72話:試験の答え
「ふーん・・・それが試験っすか」
「ちょ、ちょっと待って?それってどっちかは入れないって事じゃない。あなた、2人共入れるみたいな事言ってなかった?」
「はて?私は試験の結果次第と言いましたが?」
「それはそうだけど・・・これは卑怯よ!」
詩歌には教えないとな。喚くだけじゃ望みは叶わないって。どう考えても抜け道がある筈だ。何故なら、元から俺か詩歌だけを招き入れたいなら先手としてそれを予め伝える筈。態々試験なんて事をやるのは正攻法しか出来ない単細胞は門前払いって意味が含まれてると見て正解だろう。
「蒼矢、私を倒して」
「さてどうすっか・・・は?」
「私よりもあなたが行った方が良いわ。だから私を倒して」
「・・・お前、マジで言ってる?」
「大マジよ」
「あー・・・」
さて困った。こっちは相手の意図の裏を読もうと頑張ってるってのになんで諦めるかな。てか早いよ。そして気付け。この試験、まず普通に戦い始めたらその時点で失格だぞ。つまりは、戦うは戦うでも両者共に万全な状態で試験を終える必要があるのか・・・考えてみれば相手は鬼。天邪鬼って言葉にも使われる存在なんだよな。一筋縄じゃない。こんなとこに来てまでなんで頭脳戦やんなきゃいけないんですかね。
後考えるべきは二つ。一つは試験の突破方法、もう一つは相手方の意図。あっちでもこんな場面会った気がするけど思い出せない。全く役に立たねえな俺。2人で戦ってどちらかが倒れるまでだもんな。偽装か?それとも時間遡行か?いや、そんな方法を望んでるわけじゃないだろう。
ふと詩歌を見るとこちらに敵意を向けているのが分かった。
「あの、詩歌さん」
「何?」
「その敵意一旦消してくれん?」
「悠長なこと言ってないで、もう戦うしかないでしょ」
「待てよ。ここで戦っても得をするのはあいつらだ。もう少し抵抗しようぜ。そう、まさしくレジスタンス!」
「ふざけてる場合!?早くしないと朝になるわよ?」
「そんな訳あるか!」
こいつは全くもう、なんで戦う事しか頭にないのかな・・・朝ってまだ6,7時間近くあるんだぞ?そんな時間まで鬼含めた魑魅魍魎の類が悠長に遊んでられる訳無いだろ。
ん?朝・・・?
すぐに周りを見渡す。
「え?どうしたの?」
詩歌に心配されるが俺はここで気付いた。
(宿の照明付いてる部屋が変わってない?いやいやあれから20分は経ったんだ。流石に寝る所も出るだろ。おかしい・・・)
「そうか!そうだったのか!だとしたらこの試験はクリアが不可能なんだ。無理ゲーなんだ!」
「え?どういう事?」
「詩歌!狐火何個なら同時に出せる?」
「え?40個なら」
「よし、ならその40個を俺が打ち出す技にぶつけろ。それでこの試験のカラクリが分かる」
「え?あ、うん」
俺は同時に鬼を見る。間違いない、これがクリア条件だ。
「そんじゃ試験を監督してる人の近くに移動しようぜ。そっちの方が見やすいだろ」
「え?」
「とにかく行くぞ」
強引だが近くに誘導する事に成功。後は両者の技がぶつかる地点を鬼の目の前にして
「そんじゃ行くぞ。炎連弾!」
「狐火!」
炎連弾は火魔法の初歩の初歩。普通は10個くらいを前方に飛ばす技だが、俺レベルともなると40個ならお手玉のように動かせる。詩歌の狐火はコントロールが少し悪いようなのでこちらが修正して悉くぶつける。俺がイメージした炎連弾は噴火で降ってくるような感じ。それに、強い衝撃で爆発するというのも付けた代物だ。
そんなのが目の前で爆発すれば勿論の事ながら
「がぁ!熱い!熱い!」
被害は出るだろう。現に悶えている。試験は試験官が監督不可能になった時点で終了だ。
「さて、これで試験は終わりだろ?とっとと時間動かせ酒呑童子」
「本当にこれで良いのかい?結果が良くないものかもしれないよ?」
ゆっくりとこちらに歩いてくる人影。長身の男だ。角があって、強者というべき貫禄と気配を兼ね備えている。チッ、こいつもイケメンかよ早く禿げろ。
「良くないなら良くないで構わないさ。こっちは危急という訳でもないからな。帰るだけだ」
「そこまで堂々と暴露されてはとてもやりにくいね。結論から言おう。合格だ。そっちのお嬢さんはとてもギリギリだったけどね」
「あの、何が何だかよく分かってないんですが・・・」
「まあそうだろうね。とりあえずは案内しながら試験の事を話そうじゃないか」
そう言って招き入れられる。詩歌、お主諦めるのが早すぎてギリギリって言われたんだぞ。
「さて、まずは試すような事をして悪かったね。試験の意図には気付いてもらえたかな?」
「ああ。自分達が信頼を置ける相手かを見極めるって事と、これから話す内容を理解出来そうな人間かだろ?」
「正解。僕達はこの国では伝説上の生き物とされているからね。公に存在するとバレてはいけないんだよ。その為にも僕達に会える人物は限らせてもらってるのさ」
「ま、想定通りだ。あ、ちなみに詩歌。あの試験落とすつもりは全く無かったって言ったらどうする?」
「え?」
「やっぱそうなるよな・・・」
「最初から分かってたのかい?」
「そりゃな。試験の問題文が戦ったらアウトですって教えてくれてるようなもんだったし、そもそも最初から落とすつもりなら違う形での試験にしてるだろ」
「君と話してると同年代にしか思えないな」
「俺15だぜ?」
「僕は500歳の上を更に行くって事しか覚えてないよ」
「・・・俺爺って言われてるのか?」
「いや、とても大人びていて腹を割って話せると言ってるんだよ。昔の道巌よりも接しやすい」
「蘆屋道巌の名が何故出てくる?」
「単純さ、彼と僕は友達だったんだ。君なら知っているだろう。狂人と言うに相応しい彼の姿。あれはつい最近になってからなんだよ。元はもっと真っ当だったさ」
「色々引っかかる点は幾つもあるがそれは後にするとして、俺達は凸守倭という奴から聞いてここに来た。妖狐について知りたければ行ってみろとな」
「凸守・・・ああ!彼か。最強とかもてはやされてる」
「そうだ」
「なるほどね。あの子か。という事は君たちに教えたい事はあれか。準備しないとね」
「準備?」
「そうだよ。平安時代と現在の歴史学では言うのだろう?あの時代に書かれた書物を読むと妖狐について分かると思うんだが、如何せん古くてね。持ち出すのにも時間がかかるのさ」
「そうなのか。すまない、予め連絡するべきだった」
「構わないさ。それよりも、後ろのお嬢さんに気をかけてやったらどうだい?置いてけぼりで話に付いてこれてないようだよ?」
「え?マジ?」
「うん。よく分からないから付いていくしかないなって」
「あ、すまん。とりあえず目的は果たせそうだ」
「そっか。それなら良かった」
「あ、じゃあ私からも質問良いですか?」
「ん?何だい?」
「我々妖狐の中でも高齢の方だと話し方が古語風で難解なんです。でも、あなたはそれ以上を生きているように見えるのに話しやすいのが気になって」
「そりゃ現代っぽくするのは当たり前でしょ?ここでは僕が一番上の立場。なら、別に必要以上の貫禄みたいなものを出す必要も無いし、こういう方が皆簡単に話しかけてくれる。鬼が怖いなんてのは大方が事実じゃないよ。と言っても、一部は危険だから機嫌を損ねないようにしないといけないけど」
「一部?」
「うん。人間が信じる鬼の解釈を知っているから言うけど、僕のような酒呑童子は纏めあげるだけ。基本は楽しくやってるのが好きな鬼だ。一方で牛鬼とか所謂害を成すとされる奴ら。こいつは関わらない方が良いよ。君達は戦えるから関係ないかも知れないけどね?ただの人間には脅威だ。あ、そうそう。僕は2代目なんだが先代、初代酒呑童子は気性粗かったから酒呑童子はマジでヤバいってのは強ち嘘じゃないよ」
「2代目!?」
「うん。初代は何回か捕まってはなんとか逃げを繰り返してたんだけどある時本当にやられちゃってね。初代の弟子だった僕が継いだのさ」
「しょ、衝撃の事実を知っちゃった」
「へぇ~、これ出回ってないんだ。意外だな」
「というかさっき焼いちゃった女の子は?大丈夫なんですか?」
「ふむ。あれは鬼火で作った幻影だ。心配しないでくれたまえ」
「そ、そうだったんですね」
「君はまるで箱入り娘じゃないか。もっと場数を踏めばそのくらいは九尾なんだから分かると思うよ。蒼矢君。君は随分と大切に育てたじゃないか」
「うるせえわ。てか、今まで人の名前を呼ばなかった癖にいきなり呼ぶんだな」
「まあね。あ、それと君たちはこの後鬼の前に出てもらうんだがその時僕の事は伊吹と呼んでくれ」
「伊吹さんと?」
「いや、伊吹だ。詩歌ちゃん。特に君はこれをしないと面倒な事になるだろうからね」
「??はい」
そんな会話を経て俺達は歩く。
酒呑童子はイメージとして優しそうなお兄さんって感じですね




