82話:事は深夜に
「土御門・・・是孝・・・ですか」
「はい」
「誰でしたっけ?」
2人の刑事が同時にズッコケる。この人達相性良いな。
「本当に覚えてないんですか?」
「いや、あの憎たらしいクソジジイは忘れませんよ」
「彼の身柄を追っていますがまだ発見には至ってないのでご注意をという事でこの度訪問しました」
「わざわざありがとうございます。しかし、なんでこんな丁寧に?」
「前に連行した際に佐川という刑事が担当したんですが、彼からどうせなら彼には彼なりに頑張ってもらえばいいと聞きまして」
「なるほど」
つまりは警察を無視して調べて良いよと。そして今度こそ自分達でしょっ引くつもりか。
「お話を聞かせていただき有難うございました。言われた通り気を付けたいと思います」
「うむ、くれぐれも気を付けてな」
そうして去っていく。
扉を閉め鍵を閉め一息つくと母さんと姉貴、それから詩歌が心配そうに声をかけてきた。
「ねえ、あなた何か危ない事してるんじゃない?」
「ん?単純に情報提供を受けてただけだよ」
「だって・・・注意とか聞こえたし・・・死なないよね?」
「何事も無理はダメだよ?」
「へ?そう簡単にはくたばらねえよ。そんなくたばるような事に首は突っ込んでないしくたばるつもりもサラサラ無い」
「そうじゃなくて・・・」
「蒼矢、あなたは大切な息子、沙羅からすれば弟なの。詩歌ちゃんから見ても姉弟のような存在。あなたに何かあったら私達は・・・」
「そっか、心配してくれてありがとう。別に危険な事をするつもりは無いよ。信じてほしい」
「う、うん」
「姉貴もおっけ?」
「うん・・・」
「ま、人生なんていつ終わっても仕方ないんだしリスクは犯さないよ」
そう言ってネトゲをしに行った。
蒼矢が自室に戻ってから三人は暗い顔で向かい合う。
「ねえお母さん」
「うん」
「なんであんな事言えるんだろう」
「私が聞きたいわ。いつ死んでもおかしくないなんて頭では理解しててもそんなさも当たり前のようには言えない」
「あの目は既に知っているかのように見えました。蒼矢は一体何を知っているんでしょう」
詩歌は蒼矢の発言の根底を知っている。異世界の事を蒼矢から聞いているからだ。だが、話を合わせる事しか出来ない。それが蒼矢との約束だから。
(バレる訳にはいかない。蒼矢が喋るまでは。だからここは話を合わせるしか)
そう思っていると
「あんたは何か知ってるんじゃないの?」
「え?」
「あんたはさ、まるで蒼矢がどうしてこんな事になってるのか知ってるとしか思えないのよ。知ってるなら教えてくれない?」
「教えるも何も私も知らなくて・・・」
苦虫を潰したような顔をして
「本当イラつく。あいつはあいつで姉を頼らないで自分だけでどうにかするし、頼れないと思われてる自分にも腹が立つ。あいつはまだ15,6のガキよ!ママの支えとか、お姉ちゃんに甘えて当然なのに・・・ちゃんと謝ったのにまだダメなのかな」
「もしかしてあの時の?」
「うん。謝ってなかったから謝ったんだけど・・・」
「沙羅が遅すぎたのはあるけどそれだけじゃない気がするわ。ちょっとお父さんに電話してみる。お父さんなら何か知ってるかも」
蒼矢はのんきにゲームの素材を集めていたが、家族は不安を募らせていた。
それから少し経った頃・・・某廃ビルにて
「ふむ・・・神林が」
「どうやら貴方様の事を」
「フン、こうも口が軽いとは思わなかったがこの拠点の場所を教えてなくて正解だったな」
「左様でございますね。ところで、あの不良を駒にすることは叶いませんでしたが次は何をなさるおつもりで?」
「目的はあのクソガキを殺す事。正攻法では敵わんからな。次は家族でも人質に取るか」
「具体的にはどのように?」
「それを考えるのがお前なんだが・・・奴はあんな初対面の男でも助けてしまう底なしの善人。ともなれば情を揺さぶるのが定石。まずは家族構成を洗い出せ。最も奴が守りたいと思うであろう者を攫うぞ」
「御意」
そう言って去っていく。ここは是孝の拠点にしている廃ビル。彼の補佐を務めるこの女は心中でこう思っていた。
(あの不良を駒にした所で桐生蒼矢に勝てる筈は無い。なのにこれだけの貴重な資金を使ってしまった。あの人は何を考えている?戦略担当は私。でも、あの人の考えが見えてこないからどうにも出来ない・・・まあ、今は桐生家を調べる事としましょうか)
須崎 城聖。彼を是孝が駒にしようとした理由。それは潜在的な能力者としての実力を買っての事である。是孝だけが気付いていたその素質。それは呪殺。妹をこれだけ思える人間で能力適性も高いとなればかける呪いの効果は絶大。それを対桐生蒼矢の兵器にするつもりだったのだ。呪いとは思いの強い人間ほどより強力にかけられる代物なのだ。
問題なのはその潜在適性をもってしても蒼矢には効かない事。そして
「桐生蒼矢が本当に彼を助けてしまったのなら我々を追跡する事は自明。それまでになんとしても弱みを握らなければ」
負ける。そう考えた彼女はすぐさま仕事に取り掛かるのだった。
時刻はもう夕方。所変わって蒼矢の通う学校の屋上。コンビニに行ってくると嘘を付き家から出てやってきた。
「よし、そんじゃ始めるか」
相当な集中力を要求されるため一人で行う必要のある魔法。この魔法を使う条件は広く見まわせる高い場所であり、かつ万物の声が入ってくる場所。比較的開けていて街を一望出来る学校の屋上はとても適しているのだ。
異世界ではこの魔法は毛嫌いされる。どこから魔物が牙を剥くか分からず、そんな高い所など格好の的にもなりかねないからだ。
ただの探査魔法。失くした物がどこにあるのか。誘拐された家族がどこにいるのか。そう言う用途に使えるこの魔法で是孝の場所を探り当てる腹積もりなのだ。
「この町にいないなら今は放っておいても良いが、いるならいつでも奇襲出来るようにしないとな」
そして発動する。その瞬間に聞こえてくる。
今日の夕飯は?あのクソ上司、早く消えろよ。さて、仕事も一段落したしエッチなビデオでも見て残業代稼ぐかな。あの人は今日遅くなるからまだ肌を重ねましょう。などの今町にあるあらゆる声。それが聞こえてくる。
笑いそうだった。不倫してるわ、仕事中に大人のビデオ見てる人はいるわ。本当人間って飽きないなと思っていた。そんな中で気になる声を見つけた。
「姉ならば比較的攫いやすいかと」
不穏な響き。その声の発信元を辿る。
「あのクソガキの姉か?」
「はい。姉弟仲は悪くないようですので人質になるかと」
「ほう、良いではないか。すぐに詰めようか」
魔法を終了し歩き出す。向かう先は
「見つけたぞ、是孝!」
その日の深夜1時30分頃・・・
沙羅は寝ていた。沙羅の部屋の窓から室内を覗く3人の人影。
「行くぞ」
「はい」
「了解です」
主の命令で攫おうとしているのだった。
突入しようとした瞬間
「そこまでだ。お前たち」
一斉にライトが点灯する。
「な?警察?」
「馬鹿な!」
「一体いつの間に?」
「不法侵入で逮捕する。大人しく降りてこい!」
こんなやり取りをしていると
「なにようるさいわねぇ」
沙羅が起きてしまった。このままでは攫えない。そう考えた3人は逃げようとするも
「逃がしませんよ」
「何奴!?」
先回りして通せんぼをしていた詩歌が立ち塞がる。
「蒼矢から3人組が来たら止めてと頼まれてるの。お姉さんを攫おうとしたのは分かってるわ。大人しく捕まる事ね」
「ふん、女一人でどうにか出来ると?」
「侮るな。馬鹿者」
「え?隊長?」
「・・・実力者とお見受けする。一切の手加減は出来ぬぞ?」
「する気も無い癖に。安心して。師匠の為にも死なないわ。誰一人逃がさない」
詩歌の戦いが幕を開けるのだった。
その頃の蒼矢は・・・
「・・・行かせた者達からの連絡は?」
「一向にないままです」
「クソ、あの無能共が」
「随分ひどい言い方じゃないか。こんな廃ビルに好き好んで住み着いてる雑魚の発言とは思えねえな」
「誰だ!?」
護衛も含めて全員が声の方へ意識を向ける。暗がりから現れたのは
「な!・・・お、お前は」
「ヒヒヒ、会いたかったんだろ?熱烈なアプローチしてもらって悪いがあんたとハネムーンなんてしてやるつもりは無いよ。土御門是孝さんよ」
「何故、何故お前がここにいる!?誰か口を滑らせたのか?」
「見つけただけさ。それより、うちの姉貴によくもまあ手を出そうとしてくれたな。この落とし前きっちり付けさせてもらうぜ?」
単身で敵のアジトに乗り込んでいた。
今思うとこいつの体力半端ねえな・・・




