59話:俺、運動神経抜群なのかも
「はい!」
「ふっ!」
「おらよ!」
「あぁ~~~~」
「母さん、頑張って球返してよ」
「いや、蒼矢の球が速いし低いだけだと思うけど」
「私も同感です」
「來妃もやる~」
「お、じゃあ教えてやるからやるか」
「うん」
今俺達はホテル内にある遊技場で卓球をやっている。他にも10年以上前に稼働開始したであろう筐体や知る人ぞ知ると言われるようなレトロ格ゲーなど色々揃ってる。
やっぱこういうホテルって凄いな。後で一通り制覇するか。なんて思っていたのだが
「へぇー、家族で仲良く卓球か」
「俺達もやりたいんだけど良いっすかね」
「あ、どうぞ」
と言って母さんが譲ろうとしたのだが・・・
「おいおい、この人なんも知らねえのか?こういう場合はそれぞれの代表者がぶつかって勝った方が使えるに決まってんだろ」
「ハハハ、まあしゃーねえよ。そこの男からしてあまりやってなさそうだし」
あれ?そんな弱肉強食制度なんてあったっけ?だってピンポン玉潰したくないし。
「え?そんな話聞いた事も無いんですけど」
母さん。あなたは正しい
「世間知らずなんじゃね?」
「一体どうされましたか?」
「ん?フロントのおじさんじゃないっすか。ちょっと譲ってって言っただけなんすけど譲ってくれなくて」
平気で嘘つくってマジ?お願いだからそれでなくとも低い人類の平均点下げるのやめてくれん?
「ふむ、最初から聞いていましたが何やら喧嘩をふっかけに行っていたようにしか見えませんでしたが」
「んなの知るかよ!」
面倒だな・・・そんなに恥かきてえならかかせてやろうかな。
「ねえお兄さん」
「あ?」
「あんたの流儀に乗ってやっても良いぜ?」
「ちょっと、蒼矢!」
「てめえ・・・全国4位の俺とやろうってのか?あ?」
「4位っすか。1位じゃないなら余裕っすね」
「こんのクソガキ!叩き潰してやるよ!」
またニヤニヤしてる詩歌はほっとこう。姉貴は頭抱え始めてるし。ま、二人は知ってるよな。俺の球技の実力は。
「どうしてこんなことに・・・ルールは15点マッチ、デュースは無し。サーブ2回で交代。宜しいですね?」
「ああ」
「はい」
「ゲームスタート」
「おうさっさと打てや」
「では遠慮なく」
狙うのはカットを使ったサーブ。それも相手の陣地に落ちた瞬間に曲がる奴。こんな奴相手にゆっくりとラリーなんざしてやる道理はこちらには無い。何を隠そう、これは一つの物を取り合う戦い。こちらにはそれに家族の団欒という物もかかっている。こんな事になってる時点で守れてねえだろって言われても仕方ないがそれでも奪われるわけにはいかない。つまるところこの勝負は
「ただの殺し合いだよな」
「あ?何を言」
男がそう言いかけた瞬間、見ていた者達は目を見開いた。コートに立つ者は何が起きたのか理解出来てない。
それは人間では追う事が不可能な魔球。自陣のコートに落ちてから2回目の着弾までに動きはない。真っすぐに進んでいるように見えた。しかし、相手コートに落ちた瞬間。いや、視認できたものはいないから正確にはどのタイミングで曲がり始めたのか、何が起きたのか知っているのは蒼矢だけだろう。曲がった球は左端ギリギリに着弾したのだ。こんな動きは予めそっちに行く事を知らない限り不可能だろう。世界のトップを走る選手なら一回は対応出来るだろうか。少なくとも、一国の中で4位。しかも全国な訳が無いような人間では良いように遊ばれて終わりだ。
同じような方法でサーブを打つ。相手のサーブはネットすれすれでない場合は豪速球になって帰ってくる。
12点を連取した時だった。
「おいタカ、もうやめようぜ。勝てねえよ。時間が勿体ねえ」
「そうだな・・・これは負けを認めるべきだ」
「うるせぇ!まだ3点ある。まだだ、まだ行ける。まだ勝てる」
「マジで言ってんのか・・・」
「少年、こいつを潰してくれ。今のこいつは調子に乗ってる。こいつを正せ」
「黙れ」
「る・・・は?」
「黙れと言っている。元よりそっちが売って来た喧嘩だろ?俺がきちんと買ったからそれをとやかく言うつもりは無いが、売った喧嘩を自分から勝てないからとなんの代償も無しに反故にさせる気か?ラブゲームってだけで恥なんだ。これ以上は恥かかせてんじゃねえよ。俺は毛頭から負ける気はねえし、正す?お前らがほっといたからこうなったんじゃないのか?なぜその責任を俺が負わねばならない?お門違いも大概にしろ。お前らもこれ以上の恥はかかないようにしたらどうだ?負け犬共」
「てめぇ!」
「やめろ、正論だ。勝負の最中に口を挟んでしまった事も謝罪する」
「心配しなくともすぐに終わる。大人しくそこで見てろ」
相手に向かい直すと血の巡りが良すぎるのだろうか。とんでもなく顔を赤くした鬼の形相をした男がいる。家族がいなきゃ笑ってたところだ。自分が蒔いた地雷をよくもここまで回収できるなと嘲笑したいところだがそれでは綺麗に勝てない。さっきの台詞はなかなかに恥ずかしい。姉貴はいじってくるだろうから他から何も言われないようにしないと。
3点のうち2点は俺のサーブ。1点くらいは真面目に戦うか。真面目にと言ってもカットとかスライスは使うから4位なら拾えるだろう。
なんて思ってた俺が馬鹿でした。大会で勝ち進むのにこの球に反応できなきゃダメでしょっていう局面でミス。ラストは相手のサーブだったけどスマッシュ打ちやすい位置に来たから打ち込んで終わり。
「負けた・・・負けた?・・・」
呆然って感じだな。一応4位ってプライドはあっただろう。それが完全に消え去ったのだ。この反応も仕方ないだろう。
ちなみにだが取り巻きはと言うと
「大丈夫か?帰るぞ」
「ああ、今日はもう帰ろう」
という感じなのでもう大丈夫だと思う。
帰り際に「クソ野郎・・・覚えてろよ?」と取り巻きから言われた時には言う人が違うんですが・・・とツッコミを返しそうになった。
蒼矢!
その声が少しずつズレて聞こえてくる。一人だけお兄ちゃんと呼んでいたが來妃だとすぐ分かる。
「みんな、とりあえずこれでだい」
「バカ!!」
「母さん?」
「こんな無茶どうしてしたの!それで喜ぶとでも思ったの?無事で良かった。本当に・・良かった」
「えっと、心配かけてごめん」
「ばか」
・・・忘れてた。心配してくれる人いたんだっけ。いや、正確には心配はしてくれるんだけど結局俺でどうにかしなきゃいけないからこんなに泣いてくれる人の存在がどこか懐かしい。
「蒼矢、お疲れ様。かっこよかったよ?」
「詩歌、ありがとうな」
「うん。カッコイイ」
「來妃もサンキュー」
「随分と偉そうに痛い事言ってたじゃない?黒歴史なんじゃないのかなぁ~?」
「その通りだな。こんな事はこれ以降姉貴の前ではしないから今回は許してくれ。すまない」
「え?なんで謝るの?」
「俺が勝手に喧嘩買ってあんな事言っただけだから迷惑しかかけてないし。気に障ったようだから謝らなきゃなって」
「あ・・え?そんなつもりじゃ・・・」
「と、とりあえずはお風呂でも入りに行きましょうか!蒼矢も疲れたでしょう?さあさ、部屋に行って先に準備してて」
「おう」
「うん。それじゃあ行くか」
母さんと離れて俺達は部屋へと戻った。
「あれが蒼矢君か」
「うん。私の息子よ」
「話には聞いていたが随分とやんちゃなようだ」
「恥ずかしい限りよ」
「ふーん・・・あれを恥ずかしいと思うのか君は。男として言わせてもらうよ?彼の行動は褒めてあげるべきだ」
「それは分かってるわ。でも」
「本当に君は高校の頃から変わらないね、人の目を気にしすぎだ。事実としてね?あそこで彼が矢面に立つ必要は無かったんだよ?でもね?あれだけの力があるならああするのが最善の手だってすぐに判断したのさ。彼は優秀だし良い子だと見るべきかな。ちょっと痛い言動はあったにせよあれは所詮演技。君達を守ろうとしての芝居だろうね」
「そう・・・なのかな。私ね、怖かったの。なんだか今までの蒼矢じゃなかったような気がして。あそこまで自分から動こうってする子じゃなかったの。あ、ごめんね?こんな話しちゃって。それじゃもう行くね」
そうして一人取り残された支配人はその背中に聞こえないように言う。
「それは危険なんじゃないのかい?今までじゃないなんて言うのは。君があまりに子供を蔑ろにしていると見なされても文句は言えないよ?僕からすれば君が蒼矢君を理解してあげられていないとしか思えない。思春期の男子は些細な事で変化してしまう生き物さ。早めに話をしないと・・・取り返しのつかない事になるかもしれないんだよ?」




