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69話:敗北が齎した物

長くなりました

「本当に小賢しい奴よの。いつ頃から気付いていたんじゃ?」


「あんたがこいつを見てた時だよ」


詩歌に顔を向ける。


「ほほぅ?それすら気付いておったか。ヒヒヒッ、これは慧眼と称賛しよう。なればこそ気付いておろう?」


「ああ、今回のこれがあんたの所業じゃねえことくらいはな」


「あの・・・」


「ん?」


「なんじゃ?嬢ちゃん」


「この人は結局誰なの?」


「そっか!お前あの時いなかったな」


「お前さん・・・儂、こんなボンクラに負けたんか。なんだろうかこの喪失感は」


「やかましいわ!こいつは俺が過去にボコボコのけちょんけちょんにしたおっさんだよ」


「否定はせんが、もっとマシな言い方なかったんか?」


「無かった」


「さいですか」


「へぇ~、で何がどうなってるの?」


「説明しようかの。これは儂の元同業がしでかしてることじゃ」


「場所変えね?」


「それもそうか。車に戻るぞい」


「母さん達は・・・どこだ?」


「さあな。だがお土産漁りに精を出してたから当分は帰ってこんじゃろ」


「そう信じるか」


















「さて、そんじゃ今回の事について教えてくれや」


「儂が何故ここにいるかは聞かんのか?」


「それは後で良い。まずはあの池だ」


「その情報も知っておるとはな。ま、深堀りはせん。そこの嬢ちゃん2人も人間じゃないのは見て分かるしの。しかも2人とも儂より強いと来たもんだ」


「なんかあんたが素直に褒めると複雑だわ」


「そう言いなさんな。さて話すかの。此度の件、事の発端はくだらん諍いじゃ」


時は7月上旬。霊に関する術者達の祭典があったそうだ。道巌はあたふたしている隙を見計らって抜け出しそれに参加したそうなのだが、ここで酒に酔った奴らが2つの勢力に分かれて言い争いになり、果てにはどんな偉業を成し遂げたかで優劣を決めようという事になったらしい。


「んーと?話が見えないんだが・・・」


「まあ待て。続きがある。その派閥が問題なんじゃよ。あの時諍いの原因となったのは霊を置いておくのに適する場所は水辺か森林の中かという事で議論が紛糾してしまっての」


「え?そんな事?」


「そんな事じゃ。儂からすればどうでも良かったもんだから傍観に徹してたんじゃが、気付いた時には個人の力で止めるのは不可能なほどに大騒動に発展して」


「それで、それぞれのフィールドで事を起こしてみれば優劣が決まるって考えた訳か。アホくさ」


「お前さんも覚えとけ。世の中にはくだらない事で優位になりたがる輩がぎょうさんおる。特に、自尊心の高い人などその代表格じゃ。儂らの中でも一際高かった男がこんなことを引き起こしたんじゃよ」


「で?俺は浄化して良いのか?」


「ああ、してくれい。じゃが、怨霊もうじゃうじゃおる。軽めのでは火に油を注ぐだけだからの?儂の霊達をやった時と同程度を頼む」


・・・すまん。あれ下の方の術なんだわ。あれで良いのね


「そう言う事ならやるけど良いな?」


「うむ」


無詠唱で発動する。残存する霊が0になった事を確認して


「終わったぞ」


「・・・なんじゃ?その詠唱は」


「は?だから終わったって」


「・・・・・・いやいやいや、お主詠唱ありでやってたような記憶があるぞ?」


「無詠唱習得しましたが何か」


「本気で?」


「本気」


「蒼矢って本当に凄いわね。常識に囚われないというか」


「うん。みんな安らかに消えてる。お疲れ、お兄ちゃん」


「おう」


「こんなのでたらめすぎじゃろ・・・我々の研鑽とは本当に何だったのじゃろうか・・・」


道巌は自分の無力さを痛感した。





















その後、どうにか出発し渋滞を抜けた俺達だったが、さっきまでのような騒がしい会話は無く、疲れからなのか皆思うままに外の景色を眺めている。


道巌から聞かせてもらった。どうやら捕まっていた九州の方で逃げ延びた際に、まず俺を探そうと思ったらしい。そう思って東へ歩いていたそうだが、道中で倒れてる人を見かけ、助けたらしい。その人があのホテルの副支配人だったらしく、その縁で働かせてもらう事になったのだとか。元々は清掃員として働いているのだがこの送迎役に無理を言って参加したらしい。


俺に男の大事な物を潰されてからずっと考えて、真っ当に生きようと思ったらしい。それを伝える為にもこうして同行しているのだとか。詩歌を見てた理由は「なんじゃ!?あのバケモンは!?」と思って気になりまくってたんだと。


正直信じてはいないが、ここまで協力的でかつ何もアクションを起こしてない以上、何も言うまい。


暫く走らせていると


「後15分ほどで着きます故、降りる準備を」


「ありがとうございます」


母さんが反応する。


俺はこの時高揚感で心が満たされていたから返事をしなかった。


久しぶりに父さんに会える。


父さんは俺が中1の時に単身赴任。こっちの時間では最後に会ってから8ヶ月。姉貴も母さんも嬉しそうだったが俺よりはそうでも無いだろう。


俺はそれに7年も追加で時間を過ごしてる。7年8ヶ月。時間で言えば、小学生入学から中2のクリスマスあたりまで会えてない計算だ。


恋しくもなるだろう。家には男が俺一人。男としての先輩に聞きたい事は山ほどあった。でも聞けなかった。女だらけの場所が嫌になる時もあった。いてほしい時にいてくれない。中学生の俺には耐え難かった。友達はいたけど"父親がいない"のはまた寂しさが違う。


色々話したいことがある。でも一番伝えたいのは


”俺、頑張ってるよ”


この一言だ。良い成績を取った、表彰された、そんな過去の事じゃない。知ってほしいのはそれを含めた今の俺だ。


酒は飲めないけど色々話そう。そして、言おう。俺は元気でやってるよって。






















「着いたね」


「ああ」


「なんというか・・・ザ・和風って感じ?」


止まる予定の宿はその佇まいがもう高級って分かるような外観だった。


気楽に泊まってと言われたがこれは高級慣れしてない俺達は委縮するのも仕方ない。


立ち尽くしていると宿の人が出てきた。


「桐生様でございますね。お待ちしておりました。ようこそ」


「あ、お世話になります」


頭を下げる


「ご丁寧にありがとうございます。ご案内いたしますのでどうぞお入りください」


案内された部屋に着いて気付いた。


「この広さ・・・まさか」


「最高級の部屋なんじゃない?ここ」


「誠彦君、あなた凄いわ!」


現金だなこの人。


「私、居候なのにここに泊まって良いのかちょっと不安なんだけど」


「大丈夫だろ。この広さなら後2人はいても大丈夫だと思うから」


「いや、そうじゃなくて・・・」


「これ何?」


「これは畳だな。水とかこぼしちゃダメだから注意するんだぞ來妃」


「うん」


「温泉は今入れないらしいからどうしようか」


「お父さんの所は明日チェックアウトした後の予定だから・・・どうする?」


「いや、俺が聞いてる」


「あ、ならさ?あの大江山行ってみません?」


「良いわね。詩歌ちゃんナイスよ」


そういう訳で俺達は外へ出た。


近所の商店で唐揚げ買って食べたりしてあと少しで着くって時だった。


視界に見覚えのある顔が入る。


「父さん」


「え?」


「あそこにいるの、父さんじゃない?」


「確かに!行こう、みんな」


姉貴が走り出す。明日会うまでに詩歌達の紹介文を考えようかと思ってたからなんも考えてない。さてどうしよう


そう思ってたはずなのに俺は走り出してた。


父さんが気付く。


「沙羅?それと・・・まさか蒼矢なのか!?」


「久しぶり」


そう言ってから足を止める。そして口にした。


「ただいま、父さん」






















「あやつはもう宿に入ったころかの」


帰りの道を走る道巌。その顔は晴れやかだった。


「すまんかったの。本来なら関わらなくて良かったんじゃよ主は。儂のせいで浄化なんてさせてしもうた。大丈夫じゃよ。自分の失敗も拭えない儂じゃないから」


蒼矢に語ったことは全て事実、されど伝えてなかった事がある。


今回池に霊を設置した術者は最悪の二つ名を持つ術者。その本当の目的は道巌すら敗北した逸材を霊にし、手中に収める事だった。それを知っていた道巌はわざと伝えず一刻も早く遠くに逃がそうとしたのだが、年には勝てない。休憩しないとと思い立ち寄った場所で立ち往生のようになってしまった。こうなったら蒼矢に浄化だけしてもらってでも早く出る事が先決だった。


その術者はあの池の少し先で仕掛けるつもりだったのを知っている。だからこそ浄化され慌てている間に送り届ける。この為にアクセルを踏んでいた。


迷惑をかけた相手の家族にまで迷惑をかける。そんなの自分のプライドが許さない。老い先短い自分を犠牲にしてでも守りきったのだ。


くだらない諍い、利己的で倫理に反する計画、この為に恨みもない相手を殺す。あやつ(そうや)に負けてなんと馬鹿で愚かな事か。元々その術者を嫌いだったこともあり、思い通りにさせなかった。


「これは知らなくて良い。いや、知るな。主はその女子(おなご)達と共に幸せに生きよ。妻を亡くした儂の言葉じゃ、聞こえんだろうがどうか心に刻んでほしい。儂に恩義など感じるな。儂は自分の不始末を自分で返すだけじゃ」


そこまで言って、術がかけられたことを悟る。


「年貢の納め時か。構わんよ、支払う腹積もりじゃ。じゃが、貴様にも払わせてやる。もう貴様のせいで泣くものは作らせぬ。儂を呪殺するなら貴様も道連れだ。爺二人旅。楽しそうではないかえ?」


路肩、邪魔にならない所に車を停めて、目を閉じる。


「我が妻よ、今行く。だが、今生の別れじゃ。儂は罪を犯しすぎた。お前と同じところには行けん。じゃが、願っても良いのなら」


そこまで言って目を開ける。


「お前に会いたい。一目で良い。お前を見たい。これからを生きるものには託してきた。神よ、義務を果たした儂を許してくれるなら妻とあの世で暮らすことを許したまえ。そして、強き若人よ、どうか、どうかその羽を広げ、あの世にも名の轟く男になっておくれ。儂の、間違いばかりじゃった儂の、こんな爺の最後の頼みを・・・頼む」












この日、不審死を遂げた2人の老人の遺体が発見された。一人は車内で、一人は池の近くで。池で亡くなっていた者は嘆くように息絶えていたが、車内で亡くなっていた者は安らかに微笑んでいたという。

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