9話:帰還した勇者は追求を受ける
ちょっと長めです
どうも、謝罪行脚に朝から精を出す社畜の鑑こと桐生蒼矢です。
今日はすっぽかすなと言われ、とりあえず許してもらえたようなので謝罪行脚から解放されてリビングへ向かう。
「おはよう。母さん。あれ?姉貴朝練は?」
「おはよう蒼矢。具合は大丈夫?」
「蒼矢、おはよう。朝練は今日行かない事にしたの。それより、昨日はごめんね。疲れているのにあんな事頼んじゃって。今日からは気を付けるわ」
「おかげさまで体調はバッチリだが・・・姉貴、どうした?」
何でだろう。すごくしおらしくなっていて、可愛い生物と化している。あれ?リンの奴姉貴に何かしたのか?控え目に言ってよくやってくれた。ちなみにシスコンでは無いのでそこはきっぱり言っとく。
「ちょっとね、私もやりすぎたなーって反省したの。蒼矢をこき使いすぎたって」
「自覚あったんかい!」
「姉妹仲睦まじい様子なのは良いけれど、遅刻しない程度にねー」
なんか朝から調子が狂ったけど、俺にとっては嬉しい変化だ。朝食も食べ終わったしそろそろ行くか。
「そんじゃ、いってきまーす。なんか帰りに買ってくるものとかってある?」
「そうねー、豆腐だけお願い出来る?」
「おけ。任せとけ」
家を出て歩き出す。昨日は歩いて帰ったが行きは電車を使っていくか。朝から疲れちゃうしね。
「しかし、俺ってどう生きていけばいいんだろう。俺って何がやりたいんだろうな」
高1が考えるには早い事かもしれないけどどうしても気になってしまう。7年生きてきたとはいえ、ほとんどがコミュニケーションを取りながら必要に応じて戦ってきただけだ。向こうでは色んな争いを解決してきた。でも、この世界では魔法が無いから解決するにも段階をもっと踏まなきゃならないだろう。耕作地を作る時には全部魔法を使ってきた。勇者の力って考えれば考える程思うようにいかない力なんだな。
「まあ、今日を生きる事を考えなきゃ今日こそは泣かないようにしないと。てか、色んな人に見られてるじゃん。恥ずいな」
と、独り言を呟きながら駅に着くと
「あら?そこにいるのは桐生君じゃない。おはよう。最寄りこの駅だったのね」
「おはよう東雲。お前もこの時間とは思わなかったわ。そんじゃまた」
「別に一緒に行けば良いじゃない。行き先は同じでしょ」
うーん、詰みですね。諦めるか。
「そうだな。そんじゃ行くか」
電車は完全に密という訳ではないが、隙間は無いと言えるだろう。異世界で女の子たちと関わってきた俺でなければ東雲の顔が自分の胸にあるなんてシチュには卒倒してしまうだろう。
「東雲。もう少しだけ我慢してくれ」
「別に大丈夫よ構わないわ。それより中間テストが近いけど桐生君は大丈夫なの?」
「学年3位狙う気でいるからな。大丈夫と言わざるを得ない」
「下から3番目だったら目もあてられないわね」
「そんときゃ退学するわ」
こんなやり取りをしていると駅に到着した。
「そんじゃ降りるぞ」
周りの中年たちの嫉妬と羨望の眼差しからやっと解放される。だがな、おじさん達よ、こいつはそんな狙う程良い奴じゃないぜ?なんて言葉は心の中に留めとく。
駅舎から出て歩き出すと真剣な眼差しで東雲が声をかけた。
「桐生君」
「はい?」
「昨日の体育はありがとう。お陰様で変な男子の目に怯えなくて済むわ」
「変なって、一応クラスメイトだぞ?」
「だって彼ら肉食獣みたいな目をしてたんだもの。それと一つ聞かせてほしいのだけれど」
「ん?なんだ?」
「昨日の帰り、あなたが凄い速さで走って行くのを見たわ。どうやら中学生の女の子と帰っていたようだけれど、一体何があったの?」
「チッ、見てたのかよ。その中学生の後輩が一緒にスタバ行こうってしつこくて逃げたんだよ」
ほとんど事実では無いが、傍から見ればこれで辻褄はあうだろう。本当の事なんて話せない。
「そう。それを真実だと主張するなら軽蔑するわ」
「なんで?」
「あなたは知らないでしょうけど彼女、泣いてたのよ。彼女は泣きながらこう言っていたの。私、先輩に嫌われちゃった。先輩傷つけちゃったって。他に何かあったんじゃないの?
「え?待ってくれ。泣いてた?俺をいじれなくなったからか?よく分からないけどどういう事だ?」
「詳しくは知らないわ。ずっとごめんなさいと言っていた。本当に何も知らないのね。で、どう責任取るつもり?」
「責任?本当に泣いてたんなら謝るけどよ、インスタ映えだって言ってたし、俺がいれば強請れるとでも思ったんじゃないのか?実際何度断っても頑なに誘ってきたけど、俺にそこまでしてやる義理は無いはずだ」
違う。あいつが悪いんじゃない。俺が弱いせいなんだ。でもそんな事言えねえんだよ。
「そんな言い方、、、ええ、そう。こうして話しているのも嫌になってくるわね。良い?女の子が男子をカフェに誘う。しかも2人きりで先輩を。これがどれだけ勇気のいる事か分かってる?その様子だとあなた、彼女に謝るって考えすらないようね。これから頼み事なんてあなたにしないわ。さようなら。もう金輪際関わらないで」
そのまま背を向けて急ぎ足で遠ざかっていく。俺が悪い、そんな事は分かってる。けど、俺が逃げた理由なんて話したところで誰も信じたりなどはしないだろう。結局のところリンは英雄だなんだと言ってくれはしたがそれはあの世界だからだ。こっちではゴミなんだよ。分かっていた事実を再認識させられた。今でも香坂はただ単に金づる目的で誘ったとしか思っていない。俺、何の為に生きてるんだろうか。人を傷つけるしか出来ないならいっそ
「桐生・・・先輩?」
呼ぶ声がした
「香坂・・・か?」
「はい。香坂 日和です。あの!昨日はごめんなさい。先輩にあんなに拒絶されるとは思ってなくて。先輩?顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「それは大丈夫だ。そんな事より、昨日はすまなかった」
「あ、いえ。先輩が謝る必要は無いですよ。でも、謝ってもらえるならなんで昨日取り乱したのか教えてほしいです」
ゴミみたいな態度を取ったこんな俺に優しく声をかけてくれる人っているんだな。東雲の言う通り、俺は糾弾されるべきことをした。この優しさが本当にありがたい。
「本当にごめん、それは言えない。でも、香坂が原因では無いんだ。そこは信じてくれ」
「本当に、、、優しいウソをつくんですね。先輩は」
「え?」
「私があんな行動を取らなければ普段からあんなに楽しそうに過ごしている先輩が泣いてしまう程取り乱すなんて無いって分かってます。傷つけないようにしてくれているんでしょ?」
「それは・・・」
「私、決めました。先輩が話せないって言った内容を話してもらえるような女の子になってみせます。ていうか、なります。だから、これからも色々お話しましょう。今は時間的に厳しいですけどね。そうですね・・・場所はスタバでどうです?」
「フフフ、はっはっは。ぶっとばすぞ」
「やっと調子戻ってきましたね。ええ、先輩はそうやって笑っているのが一番です。それじゃ、私は学校に向かいますので」
「うん。朝からすまん。そしてありがとうな」
なんとか仲直りは出来たのかな。でも、走れば間に合うけど正直学校行きたくないしどうするか。
「そうだ、山、登ろう」
俺はすぐにスマホで調べ始めた。
「みんなおはよう。早速だけど出席取るぞ。いないのは・・・桐生か。なんだ珍しいな。連絡も来てないし寝坊か?」
「先生!本当に連絡来てないんですか!?」
「東雲?いきなりどうした。本当に来てはいないが」
「すみません。携帯の使用をしますので怒らないでください」
「おいおい、どうしたんだ」
「私は、朝同じ電車で最寄り迄一緒に来たんです。なので来ていないのはおかしいんです」
担任は血相を変えて教室を飛び出した




