70話:勇者の父
すいません。更新遅れました
「母さんから話は聞いてたが、本当凄いよお前は」
「え?母さんから?いつの間に?」
「実はね?あなたたちが学校の時にたまに電話してたのよ」
「そうなの?」
「ええ」
「そっか。なら父さんの話を聞かせてほしいな」
「俺か?仕事とかの話以外はろくに無いぞ?正直楽しいとは思えないが良いのか?の前に、その子が詩歌ちゃんで良いのかな?と、もう一人は誰だ?俺の娘は沙羅だけのはず・・・」
「初めまして、詩歌です。この子は來妃、私と同じくお世話になってる子です。」
「いつの間にか賑やかになってたのな。良いなぁ、俺もそっち帰りたいよ」
「そんなに職場キツイの?」
「いや、そうじゃないけどな?俺だけハブられてる気がするんだよ。とりあえずうちに来い。今日は休み取ってたから時間は結構あるし、積もる話はそこでしようや」
そう言って俺達は父さんの住む家に向かった。
「さて、こんなおっさんのくたびれた話でもしますかね」
と言って語られたのは仕事とか人間関係の事。変わり映えが無く、こんなおじさんだから女性社員に煙たがられないように身だしなみには注意しているとか。言われてみれば、髪に関しては今もセットされている。
「とまあ、俺はこんな感じかな。数ヶ月じゃ新しい話のネタは無いんだ、すまないな。そんじゃ沙羅と蒼矢の事を聞かせてくれよ」
「じゃあ、私からね」
姉貴が話し始める。球技大会の時の事も話し始めて俺が何を話そうかと考えていた時、ふと気づいた。
父さんが驚くような顔をしていた。まあ確かに異世界に行くまでは身体能力は平凡オブ平凡だったからそりゃ驚くわな。
「沙羅の話聞きたいのに終始蒼矢中心じゃないか。自分の事は無いのか?」
「うーん・・・新しいクラスでも友達は出来たよとか?」
「それは良かった。え?本当にそれだけ?」
「うん」
「そ、そうか。沙羅から既に聞いちまったからな。蒼矢は他に何かあったのか?」
「そうだなぁ・・・強いて言うなら学校からの帰り道で泣いたとか?」
「は?なんで?」
「いや、メンタル的に来ちゃって」
「へぇ、お前そんなにメンタル脆かったか?」
「良いだろたまには」
「ふーむ・・・蒼矢」
「ん?」
「少しさ、二人で話したいから一緒に出掛けないか?」
「良いけど・・・どこに?」
「近くに山がある。そこに登りながらだ。スポーツ出来るお前ならちょっとくらいの山登りは軽いだろ」
「まあ否定はしねえ」
「てな訳だ。みんなすまないが1時間程こいつ借りる。帰ってきたら詩歌ちゃんの話は聞かせてもらうよ」
「随分急ね。詩歌ちゃんの話聞いてからでも良いんじゃない?」
「あんまりしてやれてない男の会話を楽しみたいんだよ」
「そう、なるべく早く帰ってくるのよ?」
「分かってる。そんじゃ蒼矢、行こうか」
「おう」
そうして家を出て母さん達に聞こえない所まで来た辺りで
「なあ」
「何?」
「お前、何があった?」
「何とは?」
「お前・・・どうやってそんなに強くなった」
「バドの事?それなら」
「違う。そうじゃない」
「じゃあ何が聞きたいの?」
「さっき聞いててな?お前が努力したから学校を代表する先輩に勝てたってのは分かる。でも、今のお前はそれをまるでどうでも良いかのように思ってるだろ。普通の高校1年生はそれでモテようとか考えるもんだ。それをしない奴はそれを偉業とは思わない奴、それが当たり前の人間だろう。何故優勝する事が当たり前になるほどお前は強くなった?」
「・・・偉いなんて思わないよ」
「それは良い心掛けだけど」
「けど?」
「背負う物が無い強さは不安定なんだ。女の為に強くなるってんなら分かる。でも、詩歌ちゃんはお前が背負うって思ってる相手じゃないように見えた。お前のその強さはどこから来るんだ?」
「・・・背負う物はあったんだよ」
「・・・ほぅ」
「あったけど今ここにはもう無い。それにその背負う物と一緒に学んだんだ、力は偉くないって。それだけの事さ」
「それは正しいぜ。でもな?15,6歳の男子が、ましてや戦国の世でもない、戦乱なんて遠いこの日本に生きるお前がそんなの考えなくて良いんだ。お前さ、大人になりすぎたよ。父ちゃん悲しいぜ?男としてお前に教える事沢山あった筈なのに、俺じゃねえ誰かに教えられちまうなんて。そりゃ、一緒にいてやれねえから仕事で疲れ果ててる姿も、大人の男として何も見せられないってのもある。だから誰かを、カッコイイ男を偶像にして自分を磨く。仕方ないとは思っちゃいるが、やっぱ精神的にキツイもんだ。前会った時は勉強こそ出来てもまだガキだったのに」
あの会話だけで俺が変わったって思ったのか。やっぱ働く人って凄いや。父さんは優しい。だから俺には普通の高校生をしてほしいって思ってくれてるはず。でも、俺は人間の醜さ、良い所を7年で見れるだけ見てきた。確かに考える必要なんて無いかもしれない。でも
「歪に育った俺は嫌いか?親父」
「親父か・・・いや、そんな訳ねえよ。寧ろ、大好きだ」
それから他愛のない話をして山に入る。途中の休憩地として設置されてるベンチに座って風に吹かれながら空を見つめる。
「なんかな・・・お前といると親子じゃなくてやっぱダチって感じがする」
「それは褒めてる?」
「褒めてる。同時に寂しいな」
「まあ、そうだよな」
「てな訳だ。偶には子供になってくれ。そうしたらこっちとしても嬉しい」
「無茶を言ってくれるな」
「小遣いやるよ」
「わーい、パパー、だ~いすき~」
「うわ、キモ」
「は~?やれって言ったのそっちだよな?恥忍んでやったってのに酷くね?」
俺が勇者でいられた理由。こんな弱い俺がやっていけた理由はライラ達のお陰が一番だろう。でも、やっぱり感じる。器のデカくて優しい父と、子供をちゃんと見てくれる優しい母。この二人の血を継いだからだろう。
帰り道、俺の心は満たされてた。俺があっちの世界で世界を救ったのは決して間違いじゃなかった。それを確認出来た。それに、俺はこの二人の子供で良かったと心の底が思うのだった。
「そんじゃあれか?蒼矢が引っかけて詩歌ちゃんはうちにいるって事か?」
「そうなります」
「引っかけてねえよ。人聞き悪いこと言うな」
「冗談冗談。しかし、困っているとはいえ女の子を連れ込むとはなー。こいつの将来が楽しみだぜ」
「やめろその視線。今すぐにやめろ」
「甲斐性出てきたかと思えばここでオドオドするんだもんな。やっぱ蒼矢ガキだな。ハッハッハ」
「めんどくせぇ、この酔っ払い」
「酔ってねえわ!最後に飲んだの3日前だわ」
「ツッコミ入れる所地味に間違えてるんだよな・・・」
「で、來妃ちゃんも蒼矢が連れてきたと。金は大丈夫なのか?」
「伝家の宝刀、宝くじ先輩という方がいましてですね」
「・・・その年からギャンブル頼りは流石にあかんな」
失礼な。ちゃんと未来を計算して当たる籤が入ってるのはこれって選んでますとも。ただのギャンブラーじゃないに決まってるでしょ。
「あら、そろそろ宿に戻らないと」
「お、もうそんな時間か」
「ねえお父さん」
「なんだ?沙羅」
「もうすぐ帰ってこれる?」
「やべ、泣きそ」
「え?なんで?」
「職場の同僚からは娘に触るなとか言われたから覚悟しとけって念押されたのに、一緒の家にいてほしいだなんて・・・沙羅は良い子だ」
そんな親父に苦笑いしながら出る準備をする。
この日の父さんの最後の言葉は
「蒼矢、沙羅、無理はすんな頑張れよ。それと、二人共、よく頑張った」
だった。
蒼矢達が宿に戻って1時間ほどした時の事。大江山にて
「ご報告いたします」
「聞かせてくれ」
「妖狐、並びに桐生蒼矢の2名、件の宿にまだいるようです」
「そうか、引き続きこちらに来るまで監視を続けてくれ」
「はっ!」
「失礼します」
「今度はなんだい?」
「蘆屋道巌、死亡を確認。死因は呪殺、記憶の分析から桐生蒼矢に接触していた模様。貴方様の読み通りにございます。
「そうか・・・やはりそうだったのか。もう一つ調べてきてくれ」
「なんなりと」
「道巌、彼が何故桐生蒼矢に接触したのかをだ。2時間以内に頼む」
「直ちに」
その者はこの山の頂点に君臨し、高名な術者達はその存在を知り、畏怖する存在。
蘆屋道巌、彼ですらこいつには勝てないと野心を捨てたほどの相手。
同時に彼の友でもあった者。
「君はどうやって昔の自分を取り戻したんだい?怨霊に気付かぬうちに精神を乗っ取られたはずの君が正気を取り戻したなんと興味深い事か」
この国で古くから伝えられる存在。
「友の最期、この酒呑が暴いてみせようぞ」
大江山の頭領、酒呑童子である。




