↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/120

55話:終戦

その怪物に感情の機微は無い。ただそこに存在して勝手に脅威と思われるだけの存在。故に感情などは無い。その怪物はそう認識していた。


だが怪物は初めての感覚に襲われていた。先ほど自分に触れてきたあの男は体格、気迫が強者の物とは見受けられなかった。自分は強い生物、その自負があったのだ。しかし、蓋を開けてみれば初めての感情に支配されることとなったのだ。初めて感じる死の気配。あの時とは比較にならないほど濃密。これはいけない。そう感じたのも束の間、自らの身体はあり得ない程の距離を飛ばされた。


その瞬間、怪物は悟った。そうか、さっきの感情は焦り、今のは困惑という物か。それは理解したが同時に疑問も生まれる。


何故私は焦ったのだ?


何故私は困惑しているのだ?


怪物はこれを解き明かしたいと思った。自らの感情にここまで変化を齎す存在、これとぶつかれば自分は更に強くなれる。そう確信したからである。


ここまで考えて戦おうと思った時、今度は畏怖を覚えた。


いや、正確には戦慄というべきであろうか。先程までは強者が2人と矮小な生物と思っていたがこちらに向かってくる5人はどれもが自分を遙かに凌駕する存在に見えたからである。


先程までは闘気の片鱗も見えなかったのにその生物は5人の中で最上の闘気を放っている。他の者達も負けず劣らずの存在感があった。


そして確信した。


「私は・・・勝てない。いや・・・死ぬ」


それはあまりの格の違いに戦意を削がれた剣闘士のような思考だった。


同時に敗北を悟った瞬間である。


















「なんかあいつ、委縮してねえか?」


「咆哮も出さねえって事は戦意喪失か?」


「そうですね・・・これは殺すのが可哀想ですね。かと言って放置しておくには危険すぎますし・・・」


「人化して人間に擬態できるのであれば我々の仲間として迎え入れる事も吝かではないのですが・・・」


「どうすりゃ良いんだよ・・・こんなあっさり幕引きとかこのメンツ揃った意味だぞ?」


「いや、ここまで戦意を失ったのはマスターが本気になったのと我々がいるからだと思いますが」


おかしい。俺達はさっきまでこの怪物をどう倒すかを考えていたはずだ。しかし、今はこの怪物をどうやって被害なく助けられるかになっている。目は無いからつぶらな瞳とは言えないがこっちに何かをお願いしているかのような感じがする。


まずはお話でもしてみるか!あれ?人間の言葉分かるのかな?英語が分からないんだと日本語は絶望的でござる。


「あー、エクスキューズミー?」


「rrrrrrr?」


「あ、これダメっぽい」


「マスター、私の言語翻訳を使ってみるのはいかがでしょうか」


「リッタさん、流石です。頼んだ」


「はい」


リッタの言語翻訳はレベル6。最高値は7らしいのでほとんどが翻訳可能と言う事だ。この子TOEIC満点夢じゃないんじゃ・・・


「あの、マスター」


「はい」


「この蛇なんですけどずっとムリ、カテナイばかり言ってますが」


「・・・えーと・・・巴蛇さん?で良いのかな?」


「rr?」


「はい、何でしょうかだそうです」


「怖がらせてしまってすみません」


「rrr?rrrrrr!」


「え?殺さないの?僕を!と言ってますね」


「いや、戦意の無い相手を殺すって言うのは忍びないというかなんというか」


「そういえばですがあなたは人の姿は取れますか?」


「rrrr」


「封じられてるから無理ですか。それはどうやったら解けます?」


「rrrrrrr」


「この杭を破壊?抜くのではなく?」


「・・・ベラ、ハダル、グロニス。なんでだろう、意思疎通が出来る事の素晴らしさを今感じています」


「寸分の違いなく同感だ」


「そうですね。私もレベル3は所持してますが分かりませんから」


「言語という物の素晴らしさ、まさかこの年になって痛感する事になるとは」


「マスター」


「はい、なんでございましょうかリッタさん」


「何故敬語なんです?この杭を破壊してそこから漏れ出る魔力を体内に取り込めれば人化出来るようですが」


「そうなのか!リッタさんがいなかったらほんっとうに分からなかったから感謝しかないよ」


「え・・・そんな泣くほど・・・」


「こっからは俺の仕事だな。おい蛇!すぐにどうにかしてやるから待ってろよ!」


「rrrr!」


「ありがとうだそうです」


「俺も育てよ言語翻訳。レベル2だもんな」


その杭を調べてみるとディスペルによる解呪だけで消える事が分かった。


「よし、そんじゃ始めるぜ」


そうしてディスペルをかけると噴き出た瘴気のような物に包まれる。


「マスター!」    「(ご)主人(様)!」


そのまま意識が遠のいた。

























真っ白、本当に真っ白な世界。


自分が今座っている場所が本当に地表なのか。それすら曖昧に思えてくる世界。


「ごめんなさい、いきなりこんな所に呼んでしまって」


前を向くと優雅にお茶を飲む女性がいた。とても綺麗でどこか儚い感じを醸し出すその女性はこっちを向いて微笑む。


「あなたは」


「自己紹介ね。申し訳ないのだけれど名前は言えない。どこの誰かは言えないの。ただ綺麗なお姉さんと思ってくれればそれで良いわ」


「・・・それで?自称綺麗なお姉さんは私に何の用です?」


「あなたはあの子を救おうって思ったでしょ?そう思った人間に興味があるのよ」


「あんた、あの蛇の関係者か。あれは何者なんだ?」


「あなたは巴蛇と聞き及んでいるのよね?それは半分当たりで半分間違いよ。彼女には名前を付けた。彼女には來妃(らいひ)という名前があるの。そう呼んであげて。あの子は貴方が育ててあげられるなら連れて行って良いわ。無理ならあの杭はそのままにしておいて」


「育てる?俺の十倍は生きてんじゃねえのか?」


「あなたはその年で普通では決して望んでも触れられないような経験をしているわよね?だから彼女に色々な景色を喜怒哀楽をご法度も教えてあげられるでしょ?」


「待て!なぜその事を知っている!それはごく一部しか知らない筈だ!俺が巴蛇と聞いた事も東雲とあいつら以外にはいない!あんたはいったい何者だ!」


「あら、口を滑らせてしまったかしら。それより聞かせて?あなたはあの子を導いてあげられる?あの子を育てる事にはあなたにメリットがあるのだけれど・・・ね?」


「育てる?仲間にする!俺は力ある者に何かを教えられる程の強さは無い。それで良いのか?」


「・・・そう、桐生蒼矢、あなたはそう答えるのね。私を見て欲情しない理性、そしてやはりあなたは優しい。あなたになら任せても良いわね。彼女を宜しくね」


視界が暗転していく


「待て!こっちの質問に答えろ!お前は何者だ!」


「いずれまた会うわ。それじゃ頑張ってね?異世界の勇者さん」


「!?」


そこで意識は途切れた。
























「ん?俺は・・・」


「マスター!」


「目覚めたか!」


「痛みなどは!」


「私は分かるか?」


「痛みは無いし、リッタ、ベラ、ハダル、グロニス。ちゃんと分かるよ」


「ほっ、良かったです」


「そういえば來妃は?」


「らい・・・ひ?」


「お兄さん。なんで僕の名前を知ってるの?」


「ん?」


声の方向へ皆で振り向くとショタにしか見えない子供がいた。


「って事はあの蛇か?」


「うん」


「・・・來妃、帰るか」


「かえ・・・る?」


「おう。俺の家に」


「マスター、お母様には何というつもりで?」


「拾ったで良くね?」


「もうそれで良いですかね」


「でも、戸籍は?」


「あ」


また色んな人に術かけまくってデータ入力するのか・・・まあ良いか。


「いや?待てよ・・・権力者に頼れば・・・」


俺は妙案を思いついたのでそれを説明すると


「あー・・・ありよりの・・・ありですね」


「まあそれが最善だろ」


「だよな!よしそんじゃ來妃。俺と一緒に家に帰るぞ」


「?うん!」


こうして新たな家族が出来た。


俺達はその場を後にして帰路につくのだった

次回からは旅行編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。