61話:蜃
「蜃?蜃気楼とかの蜃?」
「うん。間違いなし」
「蜃って確か・・・オオハマグリって言われる奴か。なんでこんなところに?」
「來妃分からない」
「だよな」
ここで思い返す。リンもムーも言ってたっけか。「人間には分からない」それと「それはそこに存在する現象みたいなもの」って。
でも、俺にはただの現象だとは思えない。何を隠そう、そこにいきなり現象が発生する訳が無い。何かがあった、あるから現象は起こるんだ。
となればそれが発生したのは何かの知らせと考えるのが一番か?
「すまん、少し出かける」
「うん、いってらっしゃい。何か分かったら教えてね?」
「ああ」
俺は自分の仮説が正しいかを確かめに行くことにした。
ピンポーン
ホテルの部屋にはそれぞれベルが付けられており、それを鳴らすと部屋の人に来客だと知らせるシステムになっている。
「マスター、今開けますので少々お待ちください」
向こうにはこちらが見えているのだろうか。そんな声が帰ってくる。
ガチャリッと扉が開くとそこには着物を着こなしているリッタがいた。控え目に言っても可愛いし綺麗だ。
「悪い、いきなりお邪魔しちゃって」
「お気になさらないでください。みんないるので先に座って待っていてください。すぐにお茶をお持ちします」
「気にしなくて良いよ、押しかけちゃったのこっちだし。それに時間もあんまりないからすぐに本題に入りたいから」
「左様でございますか。では共に行きましょう」
そうして一番広い部屋に通され、一瞬絶句した。
「蒼矢様、ようこそ」
「主人、日本の宿というのは快適だな」
「こんな心地の良い部屋など怠けて下さいと言ってるようなものではないか。全くもう、けしからんぞ」
「寛いでんなぁ、嬉しそうで良かったよ。後グロニス、言ってる事とやってる事が一致してないからな?」
「まあそれはそれとしてだ。マスター、何の用だい?」
「ああ、皆が言ってた不穏な気配についてだ」
「やはり」
「ま、そんな気はしてたな」
「マスターが焦るご様子などそのくらいしか無いとは思いましたが」
「なんというか・・・思った通り過ぎてつまらん」
「え・・・何その反応・・・俺ってそんな分かりやすいのか」
普段はあんなに優秀なのにここに来てポンコツモードの使い魔たち。とりあえずはリン、バハムートに会った事と、來妃から蜃っていう怪物だと聞いたと話した。
「あの古代龍が来ていた・・・そして貝・・・でございますか?」
「ああ、そう言っていたけど」
「詳しく知らないから根拠のない物ではあるが、貝では無いと思うぞ?」
「ハダルもグロニスもそこに疑問か。ベラとリッタは?」
「私も貝では無いに一票」
「マスターのご意見を否定する事になりますが同意見です」
「てことは・・・來妃が間違えたって事?」
「來妃というのはあの時の蛇ですよね?」
「ああ。今は人化している」
「ふむ・・・ちなみにですが詩歌はなんと?」
「あいつは感じはするみたいだけど正体に関しては特に何も」
「ふーむ・・・そうでございますか。とりあえずはこちらでも調査はしていますので蒼矢様は一度ご家族の方に戻られては?」
「そうだな、一度戻るか。悪いな。こんな話しちまって」
「いえ、情報提供をいただけたのでお気になさらず」
「そう言ってくれると助かるよ。そんじゃな」
「はい、またお会いしましょう」
そして蒼矢は自室へと戻っていった。
「マスターは行ったか?」
「ええ」
「そうか・・・なら問うぞ?さっきの話、不審な点無かったか?」
「おや?グロニスも?」
「ハダル、グロニス。お前ら一体何を」
「すみません。私は特に不審に思いませんでした」
「いや、仕方ないです。これは些細なことなので」
「ああ、言っちまえばそうだが重要でもある」
「もったいぶらないでさっさと教えてくれないか?」
「ベラはせっかちですね。では言いますか。先程、詩歌は感じ取れはしたけども何かまでは分からないと蒼矢様は言ってましたね?」
「ああ。それがどうした?」
「彼女は今や九尾の妖狐、我々からすれば脅威ではありませんが、この世界の物怪の序列で言えば最高位です。そんな存在が蜃の正体も把握できていない・・・伝承は我々よりも把握しているのにそんな事あり得るのでしょうか」
「・・・言われてみれば」
「確かに、少々不自然ですね」
「ここからは私が話そう。それに加えてもう一つあるんだが、本当に正体が分からないならこの蜃という怪物をもっと不気味に思うはずだ。さっき卓球をしていたのを見かけたが、全くそんな素振りも怯えも微塵も無かったように見えた。詩歌、彼女は何かを隠しているのではないだろうか?というのが疑問だ」
全員が黙る。僅かな静寂の後、リッタが切り出した。
「私には、私には彼女が悪意を持ってマスターを騙そうとしているとは思えないです」
「リッタは全く・・・誰も彼女に悪意があるなんて言ってないだろ?その理由を聞く為にどうするかを話し合おうぜ?」
「え?」
「リッタ、私もグロニスも彼女の人柄は存じています。だからこそ、理由が聞きたいのです。どう考えてもこれは蒼矢様の為にはならない行動です。なのに何故それをしたのか。それを聞きに行くだけですよ」
「そう・・・ですね」
「そうすると、家族旅行で来てるんだから一人になったところを狙うしかないか」
「ええ、なので」
ハダルの案を聞いた3人は
「これなら!」
「なにも不自然な事無く接触し」
「マスターも知らないうちに聞き出せる!」
「異論は無しですか。では、作戦開始といきますか」
時刻は17:50。夕飯のビュッフェ会場が開くまで後少しであった。
「そう・・・特には何も・・・か」
「ああ。結局は分からずじまいに終わったよ」
「うーん、貝って言う所に疑問を持たれただけか・・・」
「こんな事ならもう少しそういった関連の事調べておくべきだった」
なんとか母さんたちが戻ってくる前に戻ってきたわけだが、もう考えるのすら面倒なほどに情報が無い・・・てか、姉貴と母さんゆっくりじゃないか?もう30分は入ってるぞ?
「まだ明るいし海の方行ってみるか?」
「敵情視察ってやつ?」
「情ではなくないか?それを言うなら敵地視察だろ」
「随分とバレやすい視察だね。じゃあさ?夜ご飯食べた後に二人でいこっか」
「お、良いじゃんそれ」
「來妃もいく」
「はいよ。母さん達も付いてくるって事になると慎重にやんなきゃいけないからそこんとこ宜しくな」
「うん。ん?」
「どうした?」
「ちょっと外出てくるね」
「おけ」
そう言って詩歌が出ていって20秒くらいかだろうか。母さん達が帰ってくる
「ただいま~」
「おかえり、ゆっくり出来た?」
「まあね。それより、詩歌ちゃんどうしたんだろ。なんか慌てた感じだったけど」
「さっきいきなり外に行っちまったから。何か忘れものじゃねえの?」
「あら、大丈夫かしらね」
「・・・ところでさ?そこに横たわっている女体は何なの?」
「見ての通り、のぼせたお姉ちゃんよ」
「我慢大会なんてしなくても・・・」
「良いじゃない、あんまり温泉なんて入れないんだし堪能してくれれば」
「それもそっか。おーい、生きてるか~?」
「・・・だからよ、止まるんじゃねぇぞ・・・」
「その手には乗らねぇよ!?」
元気そうで胸を撫でおろした俺だった。
「さっきのニオイは・・・間違いない・・・」
私は一心不乱に駆け出していった。妖狐という種族にとっては秘宝扱いされる物の気配がこのホテルで感じ取れたから。
「久しぶりにお目にかかれるのね・・・今度こそ、今度こそ手に入れてやるわ!」
蒼矢には悪いけれどこんな事知られたくはない。だから置いてきちゃった。いち早く、誰よりも早く見つけ出す。
「伝説の・・・油揚げ!!」
はい?そんな声が聞こえてくるような気がする。でも、私には重要な事なの。この油揚げは拘った製法でしか作られない代物、母からは1日に100枚の生産が限度と聞いていた。時には1日30枚とも。元々は私達妖狐が化けている事を確かめるための罠だったらしいけど、あまりの美味しさに途中からは嗜好品のような扱いを受けている超一級品。市場には殆ど流通せず、妖狐の中ではこれを食べられるものはそれだけで尊敬の対象になるとも。そんな事は望んでないけど、それだけの一品なら食べてみたいと思うのは仕方ない。だからこうして探している。
そして周りを見渡して気付いた。
「人気が・・・まさか!」
「本当に上手く行くとはな」
「ハダルもとんでもない事を考えるのぉ」
「お褒めの言葉は嬉しい物です」
「どんな怪人も欲には勝てませんでしたか」
「え?あなたたちは蒼矢の・・・」
「ええ、詩歌さん、貴方に聞きたいことがありましてね」
「聞きたい・・・こと?」
「あなた、何故嘘などついたのです?」
「嘘?」
「蜃の正体・・・分かっておられるのでしょう?」
「・・・・」
「攻めている訳ではありません。ただ・・・あの方の実力を知っていながら何故隠すのか・・・それを聞かせていただきたいだけです」
「・・・隠すも何も本当に知りません」
「これを見ても同じ事が言えますか?」
「そ、それは!!」
「あなたが部屋を飛び出してでも欲しかった一品です。あなたが正直に言ってくれるなら・・・これをお渡しするのですがね」
「うっ、食べたい、味わってみたい、でも・・・」
「あなたの掴んだことを話せとは言ってませんよ?何故隠すのか・・・それだけで良いんです」
「本当に・・・それだけ?」
「はい」
「・・・ます」
「ん?」
「言います!言うからそれください!」
「ホホォ、であればまずは聞かせてもらいましょうか」
「実は・・・」
食欲と好奇心には勝てず話してしまった。
「なるほど・・・來妃から聞いた貝と違ったために、混乱を起こさないように・・・ですか」
「はい。この際だから言いますけど私が感じたのは・・・龍なんです」
「・・・へぇ」
「私はそんなに自分が強いなどとは思っていません。私の感覚に自信があるわけでもない。だから、混乱させたくなくって・・・」
「であれば言うべきことは2つですね。一つ目は正直に話してくれてありがとうという事。二つ目は、あなたはもっと自分を誇ってくださいという事です」
「え?」
4人は顔を見合わせてこう言った。
「我々が感じたのも同じく龍だ」
長くなってしまいました。この蜃の秘密もそろそろ明らかにしていきます




