67話:その頃・・・嵐の前兆
相楽真綾、堂本天の二人は帰る場所が同じと言う事もあり、もう少しで薄暗くなる空の下、二人で歩いていた。
「なあ真綾」
「どうしたの?天」
「やはり・・・会ってすぐの告白はダメだったのだろうか」
「そりゃ、下心見え見えだと・・・ね?」
「はぁ~~、やはりか」
「まあ悔やんでも仕方ないよ。嫌なら蒼矢だって関わってないだろうし」
「そ、そうだよな!であれば今度は違う告白を」
「うん!まずその思考から外れようね!?」
等と話してると
「よぉ、嬢ちゃんたち」
後ろから話しかけられる
「はい?私達の事ですか?」
「周り見て見ろ。他に女がいるか?」
「あぁ・・・そういう事ですか」
「お、馬鹿かと思えば状況は理解したか。へっへっへ、賢い女は好きだぜ?その良い頭を真っ白にしてやるのは良いもんだ」
「用が無いなら帰りたいんですけど」
「あ゛?あるに決まっとろうが。俺達と一緒にイイコトしようぜ?大丈夫。こんだけいるんだ。満足させてやっからよ」
「満足ね・・・そういう事を言う男性は大抵がお粗末な物と知っていますのでどうかお引き取りを」
「粗末ね・・・調子のんじゃねえぞ?このメスガキ」
「あら?調子に乗ったつもりはさらさら無いのですけど・・・そう見えてしまったなら申し訳ございません。あなたの粗末な頭に分かるようにしなければなりませんでしたね」
「そんなに煽ってやるな。あんなに体震わせてかわいそうだろう」
「そうね。とりあえず失礼します。道を開けてくださる?」
淑女モードの真綾と普段通りの天。普段通りと言っても、最近のJKに合わせるべく口調などを変える練習中なのでこれが普段通りなのだ。
ちなみにこの時男達は30人で囲んでいる。半分近くは笑いを堪えるのに必死だ。
「てめぇら!このクソアマ共に教育すんぞゴラァ!」
「あらあら単細胞だ事で」
「全く、蒼矢とその友達を見すぎたせいか男に求めるハードルが上がってしまったようだ。低俗すぎる」
30対2。普通に考えれば勝敗は一目瞭然。だが
「さあてと、やろっか」
「ああ。久々に暴れるか」
そして呼吸を合わせて言う。
「いざゴミ掃除と参りましょう!」
「いってぇ・・・」
「つえぇ・・・」 「まさかワンパンされるとは・・・ガクッ」
死体ではないが敗者の山を築き上げた女子2人の姿がそこにはあった。
「で?教育するだかなんだか言ってましたが、どうしたんです?」
「クソっ、こんなはずじゃ」
「私達は強いぞ?憧れの人に少しでも近づく為に色々したんでな」
「んなの知らねぇ」
「で?私達を襲ったのは誰の差し金です?」
「そこまで感づいてんのか」
「ええ。本当に体目的なら後ろから襲って意識飛ばせば良いだけですもの」
「・・・名前は知らねえ。だが積まれた金欲しさにやった。言われたのはただ一つ。完膚なきまでに潰せとだけだ」
「そう、なら私達は行きますので自力で帰ってくださいね。それでは」
そう言うと踵を返し歩き出す。その後ろ姿に男は叫んだ。
「気ぃ付けろ!あいつはただもんじゃねぇ!」
聞こえていたかは分からないが男は伝えるべきことを伝えた。
依頼主の男は強かった。自分では手も足も出ないくらい。金に目が眩んだのは病気の妹の治療費になるから。手下には金だけ入る事を説明し、多額を持ち帰る算段だった。負けた以上金は手に入らない。元々、不良をやってる理由は不良同士の争いで勝てば身包み剥がせるからその金を治療費に充てる為。行けない方法とは分かっているが、頭が悪く、バイトも高校のネームバリューで落ちていた彼の稼ぐ手段だった。喧嘩が強かったのも後押しした一つの要因。
だがこの日決意する。真っ当に生きようと。もう自分がいて良い場所じゃないと知ったから。
「ほほぅ?それで負けておめおめ帰ってきたと?」
「ああ。正直言うぜ?あんたが出張るべきだって言えるくらい強かった」
「そんな事は知っている。君みたいな馬鹿でも自分がそんな役割だって事くらいは分かっている物と思っていたのだがな」
「いちいち人をイラつかせるんじゃねえよ。少なくとも金は受け取れねえ。あんたの依頼を完遂出来なかったんだ」
「そこは理解しているのか・・・ま、全額とまではいかないが治療費は見込みで250万だったか?用意しよう
「は?何言ってんだ?それじゃあんたに得なんて」
「無いな。だが私も人だ。家族の為に危険を冒す若者を放ってはおけんのだ」
そう言ってアタッシュケースを用意する。この時、身の危険を感じた。
(250万たしかにあれば妹は助かる。喉から手が出る程に欲しいけど・・・準備良すぎやしないか?捨て駒なのは分かってたが、最初から俺達が負けるのは想定内で俺にここで恩を売っといて懐柔するために仕組んだんじゃねえのか?じゃなきゃこの手際の良さはあり得ねえ。だがそれが事実だとしたら何故俺を選ぶ?腕っぷしの強さなら俺はずば抜けてる訳じゃない。強いだけ。なんで俺なんだろうか・・・)
「どうした?この金を持って帰りたまえ」
「なあ、本当に良いのか?」
「ああ良いさ、これで人命を救えるなら安いものだ。中には億では済まない難病もあるからね。それに物によっては治らないままという物もあるそうじゃないか。治せるうちに治しておくべきだ」
「それはそうだ・・・」
出そうとした腕を引っ込める。瞬間、男は顔をしかめる。
「何故引っ込める?」
「妹は俺の力だけで治す。今回成功してるってんなら躊躇なく貰うけど、それは情けだ。それには頼らないって心に決めた。だから受け取らねえ。帰る。あんたの事もここの事も誰にも言わねえ。だから、もう関わらないでくれ」
そう言って席を立ち後にする。ここはとある廃ビル。依頼主のこの男は地位を失い、ここを根城にしているのだ。
「ふむ、ただの不良かと思えば頭は回るな。あれは磨けば良い手足になると思ったが、些か胡散臭かったかな」
「失礼します」
「お?なんだね」
「先程の男ですが、尾行をさせているのですがいかがいたしましょうか」
「いらん」
「へ?」
「尾行など不要と言ったのだ。あの手の男は義理堅いと相場が決まっている。妹が重篤にならなければ本当に喋ったりせんよ」
「・・・それを待つ・・・と?」
「ヒヒヒッ、そうでありそうではない。あの憎き桐生を潰すには奴が潰したくないと思う手勢を揃えるが定石と考えるのでな。彼が自分からこの金が欲しいと泣きついてくるようにすれば良いのさ。あんなガキ、いくらでも懐柔方法はあるんでな」
その笑みには不気味さが滲み出ていた。
丁度その頃、香坂日和の家では
「先輩、今日も不在だったな。受験勉強教えてもらおうと思ってたのに」
彼女は蒼矢の連絡先を知らない訳じゃない。だが、彼女は家にいる蒼矢に「受験勉強教えてくださいてへっ」という感じのノリで家に転がり込む予定だった。何故なら、受験勉強教えてと連絡すれば家には絶対あげてもらえないと分かっているからである。
「家に入ってしまえばアピールし放題だと思ったのになんの成果もあがらないままじゃん・・・もうどうしよう」
ちなみに内申点もテストも蒼矢の高校は結構余裕で行けるので落ちる心配をしていないから受験期の夏にこんなことを出来ているのである。だが香坂はこの時連絡を取らなかったことを後悔することとなる。蒼矢は偶然にも旅行日程が2日程伸びた為、もっと帰ってこないという事実を知ることが出来なかったからである。
「へこたれてても仕方ない!炭酸でも買って勉強しよ」
彼女は結構頭が良い。こういう切り替えやポジティブ思考は周りの大人に好かれるので近所からの人気も評判。今炭酸を買うと言って出ていくとだいたい2つくらいは何かおまけを貰って帰ってくるのだ。本人はそれを利用しようとは全く思っていない為、近所のおじさん達からはアイドルのような存在なのだ。ほとんどが推しに貢ぐ感覚でおまけ、商品を渡している感覚だ。結果、彼女はおやつ、夜食に困った事が無い。
「それにしても、先輩から魔法教わってみたいな~。私も一緒に空飛びたいなぁ~」
そう言って席を立ち外出の準備をする。
スーパーマーケットに着くと同級生に会い、談笑。近所の人から気をつけるんだよとか声をかけてもらえて楽しく帰路につく。
家まで後2分という所だった。
「ねね、そこの可愛い君」
無視。可愛いとかいう奴はスカウトか下心丸出しの変態しかいないと知ってるからだ。
「おいおい無視すんなよ。こっち向けや」
肩を掴まれ無理矢理に振り向かせられる。そこには
「!!山川?」
「お?お前香坂か。おっひさじゃん、あの泣き虫ちゃんがこんな綺麗になってるとはね」
「話して!あんた少年院にいたって聞いてたけどなんでいるのよ!」
「そんなに嫌がんないでよ。2日前に出たばっか。いやー、外の空気は良いね。自由って感じがする。ったくうっせーな。黙れや」
そう言って顔を殴ろうとする。山川は香坂を小学生時代いじめてた男子。今度は性の捌け口にしようとしていた。
すると香坂に異変が起こる。
ガシッ
拳を止めたのだ。
「はっ?」
「気安くこの子に触るんじゃないよ。豚」
「なんだ?急に変わったような」
「やかましい。黙れ」
そのまま殴り飛ばす。商店街のある方までその距離十数M。いきなり人が飛んできたことに驚いた皆が寄ってくる。
「なんだ?」 「お前、山川か。今度は何をしたんだ!」
「い、いや、俺はあいつをナンパしただけで、そしたら殴り飛ばされて」
「ナンパするお前が悪いだろうが!こいつが何やってたか見てる奴いねえのか?」
「そいつ殴ろうとしてたぞ!」
「てっめえ・・・ぶっ殺してやる!」
「ま、ま、待って!待ってくれ!」
そのまま山川は警察署へ連行。事態はとりあえず収束した。
夜になっても香坂日和は考え続けた。
「なんであの時動けたんだろ。誰かにちょっと代われって言われたらあんな事に・・・」
その答えを彼女は終ぞ知ることは無かったという。




