87話:それはまるで神の遊戯
戦いの火蓋が切られた瞬間からその戦いは世界の一つや二つ壊せるであろうと思えるような激しさだった。
「何が何だか分からないよ・・・」
「蒼矢って・・・こんなに強かったの?」
「やろうと思えば世界終わらせられるんじゃ・・・」
皆同時にそれに付いていけている4人にも畏怖と敬意を抱いていた。九尾、地球では相当の実力者に値する詩歌ですらこれがまだ序の口という事しか分かっていない程、高次元の戦いを繰り広げている。
魔王と龍王はというと
「流石だの・・・無尽蔵の魔力を持つあやつの戦いは。魔王よ、お主、よくもソウと互角に渡り合えていた物だな。我は・・・勝てる気がせぬよ」
「そう弱気になるなバハムート。余とて、ソウヤが優しき人間であることに今安堵を覚えているのだからな」
「そうさな。ソウは地位を持った悪には容赦をしないタイプだからの。全く、普段は冷静なくせに変な時だけ熱くなって変わった奴だったわい」
「ハハハ、それはそうと・・・ハダルの奴、相当強くなっておるな。あれでまだ200歳程か・・・余を超す程の才覚の持ち主だったという訳か」
「非常にバランスの取れた4人だ。魔法を得意とするダークエルフにオールラウンダーの鬼神族、幻術のエキスパートが多いサキュバス。グロニスは確かゴルゴーンとヨルムンガンドの子だったかな。近接が得意だったと覚えておる。この4人だからこそソウとやり合えていると見るべきだ」
「あの・・・」
「ん?どうした人の子よ」
「魔王にバハムートってあなたたちは・・・?」
「そうか・・・主らは我らの事を知らぬか。では名乗らねばな。我はバハムート。龍王にしてソウヤの盟友である」
「余はディール。魔王だ」
「え?・・・え?」
「無理もない。元の世界にはそんな存在いないとソウヤから聞いておる。ここにいるという事は知っているのだろう?ソウヤの事は」
「まあ、はい」
「聞いているのなら良い。一つだけ言っておこう。この戦いをきちんと目に焼き付けておけ?こんな戦いは・・・もう見れないかもしれないのだからな」
「・・・聞かせてもらえませんか?蒼矢の事。母としてあの子がどんな風に生きていたのかを知りたいんです」
「ふむ?ソウヤから話は聞いておるのではないか?」
「勇者だったと聞いてはいます。だからこそ敵方であったはずのあなたから見た息子を・・・知りたいんです」
「・・・良かろう。だがしかし、一つだけ間違いがある」
「え?」
「話すと長くなる。前提としてこれだけは知っておいてくれソウヤの母君よ。ソウヤと我らはな」
目線を戦いに向け直すとまるで何かを思い出すかのように目を細めて言った。
「敵対などしていなかった。彼が憎み、敵視していたのは魔ではなく悪だったのだからな」
戦いの展開は終始駆け引きも何も無い力と力のぶつかり合い。
蒼矢が氷漬けにしようと超級氷結魔法を放てば炎を纏った者に阻まれその隙に他の者がしかける。
だがそれを易々と許す蒼矢ではない。もう片方の手でそれを阻みながら目から幻術を放ちこれもまた相殺する。
まさに互角の戦い。無限の魔力を持ち、体の部位ごとに魔法を発動させられるというまさに一騎当千の兵力である蒼矢と蒼矢のスタイルを知り尽くす4人。常に戦況が動いているかのような速さで移動しているから実力者である神、魔王、龍王しか膠着状態だとは気が付けないような状態だった。
強者とは大抵が強者と戦う事を求める。魔族として生を受けた4人。普段は温厚なリッタを始めとしてこの5人は全員笑っている。
全員が分かっている。より凶悪で邪悪な笑み・・・それに変わった時自分達の望む戦いが出来ると。蒼矢が欲した勇者としての力を存分に振るう戦いになると。
あくまでも彼らにとっては準備運動に過ぎないのだ。その本気のぶつかり合いは例えるならギリシア神話のティタノマキア、或いはメギドの最終戦争、アルマゲドンとも称して良いと推測される。何故ならばまだ準備運動のこの段階で空間は一部崩壊を始めていて、リントヴルムの作り出した自動修復機能のあるこの空間だから、この決闘のためだけに作られた空間だから顕著になっていないだけなのだ。それが更に激化するとなれば・・・表現としては妥当であろう。
彼らは声をあげてはいない。声を出す事に割くキャパシティがあるなら少しでも戦いたいからだ。響くは衝撃による音とそれにより抉られる大地の音。
だが突如として戦況は変わった。
「秘術 千本桜 終幕!!」
蒼矢が突如として術名の詠唱をした。幻術のエキスパートを以てしても既に遅し。蒼矢の仕掛ける幻術に嵌まった。
「くっ・・・」
「なんという幻術の精度・・・身動き一つ取れないとは」
「これが・・・マスターの秘術・・・」
「無限の魔力持ちってのは凄いな。こんな大技を軽く出して次の手を打とうとするなんて」
今4人には大きな桜の木に捕まっているような錯覚を受けている。幻術の精度とはリアリティ、相手の意識をその幻術に如何に留められるか。この2つで決まる。
夢と同じなのだ。心地の良い夢ならいつまでも見ていたいと思ってしまうだろう。蒼矢の作り出すこの幻術はそれを極めた一つの終着点。
幻術を幻術だと認識させたままその世界に閉じ込める。つまり、幻術と認識しながらもここから出たくないと思わせる心地の良い空間でいつまでも自分の支配下に置くというとても質の悪い技だ。
加えて幻の大桜はその幹のように力強く対象を縛り上げる。幻術を得意とするリッタですら解術に苦労していた。
そんな様子を見ていた蒼矢は笑って言う。
「凄いなやっぱ。まだ抗おうと思うんだな。ま、幻だからなのかもしれないが・・・今度は本物の木で縛ってやるよ」
それを聞いていた4人は一斉に大規模魔法で自らに痛みを与え抜け出す。焦った理由はただ一つ。蒼矢の放つ魔力が急激に増えたからだ。このまま捕らわれていては負けると本能的に察したのだろう。
だがその時には発動を終えていた。
「さあ、この天変地異を切り抜けてみせろ!!」
蒼矢がイメージしたのは神話に出てくる日本の始まり。それから創世記に記述のある天地創造。もしも世界を自分が作るとしたらどうするだろうかと真剣に考えたことがある。望むのは緑が生い茂り、皆が穏やかな世界。だが、それを何秒の単位で実現しようとなると昼夜は激しく入れ替わり、大地も激しく変動し、木々は割れた大地の間からひっきりなしに生える。そんなまるで世界が終わるかのようなそれを実現しようとしているのだ。
魔王にすらこんな馬鹿げた芸当は出来ない。否、神でもなければ出来ないし、上位に位置付けられる神でなければ命と引き換えの大技だ。それ以前に出来ないかもしれない。
そして天地の開闢は始まる。先程まで明るかったかと思えば夜になりまたすぐに明るくなる。
動いたのは神、魔王、龍王の三者。設けられたこの観客席を破壊されないように全力を出すのだ。
「くっ!」
「なんたる力・・・人の身には余るぞ!!」
「神やってる僕でも・・・こんなにキツイなんて・・・これは本気でヤバいかも・・・」
詩歌も動くが
「無茶はよせ九尾の女子!そなたの体が弾けるぞ!」
「それでもなんとかしなきゃ!」
天変地異を起こすほどのエネルギーの奔流。九尾と言えどその力はあまりにも矮小だった。
「ぐぁっ!」
「無茶はしちゃダメ!体中の魔力回路が焼き切れちゃうから!そしたら死んじゃうんだよ?」
「みんなだって無茶してるでしょ!」
私だって出来るそう言いたかった。九尾としての力はほとんどが蒼矢のお陰で開花させた力。そして好きな人から貰った力。ここで自分の成長を見せたいと思うのは自然の摂理だろう。
だが、届くはずはない。詩歌は生物としての上位に位置する存在。それに比べて蒼矢は生物など軽く超越する力の持ち主。そう、格が違うのだ。
他の人間には何が起こっているのか分かっていない者が大勢いる。そんな中で香坂日和はボソッと呟いた。
「詩歌先輩って・・・狐だったんだ」




