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75話:亀裂

結構暗いです。そろそろタイトルを回収します。

朝早く目が覚めて朝風呂へ行く。流石に人は少ないだろうと思ったら1人だけいた。独り占め出来ると思ったがそう上手くはいかないようだ。


昨日は色々あったしゆっくり浸かって頭を整理しよう。なんて考えていたら


「お兄さん朝風呂好きなんですか?」


声をかけられる。その声は高くて煙で良く見えないが背丈と顔次第では女の子と思えるような声だった。とても綺麗な声だ。


「好きですね。喧噪から離れられるので」


「あはは。なんか年寄り臭い事言うんですね」


この人遠慮無さすぎる。この人まさか知り合いか?


「自分も朝風呂好きなんです。この為に泊まりに来ていると言っても過言ではないくらい」


「観光目的ではなく温泉目的なんですね」


「ええ。正直な所、どんなに観光名所と言われても人多すぎたら嫌ですし、お風呂もゆっくりしたいのに夜だと人多いし・・・てな訳で朝頑張って起きるんです」


「早起きは三文の徳って奴ですかね。にしても私以上の人間密集地帯嫌いがいるとは思いませんでしたよ」


「それ褒めてます?」


「褒めては・・・ないですね」


笑い合う。こんなゆったりした会話は悪くない。だからこそ俺は声の場所からはなるべく離れる。顔も知らない相手だからこんな他愛もない会話を交わせるのだと思うから。


そこからは口数も少なく温泉を堪能していた。この温泉は肌が少しヒリヒリするくらいの温度だから丁度いい。あまりに肌がヒリヒリしすぎるとそれをどうにかしようってなってしまうからこの湯は好きだ。同時に俺は悲しくなる。今日ここを出たら帰るのだ。父さんの所に行くかもだがそれでも数少ない非日常を楽しめる時間は後僅か。まあ、能力者とドンパチやってた時点で非日常とか言われたら何も言い返せない。


あがったら瓶入りの牛乳飲むかと決意して温かさに身を委ねる。


ヤバいクラクラする。50分も浸かってたらフラフラで死にそうになった。さっきの遠慮無い人はもういないしこれ階段上れるか自信無くなってきた。


浴場の暖簾をくぐるとすぐさま牛乳とかが売ってる自販機へ足を進める。その勢いはバーゲンセールで商品(えもの)を取り合うマダム達に引けを取らないものだと自負する。


やっとの思いで牛乳瓶2本と序に麦茶をゲット。普段なら1本ずつしか飲まないのに牛乳は一瞬で無くなった。麦茶も程なくして俺の体内に消える。


「っぶふふぁ~~~~~~。いきがえるぅ~~~~」


じじくさと自分でも思うような声が漏れる。とりあえず新しい顔ならぬ新しい水のお陰でなんとか動ける。さて部屋に戻ろう。


部屋に戻ると詩歌と來妃が熟睡中。静かに荷物を纏めていく。あんまり物を広げてたわけじゃないからすぐに終わった。


「蒼矢、少し外行かない?」


「別に良いけど。どした?姉貴」


「聞きたい事があるわ」


なんだろうか。姉貴は寝てたはず。気付かれてるはずはないのだが・・・


朝の浜辺に移動する。


「で?話って?」


「あんた・・・昨日何してたの?」


「え?姉貴が知ってるだろ」


「・・・そうね聞き方変えるわ。私達が寝た後あの子と2人でどこ行ってたの?」


「・・・あの子って?」


「詩歌ちゃん。彼女と2人でどこ行ってたの?」


「・・・何が言いたい?」


「は?もう言ったじゃない。詩歌ちゃんと2人でどこに行ってたの?ってもう言ったわよね?惚けないでもらえる?」


そういう事ね。つまり高校生のうら若き男女が(一人はもう40超えてるけど見た目は15,6だから高校生。異論は認めない)2人きりでする事と言えばっていう連想ゲームの結果、俺が襲ったとでも思ったのか?なら否定してやれば良い。


「どこに行ったかね・・・ちょっとおでかけだ。ちなみに事には及んでないから大丈夫さ」


ま、信用する訳無いだろうな。さて次の手をかんg


「でしょうね。あんたは彼女に手を出してないのは知ってるわ」


「・・・・・・・え?」


やべ、本心で出ちまった。じゃあなんでこんな問い詰められてんの俺。


「他人に言うのは初めてね。私鼻が良いの。だから分かる。あんたたちがこっそり消えた後に起きて彼女が帰ってくるまで待った。それで匂いを嗅いだの。何故だか濃い自然の匂いがしてたわ。それにあんたを含め男の匂いはしなかった。だから謎なの!あんなかよわい女の子を夜中に連れ出すなんていかがわしい事をする訳じゃないなら何故!あなたは何をしに出掛けたの?あの子が人間ではない事は分かってる!そんな事最初に見た時から知ってた!でも良い子だから、優しい子だから安心してた。危害を家族に加える訳じゃないから。でももう分からないよ・・・あの子が何者なのかも、どうしてあなたが連れてきたのかも。あなたは誰?あなたは・・・私の弟なの?私と血の繋がる桐生蒼矢なの?」


「・・・・・・」


そういう事か。自分の常識、理の外の事は理解出来ないようだ。そんな姉貴に安心感すら覚えてしまう。この人はちゃんと人間だって。


にしてもこれは俺が迂闊だった。起きる事を全く想定していなかったのは俺の落ち度だ。あまりに動転していて母さんには話せなかったんだろう。だからこそこんな場所で問い質してるんだと思う。こんな大きな声はみんなの迷惑だからサイレントで浜辺近くにいない限り声は聞こえないようにしてある。こんな内容突拍子も無さすぎて聞かせられないというのもあるが。


「黙ってないで何か言いなさいよ!あんたそれでも男なの!?シャキッとしなさいよ!」


「あ゛?なんつったコラ」


「ヒッ、な、何よその目は・・・蒼矢はそんな目しない・・・早く返して!蒼矢の姿形で喋らないで!」


「どこまでも自分勝手。分かんねえのか?お前が話せなかったようにこっちにも訳があるって事くらい察してんだろ?なんだ?そっちが求めた事は全て履行しなきゃならなくて、そっちの希望にそぐわない事は全て許さないってか?どこまで偉いつもりだ?そりゃ悪かったさ。黙ってたことも連れまわした事も。そんな事は分かってるよ。でもな?良い子ちゃんなだけで生きていける程世の中甘くねえんだよ。それでも申し訳ない気持ちはあります。だからご要望通りこれからは完璧になんでもしますよ()()()()


「沙羅さん?は?なんも私の言いたい事分かってないじゃない!!ガキなのも大概にしてよ!カケラも悪いなんて思ってないじゃない!何か抱えてるなら私を頼ってくれないの?私、そんなに姉として頼りないかな・・・」


家族が泣いているこの状況。誰もが慰めるような状況だと思うだろう。俺もそう思うさ。出来れば慰めてあげたいし涙を拭いてやりたいが、俺としても知られてはいけない領域に踏み込まれてはいけない所に軽くだが気付かれている。そもそもの話、泣かせたのは俺。男だから女だからなんて理論は正直死ぬべきだと思っているがその理論を相手が展開するなら使ってやろう。何故なら男らしさってのは・・・


「当たり前ですよ、頼りになんてなる筈ありません。こんな事で泣いてしまう人に背負える話ではありませんからね。それに、あなたは私の愛であったり恋という感情の一部分を失わせた当事者の一人。昔とは言え敵対する人間を簡単に許し信用するほど私は聖人ではない。そしてあなたは言う。そんな昔の事言われても、やっぱりガキじゃないかとかね。図星でしょう?」


本当に言いたい事はこんな事ではない。でも俺は何度も心に刻む。一度こうすると決めた事を曲げない。それが俺にとっての男らしさだ。そこが揺らげば俺だけじゃなく詩歌の立場も危うい。だからこそここで()()()()()()()()がある。


「愛を失った私に家族愛を求めようなんて・・・虫が良すぎやしませんか?」


これがとどめとなった。姉貴は生気を失ったように帰っていく。


これで分かってしまった、何故俺が家族よりも怪物を優先してしまうのか。俺にとっては愛とかそんな不確かな物に囚われるよりも目の前で起こっている有事の方が重要なんだ。本当に愛を失っているわけではない。ベラ達に愛はある。詩歌にだってある。颯斗にも相楽にも関わりたいって思う愛はある。それでも・・・俺にとっては生きる意味をくれた事象の方が重要なんだ。俺は結婚には世界一向かないタイプだろう。心のどこかで認識していた事を漸く理解した。そう























俺は既に崩壊してるんだ。俺にとっての家族って物は異世界で本当に信頼出来る仲間を見つけた時点で紙切れに等しかったんだ。

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