64話:月に願いを
「詩歌の怖い話が関係してるのか?」
「ああ。あくまでも仮説ではあるけど、そうして亡くなった人の体は分解されてくだろうけど、じゃあ魂はどうなるんだ?」
「それは分からないですね」
「俺も言ってしまえば知らないよ。でも、海流の流れが一点に集まる場所、そこには色々な物が溜まるとは思わないか?」
「海流の流れですか・・・マスターは見えているので?」
「今目視で追おうとしてるが無理だわ」
「私なら追えるかも」
「どうしよっか・・・え?詩歌さん今なんと?」
「いや、私なら魔力で追えるかもって」
「でもそれだと蜃に近づいてますよって事がバレるんじゃ・・・」
「いえ、本当に私達がいるから移動をしたのかの確認にはなりますね」
「よし、詩歌頼んだ」
「うん」
そうして詩歌が目を閉じる。その佇まいは巫女のような雰囲気を醸し出している。
それからすぐに
「蒼矢」
「ん?」
「その仮説当たりかも。流れの終着点が一番多い所に蜃の気配がある」
「マジか・・・」
(こんな早く出来る芸当か?日本の海域にはどれだけの海流が大小合わせていくつあるのか把握なんて出来るのは学者でも一握りいれば良い所だろ。たとえこの一帯だけだとしても情報を処理できる詩歌って俺より優秀なんじゃないのか?)
その後、蜃は次から次へと場所を移動し、一通り回り終えたところで消えた。感覚的にだが、蜃が留まっていた場所は澄んだとでも言うべきなのか、そういった魂を体内に取り込んでは消える時に一緒に成仏させているんだろう。
オカルト的な事を研究する人には魅力的な話かもしれないが、この話は誰にも話さない事にした。第一、そんな人たちでも死者の魂を食うなんて概念は受け入れられないだろうから。ちなみに部屋に帰ると・・・
「遅いわよ!どこ行ってたのよ!」
「詩歌ちゃん大丈夫?変な事されてない?」
等と色んな心配をされてしまったが來妃からは
「お疲れ様」
と声をかけてもらえたからめでたしめでたし。
ちなみにこの時点で時間は20時ちょい前。卓球はまだギリギリ出来る時間だったので、來妃に卓球を1時間くらい教えた。この日から姉貴からの俺への視線が強くなった気がするが多分気のせいだろう。
卓球を教えながら思い返してたこともある。異世界にいた頃、ある街に1ヶ月くらい滞在してた時に、俺の後ろを付いてくる女の子を思い出した。あの子は今どうしているのだろうか。そんな感傷に思いを馳せた。
部屋に帰ると、カードゲームをやっている所だったので合流。疲れた奴からダウンした結果、俺と母さんだけが最後まで残った。
「寝ちゃったな」
「そうね。蒼矢は寝なくて良いの?」
「不思議と眠くないんだよなこれが」
「そう・・・変わったね」
「え?」
「中学生までのあんたはさ?勉強は出来たよ?優秀ではあったけど、女の子を助けるために資金源まで確保してくる、私が何も言わなくても動いちゃうなんて行動的では無かったの。でも、今日見て分かった。蒼矢は高校生になって変わった。私達の為でしょ?あの男の子たちとわざわざ戦ったのって。卓球なんてやってる所を見た記憶も何も無い、運動部にいた訳でもないのに、あんなに出来るはずないわ。こういうイベント事だと最速で寝るような子だったのに強くなったのね。成長したのね。全然気が付けなかった。私、蒼矢の母親で良いのかしら」
「母さん・・・」
そりゃそうだろうな。高校に入って3ヶ月くらいで異世界に飛んでそこで7年を過ごしてきたんだ。どんな猿でも年以上に成長するだろう。でも、母さんは俺の母さんだ。だって
「それでも、こんなに歪に成長した俺にまだ気をかけてくれる。母でいてくれる。得体が知れないとかそんな事を言わずに寄り添ってくれるのは母さんしかいない」
「蒼矢・・・」
「だから泣かないで。母さん」
瞬きのすぐ後に俺に抱き着いてきた。声を殺してたから寝てる3人には気づかれてないだろう。泣いている母さんの頭を撫でる事しか俺には出来なかった。
一頻り泣いた後、疲れたかのように寝てしまった。部屋の電気を消してから窓際に立ち、月が浮かぶ水面を見る。
「いつかは・・・話さないとな」
母さんは思った事をぶつけてくれた。俺も抱えているこれをいつかは話さなきゃいけないと思っている。この気持ちは罪悪感だ。俺は香坂と相楽、詩歌達と母さんや姉貴に線を引いてる。血の繋がりも無い相手に話した事が繋がりのある相手には知られたくないという理由で話せない。
何故だろうか。切っても切り離せない繋がりが一番気の置けない存在の筈。虐待されてたとかなら話は別だけどそうじゃない。なんで、なんで俺にとって家族ってこんなに希薄なんだろう・・・
「家族ってなんだ?」
また考える。俺にとって家族とは。血が繋がっているから?いや、種族が違っても家族を形成していた人達を知ってる。俺達勇者パーティーだってワイワイしていたとはいえあれは親友だろう。俺が思う家族って・・・
「そっか、楽しくなくて良い。会話だって無くて良い。いてほしいから。いてくれるから。それだけで家族じゃんか」
自分が如何にバカバカしい事で悩んでたんだろうと自分を嘲笑う。知られたくないのは当たり前だ。絶対に切りたくない縁だから、切ってほしくないから。例え汚点で無くとも俺が人間をやめたような存在なんて知ってほしくないんだ。
「母さんや姉貴以外にもそんな存在って俺に出来るのかな・・・」
小さい頃、俺は告白をした。それを心底嫌そうにされ、周囲に言いふらし、姉からまでも糾弾された末路を辿った存在が俺。俺は普通に考えても優しい方だ。甘い人間だ。そんなところにつけ込む女しか俺の近くにはいない。姉貴とか東雲が代表格だろう。伊藤はつけ込みこそしないが、基本女と密接に関わりたくない俺にグイグイ来る。本当にやめてほしい。まあ、相楽とか土御門とやり合った時には信じてくれたみたいだからそこは有難かったが。ハニートラップ目的だった相楽や堂本。堂本に関してはド直球すぎてトラップと呼ぶにはお粗末だが。詩歌は俺が関わろうと思った相手だから除外する。やっぱり俺を甘やかしてくれる女性っていないな。
もう叶わないと知ってるからライラは諦められる。でももし、もしもあの世界にいけるとしたらその時俺は・・・こっちに残るだろうか。
そこまで考えて俺は水面の月じゃなく空に浮かぶ月を見て願う。
どうか、向こうの世界とはこれっきりにしてくれと。
次回、女子共のお話。




