58話:世界は違えど
「ヴィーラ、蒼矢は元気でしょうか」
「ライラ様、あれから数ヶ月が経ったのですよ?その台詞毎日3回は言ってるじゃないですか。私も心配なのが正直な所ですが」
「だってだってだって、あんな危なっかしい人を心配しない方がおかしくないですか?はぁ~、帰ってきてくれると嬉しいのですが」
「もはや恋人じゃなく母親のレベルで心配してますね。リンに頼んで会わせてもらえば良いのでは?」
「それはダメ!困った時にしか会わないって私デカデカと宣言したんですよ?なのに反故にするなんて一国の王女ともあろう者がしてはなりません!」
「・・・本音は?」
「これでも年上なのに寂しいから会いたくなったなんて恥ずかしくて言えないです」
「正直でよろしい。とは言っても、まだこの国も世界も安泰には程遠いので勇者の力は借りたいというのが本音ですが。剣交えても楽しい相手があんまりいないので是非とも蒼矢と剣を交えたいですね」
「それが最大の理由ですか・・・分かりました。ヴィーラがリンに頼んでください」
「嫌ですよ恥ずかしい」
「やっぱりそうなんじゃないですか~~~~」
「失礼いたします。姫様、そろそろ議会のお時間ですのでご用意を」
「今行きますわ」
「爺は扉の外でお待ちしております。本日は部屋が異なっておりますのでお連れ致します」
「分かりました。ありがとう爺」
「いきなり出来る人っていう雰囲気出してきましたね」
「ヴィーラとかディールみたいに弱さを見せても大丈夫な人の前以外ではしっかりしますとも」
「流石でございます。ライラ王女」
「え・・・怪しい人になったんですけど・・・気持ち悪い」
「最大限に敬意を払ったらその反応って酷くないですかね」
「とりあえず着替えるのでまた後で話しましょう」
「そうですね。ではこの辺で失礼」
そう言って王女ライラの部屋を出る。すると、先程爺と呼ばれていた人から小さい声で声をかけられる。
「ヴィーラ殿」
「ロン爺?どうかしましたか?」
「かの勇者殿は帰ってきてくれるのでしょうか。ライラ様を幼い頃から近くで見守り続けてきた私としては彼がいる事が本来のライラ様を形作ってくれる。そのように見ていたのです」
「帰ってきてくれるかは俺にも分かりません。ただ、ライラ様は彼と出会ってから口数も笑う回数も増えたと思います。あいつが、蒼矢がいたからだと思いますね」
「同意見にございます。箱入り娘のように管理され生きてきた姫様には輝いて見えたでしょう。何者にも縛られようとはせず、正しいと思う事はきちんと主張し、先代の国王にまで盾突くあのお姿はカッコイイと見えたでしょうな。私も眩しく見えましたから」
「まあ、世渡りと言う点では褒められたことではないですけど。それではこれにて」
「はい。呼び止めしてしまい申し訳ございません」
「また何かあれば話しかけていただければ嬉しいです」
そう言ってヴィーラは鍛錬場へ向かった。
その背中を見ながらロン爺は呟く。
「貴方も姫様がお好きなのに応援すると言えるのですね。その心意気は男として大したものですよ。でも、彼が帰ってくる確約は限りなくゼロに近い。ライラ様は後2年しか待ってもらえないのです。その時、権力目当ての有象無象とは違うあなたは勇気を出す時なのですぞ」
その眼にはどこか憂うような、どこか覚悟を決めたかのような。そんな印象を受けるような目力があった。
場所は変わり、魔王の居城。
ディールは部下と会議をしていた。
「この情報は誠か?」
「はい。確かな筋からの情報にございます」
「むぅ・・・勇者がいないだけでこうも抑止力としての効果が薄れるとはな」
「この者達の目的は戦争の再開。今は和平協定も結ばれ様々な種族の国が交流を出来るようになり喜ぶものが魔族にも多いです。しかし、多人種、亜人種を快く思わない者達には生きにくい世の中になってしまったというのも事実にございます」
「確かにな。私は間違った選択をしたなどとは思っていない。だが、クーデターを起こそうとする者達の情報も聞いてはいる。好き嫌いは個人にあるから下手に弾圧はしたくないし・・・」
「どうなさるおつもりで?」
「とりあえずは話合いで考えを改めてくれた者達もいはするが圧倒的少数。魔族らしく力で決めるのも選択肢にはあるが、それをしない蒼矢のやり方を継ぐと決めたのだ。それは国が崩壊しそうになった時の最終手段と考えているからのぉ」
「左様で・・・って接触したんですか?クーデター派と!?」
「ああ」
「お一人で?」
「ああ」
「なんでそんな危ない事を独断専行でやっちゃうんですかぁ!」
「いや、だって相手が分かってるなら何が不満なのか聞いて解決できるならすればそれで終わるかなーって」
「もう少し相談して頼ってくださいよ・・・」
「私も同意見ですディール様」
「アル、ヴェローナ。すまん」
同席をしているのは魔王軍において策士と呼ばれる政策部署の長、アルヴェナルとその美貌、計略を用いて国の財布を管理する経済部署の長、ヴェローナである。
両者ともにデスクワークが中心だが、かつて魔王の元に行かせまいと蒼矢たちと戦った時にはライラ、魔法使いアリシアの2名が「1対1だと負けるかも」と言わせたほどの実力者である。
ちなみに蒼矢とディールがやり合った時にはどちらかは死んでしまうのではないかと心配するほど根は優しいのだ。
「でも驚きでした。あれだけ他社に心を開くことに慎重だった魔王様が勇者とご友人になられた時は。私達ですら10年はかかったのに」
「蒼矢は素直だからな。本当に仲良くなりたいと思っているのは分かってしまうのだ。そういう者には心を開いてしまう。仕方なかろう」
「私達は素直ではないと?」
「蒼矢より素直とは言い難いな。それでも余は其方らと心を通わせられて良かったと思っている。戦をやめると宣言したあの日、少なくない数の魔族が余の元を離れてしまった。戻ってきた者も多いが、其方らはずっと付いてきてくれてたろう?嬉しかったのだ」
「そ、そうですか・・・」
「あ、ありがとうございます・・・」
「???何で其方らが感謝を言うのだ?」
ちなみにディールは他人の感情の機微には良く気付くが、自分に関してはTHE・鈍感。二人はとても苦労している。
「さて、脱線してしまったが今後の方針を改めて話していくか」
「はい」
「仰せのままに」
和平を望む王がいるから魔族領は今日も平和である。
その頃、とある場所の地下では再戦を望む者達が秘密裏の会合を行っていた。
「時は満ちる・・・血沸き肉躍る場所、そここそが我らが望む楽園・・・」
「私は戦いには興味ありませんが人間以外を隔絶し、私の理想郷を作れるならいくらでも戦場など作り出して差し上げましょう」
「・・・俺も亜人種とか魔族はあんまり関わりたくないけど、お前らもかなり頭ぶっ飛んでるよな」
「嫌いか?」
「バカ。最高だ」
「ならば良い。腑抜けた奴らを一掃し、乱世の時代を我らの手で始めよう。素晴らしき乱世の時代を」
「はい」
「おうよ」
カッコイイ雰囲気を醸し出しながら席を立つ各々。
しかし一人が口を開く。
「そういやよ、かの勇者パーティーの面々と魔王はどう始末すんだよ」
「心配には及ばん。私はこれでも数少ないSランク冒険者の一人。蹴散らしてくれよう」
「いや、あんたあの勇者に惨敗してたじゃん。それと同レベルに強い魔王をどう倒すんだよ」
「あ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・なんか言えよ」
「計画は一時凍結!魔王を含めた強者をどうにか出来る考えが出るまで中止!!」
「まあ、失敗するよりはマシですが」
「うわ、ダッセぇ」
「やかましいわ!!」
世界規模の戦争の再来。それが訪れるのはまだ先のようである。
※このSランク冒険者は開始14秒で倒されましたがいつか過去編で書けたらいいなって思ってます。




