76話:因縁に決着を
「ねえねえ」
「ん?」
「沙羅元気ないけど・・・何があったの?」
「ああ・・・言うなれば・・・・・・・・俺が事実を突きつけすぎたらああなったって感じだ。まあ時間が経てば元に戻るだろうよ」
「そ、そうね。それじゃそろそろこの部屋を出るから準備よろしくね」
母さんは姉貴の異変に気付いたようだが本当の事は言えない。とりあえずその場しのぎを言っておいた。俺はとんでもないろくでなしだ。でもそんなろくでなしな部分を俺は嫌っちゃいない。この側面があるから俺は7年も戦い続けられたのだから。
トイレに行った際に詩歌にも尋ねられて何があったかを教えた。勿論怒られた。
「な!?そんなひどい事言わなくたって。もっとやり方あったと思うわ」
「すまん。それは俺も思うさ。それでも・・・あの姉貴にはイラついたんだよ。自分が原因で開いた傷を更に抉るような事しだすから。それに男らしくとか言ってくるし」
「そうだとしても酷いわよ!蒼矢は言わないわけ?」
「転移前は言ってた。でも、危機を前にしたら男女なんて関係ない事を知った。だから帰ってきてからは一切言ってない」
「そう・・・なんだ。聞かせて?その傷って何?」
「まあ簡単に言うと」
そして俺は説明する。告白を嘲笑われ、姉からも咎められたことを。
「辛かったね・・・確かにそれは傷になると思う。でも、それが傷つけて良い理由にはならないよ。いらない報復をする今の蒼矢は好きじゃない。いつでも優しくいてほしいとか誠実でいてなんていうつもりはないよ。それでも・・・これは酷いと思う」
「ああ、詩歌ならそう言ってくれると思った」
「??」
「本当にいけない事は詩歌が止めてくれる。だから俺はいくらでも道を踏み外せるよ」
「・・・蒼矢、それを格好いいなんて思ってるならそれはダメだよ。人を簡単に傷つけたらダメ。それに大切なお姉さんなんだからもっと大事にして」
「カッコよくなんて無いさ。お前は甘やかしてくれないんだな」
「私は蒼矢の強さを知ってる。私ね、あなたが本当に弱った時に支える存在になりたい。言ってたよね?師匠とか仲間がいたからやってこれたって。それを今度はあなたがする番よ」
「酷い目にかつて合わされたとしても?俺には助ける義理が無いとしても?」
「私は勇ましい蒼矢が見たいの。傷ついて傷つけた。ならその傷を癒そう?いつまでも囚われてはいけないわ。過去とは決着を付けないと。折角その頃の自分に誇れる事をしたのにそれのせいで台無しになっちゃってる」
「そうだな。そんじゃどうするか考えるか」
俺も過ちを犯した。だから強くは言えないが一度も謝ってもいない相手に譲歩はしない。だからまずは
お前も咎人だと認識させよう。
母さんがフロントで少しお取り込みになりそうだったからその間に即興で考えた方法で両成敗に持って行こうと思う。
「姉貴」
「・・・なに」
「さっきはごめんなさい。強く言い過ぎた」
「・・・・・・遅いわよ」
「・・・そうか?」
「そうよ!どれだけ私が傷ついたと思ってんの?」
「謝罪を一度もしてないお前がそれを言う資格は無い。傷は埋めたり接合して修復する事でしか治らないんだよ。お前はそれをしたか?」
「あ・・・」
「俺がこれだけの期間根に持ってた理由はまさしくそれだ。時間と共に風化するなんて生易しい物なら俺はここまで壊れちゃいない。あの女はもう近くにいない、だからそっちは仕方ないさ。でも、お前は、姉貴は近くにいる存在だ。本来頼って良いお姉ちゃんだったのに・・・それから突き放されて挙句の果てに勝手に忘れてお終いなんて許せなかったんだよ。だから事あるごとにそれを出しちまう。俺もあの胸糞悪い過去とはおさらばしたいんだ」
「あ・・・あ、あ!そうだ・・・私、一度もごめん言ってないんだっけ。てっきりもう終わった事だと思ってた。蒼矢、ごめんなさい。あの時あんな事を言ってごめんなさい。あなたを庇わなくてごめんなさい」
「こっちも悪かった」
「そうだよね・・・こんな嫌な人に打ち明けられる訳無いか・・・当たり前だよね。お姉ちゃん馬鹿だった。優しかったからそれに甘えてた。弟がしっかりしてないと姉でいられないなんてなんか不甲斐ないな。頼ってもらえないのは当然ね」
「・・・・」
「ねえ、蒼矢。私が姉としてもっと成長したら、蒼矢にとって信頼出来る人になったら・・・蒼矢の事を教えてくれますか?」
「ああ。約束する」
「そっか」
そう言うと涙を拭って笑って言った。
「お姉ちゃん、頑張るから!」
「やっぱり恋とかって面倒なんだね~。ローリエもそう思わない?」
「リン、あなたという人は・・・その恋が無いと世界が立ち行かなくなるんですからそんな事言わないでください」
「否定はしないんだね。にしても、蒼矢君を嘲笑って告白を踏み躙った子か。少し調べてみるかなっと」
「本当にお気に入りなのね。私も気に入っているけど」
「蒼矢君には幸せになってほしいからね。不穏因子はチェック必須項目だよ」
と言って目の色を変える。
アカシック・オブザーブ
これはリンが使える技の一つ。その能力は任意の世界の未来から過去に至るまで全てを見通すという物。ラプラスの悪魔に至る事の出来る最難関の技。ちなみにだが、蒼矢も14年程みっちり練習すれば使えるようにはなるが人間が持つのは危険すぎて神が人間に存在すら教えていない技である。
「ふむふむ。ふむ・・・ん~~?これは・・・」
「どうしたの?」
「ナンテコッタイサイアクダー」
「なぜカタコトに?」
「蒼矢君の高校にその子転入するらしいんだよ。夏休み?だっけ。それが終わってから」
「それは・・・なんと災難な」
「伝えたいけどこんな事教えたら学校行かなくなっちゃうから教えられないけど、でもどうにか回避はしてほしいし・・・どうしよう~~~」
「そうですね、どうしまし」
「どうしよっかねってどったの?」
「・・・これ・・・その事象より彼の精神が崩壊しかねない事態では?」
「ん?どれどれ」
覗き込んだリンはさっきまでのおちゃらけた雰囲気から一転。真剣な表情になる。
「これが・・・彼の運命だとでも言うのか?」
「そう映し出されているわね。これは過酷ね」
「・・・すぐに準備しよう」
「な、何を?」
その声に振り返って答える。
「蒼矢君がこっちに定住出来るようにだ」
蒼矢が朝風呂から戻った頃。大江山では・・・
「お帰り茨木。温泉はどうだった?」
「やっぱり快適だよ。しっかしショックなものだな。まさか女だとバレなかったとは。ああいう接し方が男子には良いって聞いたんだけど」
「ちなみにお風呂の中での蒼矢君はどうだったんだい?」
「おじさんだった」
「ふーん、おじさ・・・おじさん??」
「おう。いきなり喧噪が云々とか言いだした時はこいつ本当に高1か?って思ったし」
「ハッハッハ、やっぱり話題性に事欠かないね。しかし、誰も思わないだろうな。本来陽の光が得意じゃない鬼がまさか暢気に温泉入ってるなんて」
「ま、だろうよ。そんじゃ今日も一日頑張りますか」
「だね」
こうして今日も大江山では営みが始まるのだった。




