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63話:得るものあれば失うものもある

久しぶりの更新です。

「やっと出てきた。そんなにあの浜辺までって時間かかるものだっけ?」


蒼矢の姉、沙羅は部屋の真下に位置する浜辺を見ながら呟く。


「こんなはずじゃなかったんだけどな・・・蒼矢、詩歌ちゃんの気持ちに気付いてあげられないの?同性の私から見ても気合いの入ってる水着だよ?なんとも思ってない男の子にここまではしないよ?」


今回の旅行、実は詩歌の為と言う裏の計画が蒼矢の知らない所で密かに画策されていた。スタイル良くて綺麗な女の子と2人きりで遊んでるというのに"女"を意識しているとは到底見えなかった。


「普通なら紳士的で良いの。でも、あんたにはあんな過去があるじゃない。それのせいで恋愛に奥手になってるって言うのは理解してる。でもさ?あれはもう本当に昔の事じゃない。9歳だったっけ、あんな女は希少種だって何度も言ったじゃない」


彼女の脳裏には古い記憶、9歳の蒼矢がキョトンとした顔が映っていた。


「カラオケ行った時、上手かったよね?來妃ちゃんも詩歌ちゃんもどんな過去があったのかを全て聞いたわけじゃないとは思うけどさ?そんな彼女たちを救ったのは他の誰でもないあなたよ。その行動力とかの代わりに恋愛を犠牲にしたって事?やっぱり私のせいなのかな・・・」


蒼矢(おとうと)を見る沙羅(あね)の顔はどこか悲しげな様子だった。















それは遠い日の記憶・・・


「今日こそ・・・」


他クラスの授業終わりを待つ一人の小学生の男の子が立っています。


「キリッツ、れーい」


教室内から聞こえてくる授業終了の合図。そのすぐ後に聞こえてきた「さようなら」という言葉を皮切りに、勢いよく男子生徒が飛び出してきます。


何人かを見送るとある女子生徒が教室から出てきました。この男の子はそれを待っていたのです。


「りほちゃん」


「ん?あ、そうやくん。どうしたの?」


「話があるんだ」


「なーに?」


「ここじゃ言えなくてその・・・ちょっと付いてきて」


りほと呼ばれた女の子はきょとんとした顔をして


「いいよ」


と言う。


二人はやがて誰もいなさそうで来ないだろう場所へ行き


「で?話って?」


「俺、りほちゃんが好きだ!」


「・・・え?」


「だから、俺は、そうやは、りほちゃんが好きなんだ」


二人はとても仲が良く、そうやくんのお姉さんもりほちゃんとは仲良しでした。だからこの告白を受けてもらえるとそうやくんは思ったのです。


りほちゃんの方はと言うと、固まってしまったかのように目をパチクリさせるだけでした。


そうやくんは様子がおかしい事に気付いて少し近寄って声をかけました。


「りほちゃん?」


すると彼女はこう言ったのです。


「は?なにいってんの?」


彼は初めての失恋をしました。学校内では特定の男子と同じくらいの友達だった女の子にフラれ、とても悲しみました。


でも・・・本当の地獄はこれからだったのです・・・


りほちゃんはあろうことか、そうやくんに告白された事実を嫌な事をされたと周りに言いふらしました。その話はお姉さんにも行き、りほちゃんは直々に叱ってほしいとお願いしました。姉は人が嫌がることをしてはいけないと言いました。


そうやくんはその言葉を心に刻みました。クラスの人からも笑いものにされ、女子からは冷たい目線を浴びた彼はこう考えたのです。






()()()()()()()()()()()()と。


















浜辺に出て20分が経った頃


「詩歌、今蜃はどうしてる?」


「私の感知で良いなら止まったところだよ」


「そうか・・・姉貴がいなくなったら即座に向かうとするか」


「オッケー」


蒼矢と詩歌はこのタイミングで陽が沈んだと判断し、海からあがって浜に座っていた。


「でもさ?」


「ん?」


「私達って、傍から見てると恋人に見えるんじゃない?」


「どうだかな。顔の似てない兄弟ってのがオチじゃないか?」


「それよりは恋人の方が一般的だと思うなー」


暗くなっている浜辺に座る一組の男女、詩歌の言う通り恋人に見えてもおかしくはない。気付けば姉はこちらの様子を見なくなっていた。


「それじゃ、動き始めるかな。ベラ、ハダル、リッタ、グロニス、準備は良いな?」


「うん」


「はい」


「いつでも」


「おう」


「よし、そんじゃ行くか。詩歌は俺が連れていく。今回ばかりは俺じゃ分からないから先導頼んだ」


「ねえねえ」


「ん?どうした詩歌」


「私を連れていくってどうやるの?」


「ん?抱き抱えても行けるし、お姫様抱っこでも行けるけど」


「お姫様抱っこを所望します」


「はい、所望されました」


そう言ってお姫様抱っこをするとリッタがぶつぶつ独り言を呟いていたがなんて言ってんのかよく分からない。


今回は人間には見えないようにする隠密と、自分達の存在を限りなく薄くする技を使う。こうでもしないと蜃にはこっちの位置があっさり捕捉されてしまうだろうと考えたからだ。


さて、空を優雅に飛び、鳥を遙かに超えるスピードで飛行をする俺だが、その間ずっと考えている事がある。それは、リンとかが言ってた言葉。ただの現象にすぎない。必要だからそこに現れるのだという言葉だ。


そんな巨大怪異が出しゃばる必要があるような必要性ってなんだろうか。異世界の知識から行くと特定の植物が大繁殖するとか、とにかく危機に関わる事だろうと推察する。


だが、これは俺の本能が否定を突きつけている。そんな単純じゃないと。海上に発生する蜃気楼にも名を使われる怪異がこうして出てくる目的・・・それに、矛盾点があるとすれば、今になって思えば蜃が移動した理由の仮説だ。


あくまでこいつは現象。なのに、俺達みたいな化け物が近くにいるからって逃げるなんて行為があるのだろうか。竜巻は俺みたいな奴がいようと消える訳でも、逃げる訳でもない。ただ推進力の限り移動をするだけに過ぎない筈だ。それに、逃げるなら俺達が到着してすぐに逃げるはず。だとするなら・・・?


ダメだ分からん。考えるだけ無駄と見た。接触してみれば分かるだろう。


「マスター、後10分程で接触します」


「了解だ。ありがとう」


「あ、そういえばさ?」


「ん?」


「あのホテルの近くに昔さ?有名な自殺スポットがあったらしいの」


「詩歌よ。何故そんな話を今するのだ」


「ごめんなさいベラさん」


「ふーん・・・」


自殺か・・・物騒な場所もあったもんだな。


・・・そうか、そういう事か!だとするなら俺達はあいつを倒しちゃいけないんだ!


「みんな、聞いてくれ。分かったぜ。蜃が現れた目的が」


「どういう事です?」


「あいつは、蜃は恐らくだが海の自浄作用なんだよ」


「自浄作用?どういう事か説明してくれマスター」


「ああ。今から俺の仮説を話す。そしたら俺の結論に納得してくれるはずだ。蜃は倒しちゃいけないってな」

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