらちゃんと多くの犠牲を出しちまう技は用意してたよ。何せ相手は人間だし抜かりなく色々やるべきだったから。結局使い道は無いまんま終わっちゃいそうだから最後に使ってみるぜ。
射貫け、全てを!」
瞬間、無数の光の矢、槍、剣。それぞれの形をした武器が射出される。
「光が飛んできてんな」
「ですね。それに一つ一つがそう簡単には壊せそうにないと」
「こんなの使われたら降参不可避だろ」
「ええ。普段なら降参待ったなしですが、この技の射程を見る限りは足元まで走ってしまうのが得策かと」
「そうと決まれば早速行動開始です!!」
4人は走り出す。まるで無謀に見えるその行為に相楽 真綾は思わず顔を背ける。
だが・・・
「当たってない?全部躱してるんだ・・・」
誰かが発したその言葉に顔を上げると踊るかのように走り抜ける姿があった。その時抱いた感情は憧れ。自分も能力を使う者としてこんな技を使える蒼矢に。これだけの身のこなしを軽々とする4人に対するものだろう。
すごい。それしか言葉を発せなかったのが証拠だ。魔王はその横顔を見てこう思った。
(良い目だ。そうだ見ろ、奪えこの技術を。どうしても女が弱くなりがちな社会で生きていくというのなら色々を学べ。君が強くなるためにも)
その目はまるで娘を思う父親のように。
「ハァ、ハァ、やっと当たらない場所かよ」
「文字通りのお膝元か」
刹那、真下にいる自分たちを視界に捉えた蒼矢と目が合う。
「??何故手を出してこない?」
「狙いにくいからではないでしょうか?」
「そんな単純なことの対策を忘れているとはとても思えないけどな・・・」
「・・・そうか。これが最大の弱点なのか。そういう事なら向こうの世界で使わないと決めた理由も納得ですね」
「ハダル?」
「恐らくですがこの城がマスター自身の魔力なのであれば、これに呪毒をかけられると大打撃のはずです。つまり」
大規模な爆発魔法の術式をセットした。
「それじゃ離れますよ!」
「え?うん」
そのまま距離を取って爆発させると
「やっぱり収束させますよね」
さっきまでそこにいたはずの城は消えた。代わりにしたり顔のハダルが出来上がったのだが
「そりゃお前、あんなの巻き込まれたらちょっとどころじゃなく痛いしな」
「後ろか!」
「ま、思ってた通りだ。こんな技じゃすぐ破られるよな。やっぱり魔法戦闘となるとお前ら強いよな」
「ハンッ、当たり前だ。元々魔法専門だったんでね」
「でもよ・・・お前ら忘れてんじゃねえか?俺の十八番を」
「十八番?」
「そう。俺非公認の二つ名をまさか忘れたわけじゃないよな?」
その言葉に姉の沙羅がいち早く反応した。
「二つ名って・・・何?・・・中二病?」
「姉君よ・・・ちゅうにびょう?とはなんだ?」
「魔王さんは知らないのか。思春期特有のいったい言動の事よ」
「その一つとなってしまっていると。我らの世界では二つ名は一種のステータス。広く知られた二つ名の所有者はその道のスペシャリストの証なのだ」
「へぇー、で?蒼矢の二つ名って?」
息を深く吸い込んで言い放つ。
「双剣の遊侠。これがソウヤの広く知られた二つ名だ」
蒼矢を見ると闇を体現するような禍々しい一振りとその闇を覆うような輝きを持つ一振り。相反する二つの刀がその手には握られていた。
次から激しい剣戟です。
尚、蒼矢君が再び疲れるのは夏休み明けとなります。




