60話:再開と変化
部屋に帰ってから思い出す。
「あ」
「どうしたの?」
「來妃に卓球教えるって言ったのに教えてないじゃん」
「後でも、大丈夫」
「來妃ちゃんは我慢出来て偉いのね。夜に出来るかな」
「さあな、それは支配人に聞くしか無いだろ」
「それもそっか。それじゃお風呂の準備でもしようかな」
ふむ。ここに来てから少し経ったがベラ達の言う不穏は特に感じない。あいつらがこんな事で嘘を俺につくとは思えないのだが、あいつらが感じた気配ってなんなんだろうか・・・
そんな事を一人で考え唸っていると別の疑問が頭に浮かんだ。
「あれ?そういえば俺ってどの部屋で寝るんだ?」
「ん?ここに決まってんじゃん?」
「・・・マジ?」
「マジよ。詩歌ちゃんと一緒に寝られるのがそんなに嬉しいの?」
「え?そうなの?」
「まあ嬉しくないわけじゃないが良いのか?男がいて。俺いなかったら4人で寝れるぞ?」
「そんな事言ってじゃあどこで寝るのよ」
「そういわれると何も答えられねえ」
「私の事は気にしなくても良いよ?」
「來妃も、攻略対象?」
「君はそんな言葉どこで知ったんだい?」
多分あの女だろうけど。別に理性を削る戦いをするつもりは無いが、この部屋で寝るとなるとあいつらが動いた時に俺も動けないから出来る事ならどっかで抜け出したいが・・・
あれ?家族旅行なのになんであいつらを手伝う事ばかり考えてるんだ?俺がいなくともあいつらならどうにかしちまうだろうに・・・俺にとって家族ってそんなに希薄な存在だったか?いや、そんな筈はない。あの世界から帰ってきた時にはやっと家族と友達に会えるって思ってたはずだ。俺にとってはあの旅を最後まで歩いて物語を紡ぐ原動力だった。なのに・・・家族を感じられるこのイベントを何故こんなに楽しめないのだろうか・・・
「蒼矢?大丈夫?」
「へ?あ、ああ大丈夫」
「そう?何か考え事してたでしょ。詩歌お姉さんに話してみなさい」
「あれ?同い年じゃなかったっけ」
「お姉さん、そういう所はツッコまないのが礼儀です」
「ま、とりあえず大丈夫だ。心配かけて悪い」
「・・・そっか。なら良かった」
そこへ母さんが戻ってきて俺達は温泉へ向かう事になったのだが、俺の予想だにしない事が待ち受けているのであった。
「それじゃ蒼矢、ゆっくりしてくるのよ?」
「オッケー。そんじゃ」
「うん」
暖簾をくぐると2人分の着替えが置いてある。こんな時間から温泉か。分かってる暇人てのは凄いな。おい誰だ?お前もだろとか言った奴。先生怒らないから出てきなさい。
とりあえず服を脱いでふと鏡に映った自分の姿を見る。転移前とは違ってただの痩せ型じゃない肉体。本当に頑張ったんだよなって思う。
いざ浴場へ行くと聞いた事のある声が聞こえてくる。
「いや~、温泉ってのはあったかくて良いね~」
「ふっ、この心地よさを知らないなど怠惰の極みであろう」
「毎日ここにいたいな~」
「えーっと・・・リン?」
「あ!蒼矢やっと来たんだね。この温泉良いよ~」
「それはそれはようございますな。聞きたい事はあるが、とりあえず体洗ってくるから待ってろ」
「うん。待ってるね」
聞きたい事その一、何でお前はここにいるねん。お前ここに泊まってたっけか?
その二、横のイケメン誰やねん!怠惰の極み?イケヴォで言ってるそいつは一体どこのどいつ!?
その他もあるにはあるがこの二つは聞かせてもらいたい。
洗い終わって浸かる。あ、良い温かさ。この温泉好きかも。
「さて、なんでこんなところでゆっくり温泉に入ってるんすかねぇ、自称神さん?」
「自称は酷いなあ。蒼矢がここに泊まるって聞いたから僕も来てみただけ」
「ちなみにどこからこの情報を?」
「たまーにこの世界見に来るからその時に」
「そうなのかぁ、さよならマイプライバシー。さて、横のイケメンは何者なんだ?」
「・・・分からない?」
「さっぱりわからん」
「だから言っただろうリントヴルムよ。私のこの状態ではあちらしか知らなければ分からないだろうと」
「そうみたいだね。蒼矢。バハムートって聞いて分からない?」
「バハムート?竜の名前みたいな感じ・・・バハムート!!!?は?え?お前、ムーなのか!?」
「アッハッハッハ。その呼び方をするのはソウしかいなかろうな。久しぶりよの我が盟友よ」
「いや、本当に久しぶりだけどよ・・・え?お前世界渡れたの?」
「いや、リントヴルムの力無しでは不可能だ。今回はリントヴルムが行くというのでな?付いてきたにすぎん」
「へぇー、てかお前人化するとそんなイケメンだったのか。イケメンは悪い文明、排除する!!」
「我は何故排除されなければならんのだ?」
「あ、ネタです。とりあえず顔面偏差値30分けてくれ」
「ソウは顔立ち良い方なのだからそう僻まなくても良いと思うぞ?」
「こいつ・・・性格良いから憎むに憎めない・・」
「やっぱ蒼矢は面白いね。一緒にいて楽しいよ。そういえばさ、不穏な気配の正体は掴めたの?」
「それも知ってんのかい。いや、全然だわ」
「ふーん、そうなんだ。良かった」
「我も安心したぞ」
「・・・はい?なんで?」
「え?だってこの気配人間だと絶対に分からない物だからだよ」
「リントヴルムの言う通りだ。これで証明されたのだ。お前は人間離れはしているが人間はやめてない事がな」
「は?イマイチ分かんねえんだが?」
「そうだな、どう説明するべきか・・・」
「こう言えばよい。ソウよ、お前に感じ取れない気配が何故私やソウの使い魔たちは分かるのだろうな?」
「それは・・・いや、待て。それなら生まれた世界が違うからじゃないのか?」
「なるほどな。ならばソウの近くにいる人外の者に聞くがよい。それで分かるだろう」
「ムーはリンから聞いたんだな?まあ聞いてはみるけどよ・・・ダメだ。知恵熱出そう」
「考えても無駄だ。このような類はな?何故そこにいるのかなんて分からない。強いて言うなら必要だからそこに現れたただの現象なのだから」
「考えても堂々巡りって訳か。なら考えるのはやめだ。温泉堪能しよ」
「それが良い。リラックスも必要であろう」
そのリラックス奪ってるのはお前らだけどな?っていうツッコミはいれなかった。
「それじゃまたね」
「また会おう、我が盟友!」
「おう、またな」
そう言うと光の中に消える。
温泉を出て部屋に戻ると詩歌と來妃がいた。
「あ、蒼矢。温泉どうだった?」
「良かったぜ。詩歌、聞きたいことがある」
「うん。どうしたの?」
深く息を吸ってから口を開いた。
「この近くにお前はなにか感じないか?」
「・・・言っても良い?」
「ああ」
「濃い気配は感じる。そこの海だけど」
「そう・・・なのか」
「蒼矢は感じないの?」
「ああ。俺には分からないんだ」
「珍しいね」
「來妃、これ知ってる」
「マジか」
「うん。お兄ちゃんには分からないのに、詩歌お姉ちゃんには分かる。來妃にも分かる。この気配の正体は」
一瞬、静寂に包まれた後に來妃はその名を口にする。
「蜃。とっても大きい貝だよ」
來妃ちゃん、実は頭いいのだ




