65話:海
翌日・・・
「晴れた~~!」
「晴れたね」
「海だ~~~!」
「海だな」
「ちょっと蒼矢?なんでそんなローテンションなのよ。折角の海よ?もうちょっとはっちゃけなさいよ」
「だって暑いし」
「近くにこんな良いスタイルしてる女の子達がいるのに?」
「確かに可愛いな」
「ええ・・・それだけなの?」
「うちの姉は弟に何を求めてるんだ・・・」
「まあ良いわ。暑くて耐えられないなら泳いできちゃいなさいよ」
「そうするよ。母さん達も楽しんでて。一通り泳いだら戻ってくる」
そう言って俺は泳ぎに行く。波も穏やかでとても泳ぎやすい。この辺は危険生物が少ないと調査済みなので安心している。一応鮫とか警戒はするけどまあ変な物体とか見えない限りは大丈夫だろう。というより俺に水着を褒めてと言われても一辺倒の返ししか出来ないのにそんなので嬉しいか?
この後ビーチバレーとかするって聞いてるから10分くらい肩慣らしに潜水とかしている。色んな魚がいて並んで泳いでいるこの状況。めっちゃくちゃ楽しい!普段では味わえない感覚に浸っていた。
体内時計でざっと5分。案外遠くまで泳いできた。ビーチは辛うじて見えるけど結構遠い。異世界で鍛えてなかったら泳いで帰るのキツイって思ってただろう。でも今の俺にはイージーモード。無人島からの脱出という企画を最近目にするが、あの距離なら筏とか船作らなくても泳ぎだけでどうとでもなる。問題は、脱水症状だけはどうしようもないからそこを考えるだけか。
さて浜辺へ帰ろうと思ったその時、嫌な予感が下から感じられた。海の中を覗いてみると、鮫が泳いでいる。しかもあれは確か・・・
(ホオジロザメか・・・攻撃的な鮫だったよな・・・なるべく刺激しないようにしなきゃいけないが・・・)
どう考えてもこっちを見ている。俺なら襲われてもどうにか出来るだろうけど、なるべく穏便に済むなら穏便に済ませたい。
それに俺に付いてくるような事があれば、浜辺のみんなも危険だ。どうにか反対方向へ泳がせたいがどうすれば良いものか悩んでると別の方にも鮫が見える。
そこで俺は察した。この位置は鮫が群れを成している場所だと。ここで俺は戦う決心をした。
本来は間違ってもやり合ってやろうだなんて思ってはいけないが、俺には「お前よりも俺は強い」と波動のような物を送れる。前に剣気を放った時と少し違うが似たような物だ。
幸い、今俺は黒い格好をしていない。人間が襲われるのは黒いウェットスーツが獲物に見えるとか、血が出ている場合、その血の匂いを嗅ぎ分けてと聞いた事がある。そのどっちも俺には当てはまらない条件だ。だからこそ生物としての格が上だと見せれば逃げるだろうという魂胆だ。
思った通り、浜辺とは別方向に逃げてはくれたが、あの管理人のおじさんに伝えてこないと。
「ごめん遅くなった。今戻ったよ」
「本当に遅かったわね。何かあったの?」
「ああ。泳いでたら鮫がいてね」
「・・・は?」
來妃を除いた全員の声が被った。
「ちょっと待って!?」
「なんだよ姉貴」
「あんた指とかちゃんとある?」
「見りゃわかるけどこの通り」
「どの辺なの?いたのは」
「あの辺」
「いやごめん分からない」
「とりあえず母さん達は海から出るように声かけてくれ。一応浜辺側とは逆方向に行ったのは確認してるけど、危険だから。俺はおじさんに話してくる」
「分かったわ」
程なくして声かけが始まった。おじさんは一瞬考えこむような素振りを見せたが、迅速に対応をしてくれた。
鮫のせいでビーチは立入禁止。色んな人から鮫なんているのか。遠い場所なんだから構わねえだろ等の声も聞こえるが、俺が取った行動は間違いじゃなかったと信じる。
ちなみに俺達はというと部屋に戻り、どうせならと最後に温泉に行く計画をしていた。
「そういえば、蒼矢。あんた鮫なんて本当なの?」
「本当だよ。群れだったから余計ヤバいと思ったんだ」
「こんな所に鮫ねえ・・・」
猜疑の目で見られる。異世界に行く前の俺なら信じらんねえのか?とか言いそうだが、今の俺は疑う事の必要性を知っている。ましてや本当の俺の事をかけらすら知らない姉貴のこの言動は正解だ。
「信じられなくても仕方ないだろうな。まあ俺が一ヶ所か二ヶ所怪我してんなら信憑性もあったとは思うけどな」
「・・・」
「ん?どうした?」
「いや、なんかごめん」
「なんで謝る。あ、そっか。こっちも軽率だった」
あんまり慣れない。証拠が無いと信じられないだろうからその証拠があれば良かったねっていったつもりだったが"俺の怪我"が証拠は家族である以上良い気分はしないよな。
向こうだと体を張って証拠を掴むことも度々あったから価値観戻さないと・・・
なんてやり取りをしてると部屋のインターホンが鳴る。
「ちょっと出てくるわね」
母さんが確認すると
「あら、誠彦君じゃない。どうしたの?」
「先程の鮫の件で話を聞きたいんだが、大丈夫かい?」
「蒼矢、鮫の事で聞きたい事があるって」
「大丈夫」
「そう、誠彦君。今開けるわね」
へえ、ホテルの支配人のおじさん誠彦さんって言うんだ。
「突然押しかけてしまってすまなかったね。蒼矢君、君に聞きたい事があるんだ」
「なんです?」
「その鮫。見えた範囲で良い。どのくらいいた?」
「そうっすね・・・5はいたかと」
「ふむ・・・」
「5?あんた本当によく生きて帰ってきたわね!」
「蒼矢って・・・なんだかんだ逞しいよね」
「まあ蒼矢らしいというか・・・」
おいこら詩歌、納得するんじゃない。
「やはりな」
「自分も群れだったからあの場所にいる理由が分かったんですよ」
「ああ」
「え?男達の間ではもう問題が解決してるの?」
「ごめん、話が全く見えてない私にも分かるように説明お願いします」
「ああ、そっか悪い。おじさん、俺の仮説だけど良いか?」
「ああ良いよ。恐らく同じ答えだろうから」
「そういう事なら温泉の時間消えるしちゃちゃっと説明すっか。理由は至極単純。豊富な餌があるからだ」
「そ」
「そ?」
「それだけ?」
「ああ。推測が難しいのはなんであの場所に留まってるのかだ。豊富な餌とは言え、本来なら海豹とか膃肭臍みたいな動物がいてくれる場所の方が良いんだ」
「でもここにはいないよ?」
「そう。そんなご馳走はどうひっくり返してもいない。でもな?欲張らなければあいつらは普通の魚で生きていける筈だ」
「そうなの?」
「そうなんだ。事実、あいつらは腹を空かせていたよ。根拠はずっと俺を狙ってたから。北に行こうってした際にこんな所に紛れ込んじまって、また寒くなる時期がくるまでこの辺で耐久してる。そんな所だろうよ」
「流石だね。ほとんど正解だ」
「ほとんどって?」
「一つだけ抜けているんだよ。彼らの天敵は鯱だ。鯱のいる場所は海豹とかがいる場所と被る。天敵がいないけど腹いっぱい食べられない環境と、天敵がいるけど腹いっぱい食べられる環境。彼らは前者を選んだんだ」
「それは知らなかったです」
「逆に言えばそれだけ知っていてそこまで推理が出来てる事に驚きだよ。頭良いんだね」
「よしてくださいよ」
「あらやだお母さん。あの子満更でもなさそう」
「そうね。でも蒼矢カッコいいわ」
「やめろよ照れるだろ」
「でもなんというか消化不良よね」
「そんなあなた達に朗報があるんだが」
「朗報?」
「ここに僕が仕事づきあいで貰ったある宿の半額券がある。聞いてみたら数部屋空いているそうだ。どうだい?送迎するって言ったら泊まりたいかい?」
「え?どこ?」
真っ先に食いついたのは母さんだった。
「ここなんだが」
おじさんが見せてくれた地図を見て俺は目を見開いた。
この宿、今単身赴任してる父さんの家に近い。それに・・・
凸守から言われてた大江山から近い場所にある宿だったからだ。
次回から大江山編になります。




