74話:妖狐の誕生
更新止まってました。すみません
ひとしきり泣き終わり、持ってこられた巻物を見ようとしていた。
「それじゃ開けるよ。詩歌ちゃんにはショックな話かもしれないから心の準備だけお願い」
「はい」
そうして巻物を開き始める。
「君達はこれを見てこんな事が有り得るのか。残酷だとか思うだろうね。でもこの記述は素直に受け止めてほしい。これは妖狐という種族の誕生が書かれた書物なんだ」
時は昔へ遡る。どのくらい遡るのかと言われれば豪族が鎬を削って古墳建造に勤しんでいた頃の話。
とある兄弟がいたそうだ。その兄弟は別に豪族の子息という訳ではない。そしてとても仲が良かったそうで、いつも一緒だったという。
ある時、兄が古墳の建造に駆り出される事となり連れていかれた。弟はとても寂しい日々を送っていたがいつかは帰ってくるだろうと信じて普段と変わらないように過ごしていたそうだ。
だが10年は確実に経っただろうと思えるほどの時が過ぎた。それでも兄は帰ってこない。弟は捜しに行った。建造していた古墳近くへも赴きくまなく捜索したのだという。それでも見つからなかった。
ふと空を見ると太陽が黒い事に気付いた。その瞬間悟った。兄は死んだのだと。
どうしても知りたかった。何故死んだのか、どこに眠るのか。弟は考えた。兄の居場所を知る為にはどうすれば良いのだろうか。来る日も来る日も考えた。
ある日、夢に女が出てきて言ったそうだ。
「兄の事が知りたければ鹿を狩って骨で占ってみなさい」
そう言われ鹿を狩りに行った。山へ入り鹿を見つけ狩ろうと思った矢先、毛並みの綺麗な狐を見つけたそうだ。弟は狐に問う。
「君は僕の兄を知らないか?知らないなら知る為に力をくれないか」
と
「構わぬ。だが約束してほしい。君がその命を終える時我らの仲間として生きてくれるか」
狐も問うたそうだ。
それを快諾し全てを占う力を手に入れ占った所、兄は古墳近くに埋葬されている事が判明した。
占いで判明した場所を掘り起こし兄の骨を見つけた。やっと会えた。そう思ったのも束の間、絶句した。
兄の頭骨は一部が凹んでいた。
弟は嘆き悲しみ真実を知った。兄は事故死では無い事を。兄は暴行の末に殺されたのだと。
全てを憎んだ弟は人間でいる事をやめ狐へと変貌を遂げた。その外見は9本の尾を持つ狐。この九尾が原初の妖狐である
「というのが伝わる話だね」
「なんというか救われないバッドエンドというか短いなというか」
「なるほどな・・・ショックを受けるってのはそういう事か」
「・・・わかりやすく説明をお願いします」
「この話は一貫して弟に不幸が訪れるという内容になってる。滅多にない日食の記述。兄の発見。そして人外への変貌。いずれも人の価値観では不吉、悲嘆だ。つまりは妖狐とは古来よりそういう存在だと言いたいんだよ」
「そこまで読み取ったんだ」
「まだ続くぞ。途中で力を与えた狐だが、こいつが妖狐の本質を表す物だ。恐らくは産まれた時から目を付けられていたんだろうと推測できる。兄を殺したのはこの狐だろう」
「なんで?」
「タイミングが良すぎる。俺だったらこんなグッドタイミングはこの日にここにいると知っていなければほぼ不可能に近いからな。つまりな?」
そこまで言って深呼吸をする。
「妖狐ってのは人を誑かすってのが本質だとこの巻物には書いてあるんだよ。自らが欲する物の為に手段を厭わない存在だと。あの玉藻前だって何かしらの目的があったから取り入ったんだろ?妖狐は元来狐に魅入られるって言葉の体現者だって事さ」
「わ、私は違うよ?そんな誑かすだなんて・・・」
「それは俺が知ってる。だからこれだけじゃないって思うんだ。わざわざこんなだけの内容を巻物にして残すなんてどうみても年代物。紙が潤沢な時代じゃない時代の産物だろうから別の意図があるんだ。でもそれが分からないんだよ」
「ほう、君でも分からなかったか。時間も無いし僕が説明しよう。この話って所謂バッドエンドじゃん?このバッドエンドを運んできたのは狐だ。ここまでは良いよね?」
「まあそうだな」
「そしてもう一つ。蒼矢君、君はさっき弟に不幸が訪れると言ったね?その結果彼が抱いた感情は"憎しみ"だった。憎しみは一般的に負の感情に分類される。狐に魅入られ力を貰った末路が憎しみだった」
「あ、そっか」
俺と詩歌の声が被る。
「妖狐って・・・負の感情で成り立っているって事ですか?」
詩歌が答えを口にする。
「う~ん・・・惜しいな。答えを言うと妖狐の起源になるから自力で辿り着いてほしいけど」
「ギブです」
「そっか。なら答えを教えよう。この巻物は九尾に至る方法と、人間が変化した存在という二つの事を物語っている。九尾っていうのは憎しみ、悲嘆、怒り。こういった負の感情に囚われた者が辿り着く最終形態なんだよ。自分の限界を破る。その方法は怒りに身を任せるって言うのが一番早くて楽だからね」
「じゃあなんで私は九尾に・・・」
「詩歌ちゃんは蒼矢君にキツくしごかれたんじゃないのかい?その結果、自分の限界を超えたんだよ。妖狐の歴史の中で初めてさ。元々の性格、人柄いや狐柄?を持ちながら九尾になった存在なんて。だから凸守はわざわざここに行けって行ったんだと思うよ?」
「そうだったのかな・・・」
「少なくとも自覚はするべきだ。君は特異な存在になったと。稀有と言った方が正しいかもしれないけどね。街中で君は見張られているかもって事を忘れないようにしてほしい。僕からの頼みだ」
「そんじゃ俺達は戻る。色々と世話になった」
「気にしないでくれたまえ。また何かあったら来てもらって構わないよ」
「そんな簡単に来れるような場所に住んでないけどな」
「ま、君達の事情を知っている子達なら連れてきても良いからまた顔を見せておくれ」
「おうよ」
そうして俺達は宿へと戻った。
窓から再侵入したがまださっきの問題は解決してないらしい。時刻は23時34分。1時間以上が経ってまだ解決に導けてないとなると結構大きいインシデントか。
気になったので話を聞いてみたがどうやら温泉が流れてこないらしい。源泉に問題があるかもと思い行ってみたが特に問題は無しで分からずじまいだそうで。
詩歌を部屋に届けた後に大捜索を一人で始めた。まずは大浴場。男湯女湯両方なのか片方なのかで原因が変わってくる。調べたら両方だった。
そこで関係者以外立入禁止と書かれたドアの先へ進み配管をチェックしていった。一応原因突き止めようとしてるから関係者って事で。入ってすぐにとんでもない熱気に晒されるがそれでも進む。というよりもはや泳げそうって勢いで水が溜まっていた。そして見つけた。
(あのバルブから漏れてんのか。ってなんでここ見つかってないんだ?一番最初に確認しにくるだろ)
全部で三箇所。全てのバルブを閉めた。その状況でフロントへ戻るといきなり流れ始めた温泉に一同歓喜の様子だったのでめでたしめでたし。
その様子を見届けてから夢の中へ旅立って行った。
温泉復旧に尽力していた頃、大江山では・・・
「桐生蒼矢だったか?彼はとても人間とは思えんな」
「ん?茨木。君にはそう見えたのかい?」
「うん。酒呑をいや、伊吹を前にしてあんな平然としているなんてどんな胆力なんでしょうかね。今のシャバにはあんなのがゴロゴロいるってのか?」
「それは無いだろうけど僕も彼は怖かったな。彼からは歪な人間味しか感じなかったから」
「?どういう事ぞ?」
「彼は喜怒哀楽ははっきりしていた。けど、彼には性欲、恋という感情が欠如しているように見えたね。なるべく可愛い子を視界に入れるようにしてたんだよ。あの年頃ならフラフラっと視線が行くのは摂理だ。中には紳士を演じる子もいる。けど違った。彼にはあたかも景色の一つのようにしか見えてなかったのかというくらいの興味も引けなかった。そう、喜怒哀楽ははっきりしている。でも性欲、恋という部分が機能として失われているようにしか思えないんだ」
「ハッ、そんな男がいるかよ」
「僕はあんな歪な人を見た事が無い。あれだけ道巌の時に取り乱した子が感情を失ってるわけでは無いと思うんだが・・・」
「・・・気に入ったんだな。あのガキ」
「うん、彼の生きる道を見たくなった。」
「色んな友達の死を見てきて、あれだけ友達を送り出すのが嫌で道巌以来友達を作んなかったお前がか。変わった奴もいたもんだな」
「詩歌ちゃんも気になるね。あの特殊な九尾を長老が黙って見ているはずがない。蒼矢君がどうやって彼女を守るのか・・・クククッ、楽しみで仕方ないねぇ」
大江山のトップ、酒呑童子とナンバー2の茨木。この二者は玩具でも見つけたかのように笑っていた。
※茨木は女の子です




